骰子の眼

music

東京都 渋谷区

2011-06-01 12:35


「反骨の精神、皮肉、江戸時代のアバンギャルドなところに惹かれる」モリイクエのアニメーションライブ『黄表紙プロジェクト』

渋谷アップリンクの公演は、メンバーに巻上公一、内橋和久そしてトーク・ゲストにジム・オルーク、中原昌也を迎え6/17、18開催。
「反骨の精神、皮肉、江戸時代のアバンギャルドなところに惹かれる」モリイクエのアニメーションライブ『黄表紙プロジェクト』

新しいDVD『黄表紙』をレーベルTZADIKから2011年2月にリリースした、ニューヨークを拠点に活躍するアーティスト・モリイクエが日本でのライブ・パフォーマンスを行う。黄表紙とは、江戸時代に流行した、江戸っ子気質や風俗を当時の言葉と絵で表現した絵物語のこと。江戸時代の絵本からインスピレーションを受けた今作について、レコーディングにも参加しているヒカシューの巻上公一を中心に日本のミュージシャンを迎えての待望の来日公演について、そして彼女のクリエイティブの源について聞いた。

私の創った背景に置いて話を見せる
デジタル紙芝居みたいな感じ

──リリースされたDVD『黄表紙』は、その名の通り、黄表紙がテーマとなっています。江戸時代が舞台ですが、多くは教訓的な内容とそこはかとないユーモアがある言葉とモリさんのビジュアルと音によりとても親しみを持って観ることができました。モリさんが黄表紙をモチーフに作品を作ろうと思ったきっかけから教えてください。

ありがとうございます。私が黄表紙に出会ったのは,もう20年以上前になりますが,ジョン・ゾーンさんに“黄表紙、洒落本”という本をもらったのがきっかけでした。なんておもしろいんだろうと思って私の中のどこかにずっと残ってました。
それで,2000年位からコンピューターを使うようになって,音楽とともにイメージを作り始めて 最初にバリ島の天井画を動かして“BHIMA SWARGA”という題材をもとに作品を作って、そこからいろいろな可能性が見えてきました。
そして次は何を題材にしようかなという時,そしてそれがたまたまニューヨークのジャパンソサエティーが私の30周年記念コンサートというのを催してくれた時と重なってそのコンサートの為に新しい作品を作ろうとした時この黄表紙が再び浮かび上がってきた訳です。口上は絶対巻上さんだと思っていたので,最初の上演は巻上さんと2人だけで 心学早染草をしました。

──モリさんが黄表紙にもっとも惹かれる部分はどこでしょうか?

江戸時代、粋なセンス、抜群のユーモアに隠された本音、反骨の精神、皮肉、滑稽無形な江戸時代のアバンギャルドなところに惹かれました。

──モリさんは2000年以降、コンピューターにより音楽とビジュアルが融合した創作活動を続けてきましたが、今作においてはどのように作曲を行っていったのでしょうか?

心学と手なし観音は映像がほぼ出来たところで、最初は一人で音を作って,その後,巻上さんやマークナシーフさんに頼んで,オーバーダブしてもらいました。藍染めは3人でたくさんの短い即興演奏を録ってそこから各チャプターに音を編集していきました。

──モリさんが創作の際にインスピレーションを受けるものというのは、7~80年代、それからラップトップを用い始めた頃、そして現在と、それぞれの時代で変化はありますか?

もちろんそれぞれの時代に影響されたものはありますが、黄表紙は80年代に出会ってたくさんインスパレーション受けてましたし,90年の終わりにも月岡 芳年の浮世絵に魅されてアルバム作ってるから,時代や使ってる道具にかかわらず惹かれるものは、変わってないという事ですね。いつもフィルムのサウンドトラック音楽を創りたいと思ってたので、架空のサウンドトラックというのがが多くの私のアルバムの根底になってます。そのうち映像も自分で創りたくなったんです。
コンピューターの進歩と出会いはそれも可能にしてくれて2000年代というのはそのデジタル技術を駆使して,音楽と映像を創る事と同時に即興演奏で楽器のように演奏する事を展開させてました。

──今回の『黄表紙』を含め、モリさんの描くビジョンは、とてもプリミティブな部分と、極彩色のサイケデリックな感触というのが特徴にあると思います。これはモリさんが心象風景のよなものとして持っていた色彩感と言っていいのでしょうか。

サイケデリックなものは好きです。いつも変化してしているアブストラクトなイメージはバックグラウンドとして、平面的な線書きの画に奥行きや広がりを作ってくれますし。素材のキャラクター達をオリジナルの背景から切り離して,私の創った背景に置いて話を見せるデジタル紙芝居みたいな感じで始めたんです。

──6月より日本各地でライブ・パフォーマンスも行われますが、今回のライブで共演するアーティストの方について、どんな点に信頼を寄せているかなど、ご紹介をお願いします。

元永拓さん(尺八)と神田桂子(パーカッション)さんとは今回初めてでとても楽しみです。基本的の即興演奏なので、楽しんでやっていただければ,何よりなんです。
巻上公一さん(語り・口琴・テルミン)とは最初から一緒にやってもらっていて今まで,いくつかの違うバリエーションのライブもやってます。
その一つをオーストリアのフェスティバルで上演した時内橋和久(ギター、ダクソフォン)さんにも一緒にやってもらいました。
YOSHIMIちゃん(パーカッション、他)もジム(・オルーク シンセサイザー)もキム・ゴードンとのコラボレーションでの即興演奏はたくさんやってきてるけど、黄表紙をやってもらうのは初めてで新しいバージョンが出来るのが楽しみです。

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──今回のライブは、インプロビゼーション的な部分もかなり盛り込まれると思いますが、どんな構成で行われるのでしょうか。

心学と手なし観音はビジュアルも音もライブで即興です。やる場所によってミュージシャンの構成が変わり,楽器もがらっと変わるので,毎回違うものになるはずです。藍染めも即興ではありますが,即興の仕方,音の出し方に少し注文が付きます。

──ニューヨークを拠点に長きにわたり活動を続けていらっしゃいますが、ニューヨークで活動することのメリットはどんなころにあると思いますか。創作に没頭できるからでしょうか?

地理的なメリットはあると思います。ヨーロッパにも近いし,いつもいろいろな人が集まってくるところでもあります。
でも一番はここに長い間に積み立てられたある種の音楽のコミュニティーがあるからです。ニューヨーク市は小さいから,交通に時間やお金がかからないのもいいですね。

──音と映像のコラボレーションはこれまでも様々なかたちで試みがなされてきましたが、今回の『黄表紙』のように、アナログな質感をデジタルで表現するという方法には、今後さらに探求されるべき可能性があると感じました。モリさんは今回のような語法をまだまだ突き詰めていかれる予定ですか?それともまったく違う方法論に進んでいかれるのでしょうか?

今、人形劇を作ってそれを映画にしようとしてます。人形を作るところから始まって,背景を作り,それらを動かして,撮るという新しいアナログの部分が増え今までのオールデジタルのプロセスに新しいディメンションが加わり、又たくさんの可能性が見えてきました。平面から立体に移った事で,人形を動かすメカニズムを探るとか、マルチメディアのミニシアター的なライブとかインスタレーションとか今度は,実際のスペースでデジタル/アナログのイクエの世界を作ってみたいです。

(インタビュー:駒井憲嗣 取材協力:巻上公一)



モリイクエ プロフィール

1977年に東京からニューヨークに移り、アートリンゼイ等とともに、バンドDNAを結成、ドラムを叩き始め、ノーウェーブというパンクからニューウェーブへと遂行する間のニューヨーク独特のノイズ+アート+ロックを作る。その後、デジタル楽器を独自に演奏し始め、ヨーロッパ、アジア、アメリカで多数の音楽家と多くのフェスティバルなどで、ライブ演奏を続けながら、自身のアルバム及びコラボレーションで多くのレコーディングを発表している。映像を使ったエレクトロニクスのソロ演奏の他、メフィスタというトリオ、ジーナパーキンスとの共演ファントム・オーチャードの他、ジョン・ゾーンやキム・ゴードンのプロジェクトにも参加している。
2011年6月に開催される日本でのライブの後は、7月にデンマークでコペンハーゲンのサックス奏者のプロジェクトLotte Ankerに参加。Fred Frith、Chris Cutler、Phill Mintonらとコペンハーゲンジャズフェスティバルで演奏することが決定している。
また8月には、Mark Nauseef、Evan Parker、Bill Laswellらと1年をかけて制作したニューアルバム『near nadir』をTZADIKからリリースする。

『黄表紙』DVDウェブサイト
http://web.me.com/ikuem1/Site/KIBYOSHI.html

▼『黄表紙』より





モリイクエのアニメーションライブ『黄表紙プロジェクト』
2011年6月17日(金)18日(土)

会場:渋谷アップリンク・ファクトリー [地図を表示]
会期:2011年6月17日(金)19:00開場/19:30開演
2011年6月18日(土)18:30開場/19:00開演
料金:当日3,000円/予約・前売2,500円(ともに1ドリンク付)
出演:モリイクエ(アニメーション、エレクトロニクス)
巻上公一(語り、口琴、テルミン)
内橋和久(ギター、ダクソフォン)
トーク・ゲスト:ジム・オルーク(17日)、中原昌也(18日)
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