骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2011-04-21 00:17


「トリックではなく〈人〉を撮る」杉本篤『ME AND MY FRIENDS』が捉えた等身大のスケーターたち

テニスコーツ、oono yuukiほかアコースティックな響きを大切にするミュージシャンが音楽を担当。
「トリックではなく〈人〉を撮る」杉本篤『ME AND MY FRIENDS』が捉えた等身大のスケーターたち
撮影:杉本篤

bluefilmproductsという名義で日本のスケートボード・シーンで気を吐く映像作家・杉本篤の新作『ME AND MY FRIENDS』がリリースされた。スケーター達との精神的な結びつきをベースに、私たちが気づかずに過ごしてた東京の風景のなかで心地良く滑るスケーターたちを捉えている。自らもプロスケーターを志していた彼がスケーターたちと併走しながら捉えたスピード感溢れるカットと、テニスコーツをはじめとしたアコースティックな音楽のコラボレーションにより、これまでの日本のスケートビデオとは一線を画す仕上がりとなっている。

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撮影:木ノ内 大介
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撮影:杉本篤
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撮影:杉本篤

体裁だけが整っているものには魅力を感じない

──前の『BLUE』から4年振りなんですが、ずっとその間映像を撮りためていたんですか?ひとつの作品としてまとめようという気持ちはあったんでしょうか?

そうですね、休まず撮っていました。『BLUE』を撮り終わって、作品を発表したときには自分のなかでいろいろ思いができていて、その反省を活かしたかったんです。

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『ME AND MY FRIENDS』の杉本篤監督

──どんな反省点があったんですか?

大学生のときから本格的に映像を作り始めたんですが、映像のプロとして食べていきたいというのがあって。当時プロというくくりを考えたときに、生活をしていくために自分の作品をなんとかお金に換えなければならないって意識があって。もちろん自分の作りたいものをつくりたいってのが一番にあるんだけれど、心のどこかで売れるためにはどうすればいいか、とか、プラスアルファでこうしたらもっと見てもらえるんじゃないかということを考えてしまっていたところもあったんです。いろんな人の意見が反映された作品になったので、発表したときに、自分の作品なんだけれど、なんだか「これが僕の作品です」と言えないような感じがあったんです。

──では次に作るときは、もっと自分のやりたい表現に忠実でありたいと。

そうですね。情報を伝えるメディアとしての役割よりも映像作家として想いを作品にしたいという気持ちがより強くなっていきました。多くのスケートビデオというのはトリック重視のものが多いので、よほどの作品でない限りトリックが消費されてしまうと観なくなってしまうものが多いんです。良い作品というのは何年経っても心に残りますよね。僕も誰かの心に深く残るような、5年後、10年後にもまた観たいなと思ってもらえるものにしたいなという気持ちがあったんです。

──それは、杉本さんが無我夢中で周りのスケーターたちの映像を撮っていくなかで生まれたコンセプトだったんですか?それとも映像作家、ビデオグラファーとしての目標や憧れる人がいてそういう気持ちになったのですか?

どんどん作りたいものを突き詰めていくと、考えざるをえない状況になってしまったというか。自分のやっていること、やってきたことを確かなものにしたかったのかもしれません。単純にトリックを曲に合わせて編集するということでは心が満たされなくなっていきました。始めたきっかけは高校生の頃から、遊びで家庭用のハンディカムで撮り合ったりしてたんですが大学生になって上京して、日本のトッププロを撮っているカメラマンの先輩が近くにいてその方に作品に数カットですが出演させてもらったんです。上京してきた僕が市販されるような作品に出演できたことに感動して自分もそんな人に夢を与えられる仕事がしたいって思ったのがきっかけでした。

──そこから、自分の映像で個性が発揮できたと実感するときってあったんですか?

最初は「それっぽいもの」というか、お手本があって、その枠にはまろうとしていたところがあって。外国のビデオだったらこうだな、とか。他の分野で作品を作っている人もそうだと思うんだけど、なんとなく自分で既存の枠にはめようとしてしまうところがあって。それが『BLUE』の反省点だったんでしょうね。もちろんその時でも自分なりの日本っぽさ、自分らしさを出したつもりではあったんですけど。その反省をいろいろ考えながら、今回の作品を作っていくなかで、より自分の作りたいものや表現したい世界が固まっていったんです。それはアングルや機材、映像の質感だったり、全体のいろんなことになると思うんですけれど。

──4年間続けてきて、その気持ちにぶれはなかったですか?

想いを形にしたいという気持ちは常にあったし、最終的に作りたいというものもはっきりしていましたね。体裁だけが整っているものにはそこまで魅力を感じていなくて、もっと不器用であったり、無骨だったり、かっこわるくても伝わるものを作りたかったんです。熱があるというか、とにかく伝わるものを作りたいというのがあって。

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撮影:杉本篤

僕が育ってきた街、生活している街で撮れた

──高度なトリックよりも、それぞれのスケーターの人間味、パーソナリティがにじみ出ている作品だと感じました。

もちろんすごいトリックを撮ってみたいって気持ちももちろんあるんですが、今回はそこよりも、僕じゃなきゃ撮れない仲間の表情とか、つくれないものを意識して製作していました。なので撮影対象もしぼって、仲間や意志や感覚的なところがより近い人と一緒に作った作品だからでしょうか。

──単に被写体として撮るだけではなくて、滑る人と監督との信頼関係を大切にしたんですね。

そうですね。実際にひとつのトリックを撮るのに、5時間とか6時間、へたしたら1週間、2カ月、3カ月という時間を費やしてひとつの技を撮ることもあるんです。スケートボードの撮影はいつ成功するか解らないので常に気が抜けません。納得のいくアングルで撮影するために、その一瞬に全力をかけられるというのは、人間同士で繋がっていないと撮れないと僕は思っています。どこかで仕事っぽくなってしまうと、そこには熱がなくなってしまうようにも思います。

──それもスケーターとの信頼関係ゆえですか?

そうですね。あとスケートスポットについて言えば、基本的には誰かが先にやってしまっては価値が落ちてしまう場所もあるのでスケーターもこちら側もお互いに信頼してスポットを紹介しほかのスケーターに情報が漏れないようにすることもありました。スケートスポットというのはそれほどスケーターの中では価値のあるものなのです。

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撮影:木ノ内 大介

──いわゆる映画のロケハンというよりは、撮りたいと思った人が滑りたいところに行って撮影する、という感じだったのですか?

いえ、今回の作品に関しては、僕が場所を見つけて、ここだったらこの人のこのトリックがいい、と思った場所で、自分の繋がりのなかでお願いする、というケースがほとんどでしたね。というのも先にも述べましたがこの作品に自分自身を投影しようとしていたからです。。ただライダーも自分の表現をするために滑っているのでイメージを押し付けるのではなくお互いによく話し合ってトリックを決めていきました。監督とはいってもそこは共同作業みたいな感じでした。例えば僕が見つけてきたスポットで、ライダーにここでこの技はどうだろう、と提案しても、逆にライダーのほうからこっちの方がいいんじゃないと提案もあって。そっちの方がいいということもあるので。みんなとの共作というか、それぞれの役割を果たしたというような作り方でした。

──あるスポットを見て、そこから想像力を働かせるんですね。

そうですね。どれだけ想像力を発揮できるかが良い映像を残すカギだと思います。 スケートボードって服装から町の使い方からルールはなにもないから、ほんとうに個性がよくでるものだと思います。それが滑り方だったり手足の動きに繋がるんですけれど、スポットとライダーのイメージとがずれてしまうと、映像はぜんぜん良くなくなってしまうんです。

──場所ということでいえば、今回の作品は東京の街が今までと違うように見えるところが新鮮でした。東京という場所そのものに対する思いというのは、作っているときにありましたか?

当然ありました。というのも、僕は地方出身で、東京という街にあこがれもありました。例えば前までは撮る場所に自転車とかがあったときに、日本っぽく見せないようにするために、隠してたんです。そこまで外国に憧れていたわけではないけれど、どこか外国っぽくしようと、それが映ってしまうことがかっこわるいことだと思っていたんです。なんとなく、外国のスケボーのビデオはかっこいいのに、日本で撮るとかっこわるくなっちゃうよね、みたいな風潮もあったり、いい場所ないもんね、と日本でやることに諦めている人も多かった。でも、そういう考え自体が諦めなんじゃないかって。ほんとかい?というところからはじまっているんです。

──杉本さんが感じる東京っぽい場所、日本を感じさせる場所で意識的に撮るようにしたのですか?

そうですね、基本的には僕がイメージする東京、という意識よりは、僕が育ってきた街、生活している街で撮る事を意識していました。。またロケーションで言えば、最近できたてのきれいな建物はあまり興味がありませんでした。それよりも生活感のある場所や誰も目に留めないような路地裏などその場が持っている空気感を大切に映像に残していました。気になる場所があったらすぐ手帳にメモして(笑)、ここだったら誰かなと。スケボーのビデオは映画みたいに最初からかっちりとした台本があるわけではないので、作っていくなかで路線変更しながら、この作品に至ったという感じです。

たとえスケボーをやめたとしても、僕のイメージするスケーターであり続ける人たち

──カメラは何台使っているんですか?

撮影は僕ひとりだったので、どうしても2カメが必要なときは置いて撮ったりとか、撮れる人に頼んだりして回していましたけれど、基本的には1台でした。海外のスケートビデオはマーケットも大きくなって、クオリティが上がっていて、画質も機材も見せ方もすごく体裁が整ってきているんです。けれどそんな風にハリウッド映画みたいなものになっていく一方で、なにか腑に落ちない自分がいました。僕がスケートボードを始めた時代はスケートボード自体がまだぜんぜんお金になってなくて、いま僕がやっているような友達同士を撮る作品が日本に輸入されて売られていて、それにしびれていたんです。なんでそれに感動を覚えたのかを考えたら、友達を撮ってる、要するに彼らは人を撮ってたんです。近年の映像はいい機材でできるだけかっこよく、という傾向にあるけれど、僕はあくまでドキュメンタリーというか、2カメにして何回もテイクを重ねるみたいなことはなんとなく嘘っぽくて。できるだけその場の空気感や瞬間の勢いみたいなものがでるよう誇張がないよう心がけました。

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撮影:杉本篤
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撮影:杉本篤

──それから音楽もとても特徴的で、ありがちなミクスチャーっぽい曲やパンクではなくて、アコースティックな曲や、日本語の曲がふんだんに使われています。

音楽に関してはすごく悩んでいたんです。何人かのアーティストは知ってたのですが、他の日本のインディーズのミュージシャンは正直あまり知りませんでした。日本語の音楽を毛嫌いしていたわけではないのですが、どちらかというと海外の音楽を好んで聞いていたということもあるし、日本でスケートボードに合うような音楽をやっている人なんていないだろうって思ってたんです。でも、今回の作品は精神的な部分をすごく大切にしたかったし、やっていることは違くても精神的なところで自分と同じ感覚で世界を生み出している人たちと作ったら、それはすごい力のある作品になるんじゃないかな、と。そう思ってから、日本人のアーティストをあらためてたくさん聴きだしました。否定的になるのではなくジャンルを問わず向いているベクトルの近いアーティスト同士が、繋がれるところは繋がって一緒にいいものを作っていけたらいいなという気持ちがあります。

──音楽の使用許諾に関してはどうされたんですか?

ひとりひとり連絡をとりました。メールだったり、直接ライブに行って話をしたりしたんですけど、ただ単に「音楽を使わせてください」「いいですよ」という関係では作りたくなかったんです。同じ方向を向いている人たちと一緒に作品を作りたかったので、自分の意志とか作品のテーマを伝えて、先方の考え方を聞いた上でお互いに一緒にやりたいなと思える人とやることを最も大切にしていました。なので音楽を探すだけで一年半くらいかかってしましました。レーベルからなにから片っ端に調べていって、最終的にたどり着いた人がアンダーグラウンドにいる人たちだったんですよね。自分が知識ゼロの状態で本当にかっこいいと思える人たちが、たまたまそういう所でやっている人たちでした。

──この作品が違うジャンルの人たちが繋がるきっかけとなったんですね。

実際ミュージシャンと話をして、自分とすごく近い感覚を感じることもできました。そういう意味では最終的には、単純にスケートボードの映像作品としてだけではなく、音楽をやっている人たち、自分も含めみんなの想いを一つにしたドキュメンタリー作品になったような気がします。

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撮影:杉本篤
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撮影:杉本篤

──音楽でもスケートでもアートでも、たとえいびつでもその人が熱中して、情熱を傾けて、積み上げていったものだったらジャンルを問わずかっこいいんだ、ということをすごく感じました。

僕がスケボーに初めて興味をもったのは中学生のときなんですが、不良が一番かっこいいみたいな時代があるじゃないですか。僕も見ての通りそういうタイプではないんですが(笑)、そういうものに憧れたりもして、当時流行っていたビジュアル系なんかにも違和感を感じながらも、自分は何が好きなのかを見つけられなかったんです。でも、ある時近所の公園に行ったら、学校にいたら絶対に目立たないような人たちが、見たこともないような当時のスケーターファッションをして、スケボーで飛んでたんですね。それで、この人たちはなんてかっこいいんだろう、って。決して人にひけらかすものではない内面的な強さ、センスをすごく感じたんです。

──この作品を見ても、決して華々しいだけのものじゃなくて、みんな練習もしてるし、鍛錬を積み重ねてようやくひとつのトリックができる様は地味だし、ハード。それぞれのスケーターのタフなところや繊細なところなど、人柄の部分が本当に何よりも惹かれる部分だと感じます。

僕のフィルターを通してですけど、今回の作品に参加してくれた人たちは、スケートボードはもちろんですが人としてもかっこいいですし、たとえスケボーをやめたとしても、僕のイメージするスケーターであり続ける人たちだと思っています。そういう自分の持っているスケーター像を、今回参加してくれてる音楽のアーティストにも感じました。僕が感じていたスケーター像って実は単純にスケーターというくくりじゃなかったのかもしれません。まず人としての根っこがかっこ良かったのだと思います。そこにすごく魅力を感じて今まで続けてきたんだと思うし、それはこれからも変わらないと思います。

(インタビュー・文:駒井憲嗣)




杉本篤 プロフィール 

群馬県出身埼玉県在住。東京を拠点として活動。2006年にリリースされた『BLUE』の制作にあたり、2003年からbluefilmproducts名義での活動を開始。2011年4月、新作『ME AND MY FRIENDS』を発表した。
bluefilmproducts公式HP




■リリース情報

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『ME AND MY FRIENDS』
発売中

監督:杉本篤
出演:朝日奈和弘、原博章、山村慎、柏祐介、松崎晃、山田勇二、村井大輔、大橋竜馬、出雲秀陽、澤田洋次郎、清水啓明、和田孝志、奥村竜一、伊澤早穂、毛呂井駿、廣瀬祐樹、真壁凪、殿塚竜夫、他
音楽:提供音源 : oono yuuki、tenniscoats、neal nao hendrix、aminome、gay division、mamushi、ねろ(赤い疑惑)
オリジナル音源:澤田洋、SHAFTT、長谷川達、加藤宏治
製作:bluefilmproducts
2011年/50分/日本

ULD-607
1,995円(税込)
アップリンク

★作品の購入はジャケット写真をクリックしてください。Amazonにリンクされています。




イベント情報

『ME AND MY FRIENDS』DVD完成記念上映会
2011年4月21日(木)渋谷アップリンク・ファクトリー

開場19:00/開演19:30
上映:『ME AND MY FRIENDS』
ライブ:あみのめ(音楽)+杉本篤(映像)
oono yuuki(音楽)+杉本篤(映像)
(本編の上映終了後にコラボレーションLIVE)
料金:予約2,000円/当日2,300円(共に1ドリンク付)/UPLINK会員1,800円(1ドリンク付)
詳細はこちら


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