骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2011-03-04 12:52


知的障害を持つ僧侶がメンバーのバンド、ギャーテーズのベールをはぐドキュメンタリー『FREAKOUT』矢口将樹監督の決断

「国の問題や障害者の問題をテーマに扱っているつもりはなかった」3/5(土)より公開
知的障害を持つ僧侶がメンバーのバンド、ギャーテーズのベールをはぐドキュメンタリー『FREAKOUT』矢口将樹監督の決断
映画『FREAKOUT』より、弘願寺の創設者・和上 (c) TRICKSTER FILM

知的障害を持つお坊さんをフロントに擁し、頭脳警察の石塚俊明や元・裸のラリーズの高橋ヨーカイ、フリーキーマシーンの松本ケンゴといった名うてのミュージシャンが参加するバンド・ギャーテーズを描く映画『FREAKOUT フリークアウト』が3月5日(土)より公開される。
1995年に結成され即興演奏を主体に活動するギャーテーズのリーダー・角田大龍と、彼の恩師である韓国人・和上(わじょう)[釋弘元]との対立、そして彼らが修行する弘願寺の存続についてを追いながら、2002年に行われたバンドの復活ライブまでを収めたドキュメンタリーだ。作品自体は2005年に完成していたものの、当事者たちの諸事情により公開することができなかった。しかし2011年、ついにその封印が解かれることになった。今作の公開をきっかけにギャーテーズもふたたび活動を再開するという。この『FREAKOUT』が公開第2作目作品となる矢口将樹監督に、制作の全体像さえ把握しないまま撮影せざるを得なかったという撮影当時の様子を交えて語ってもらった。

撮影対象には内に入りすぎるより引いた状態でしか出てこないこともある

── 感動したという表現よりも、もっと心の奥底を揺さぶられるような感覚、ざわざわしたものを覚えました。まず今作の題材となったギャーテーズというバンドと矢口監督の出会いというのは?

もともとギャーテーズも知らなくて、ちょうどその頃(2002年)一緒に仕事をした人から「障害者の僧侶でバンドをやっている人がいるからちょっとなにか作ろうか」という話があって、その人となんとなく始めました。だから撮影が終わるまでCDも聴かなかった。最初はとりあえず安易な考えで、どこかに落としどころがあるかなという気持ちだったんです。撮っている前半は「これで何になるんだろう」みたいな気はしながら撮っていました。なんとなく映画が見えはじめたのは、韓国人の住職が日本に帰ってきてからで、ちょっと違う方向にしようかなと感じて。

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『FREAKOUT』の矢口将樹監督

── 論議を呼びそうなテーマを扱うことで、なにかドラマが生まれるのではという予感さえもなかった?

映画のテーマとして国の問題とか障害者の問題を扱っているつもりはなくて、単にそこに出てくる人たちのバックグラウンドがそうだというだけにしたかった。といっても、出てくる問題や言葉は難しいんですけれど、そういう映画を作っているつもりはなかった。

── 寺の創設者である韓国人の和上さんが帰国するところからぐっとムードが変わりますよね。そうすると、監督も最初は手探りだったと。

その人たち自身を知らなかったし、障害といってもどのレベルかも解らなかったから。どんな人もそうだと思うんですけれど、実際会ってみたらみんな言葉はしっかりしゃべれるんです。そして大龍さんをはじめ、みんなから出てくる言葉がかっこよかった。台詞のような言葉を普通の会話のなかでしてくるので、こんなにちゃんと日本語をしゃべれる人って接したことがなかったなという驚きがありました。

── 撮影に入る段階でこういう映画を撮りたいという打合せは?

それもぜんぜんなくて。一緒にやっていた友達が「新宿でみんなきてるから挨拶しにいこうか」みたいな感じで。そうしたら「勝手にどうぞ」みたいな感じだったんです。ただ、撮り終わってからかなりいろいろな問題があって。撮影期間としては1年かかっていないですけれど、公開するのに今までかかってしまったんです。映画自体は2003年にできていて、付け加えたのは出演者がその後どうなったかという最後のテロップくらいですね。

── その間矢口監督がカメラで追いかけることについては、皆さん意識されていたんでしょうか?

バンドの人たちに関してはライブでしか会っていないですけれど、お坊さんはたぶん何回か撮影で撮られたりしたことはあると思います。やっぱり嫌なんだと思うんですけれど、意識している人もいるし、していない人もいるかもしれない。普通の人よりは自然な感じで撮影はできましたけれど、解らないですね。

── 撮影のとき心がけていたことは?

ドキュメントを撮る上では普通のことですけれど、距離の置き方というか、内に入りすぎて出てくることもありますけれど、引いた状態でしか出てこないこともある。あまり仲良くなりすぎて内輪になりすぎてもいけないし、離れすぎて何も出てこないのもいけない。初めて撮った作品で、撮影は僕と2人でやったんです。2002年、9年前なのでカメラも良くないですし、技術的にはひどいんですけれどね。

── 前夜祭の宴会のシーンが、登場する人たちの人間関係やバックグラウンドが垣間見られる場面でした。

あの時は宴会の最初から最後まで撮っていましたけれど、長かったですね(笑)。みんな朝3時くらいに起きてお経を始めるんです。

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映画『FREAKOUT』より、ギャーテーズのライブ (c) TRICKSTER FILM

韓国北朝鮮の人は民族的に「まぁ、しょうがないか」で終わらせられない

── 矢口監督のお話のように、お坊さんのふと発する言葉が、ごく普通なんですけれど、なぜかものすごく心に刺さる。小さなケンカのやりとりひとつとても、それぞれの人のキャラクターが浮き彫りになったり、すごく核心を突いた言葉が飛び出してきたりします。

和上さんのしゃべり方とかすごいんです。ちゃんと自分の話のなかで起承転結を考えていたり、朝の説教での抑揚のつけ方とか声の出し方を見て、パフォーマンスだったのかもしれないですけれど、すごい役者だと思いました。2007年に亡くなってしまったんですけれど、パッと見は悪いやつにしか見えないですよね(笑)。でもきっと、日本人がすごく好きなんです。彼も一緒に音楽をやりたかったけれど、どうしても国の背景として、金正日が絶対で国が絶対で、その意見が間違っているとしてもどうしても立場的には韓国・北朝鮮側につかなければいけない。そのことが撮影したときに見えてしまったときは、すごくかわいそうな人に見えたんです。
日本人って「まぁ、しょうがないか」で終わらせられると思います。でも韓国や北朝鮮の人たちは教育の仕方についても含めて、民族的にしょうがないかで終わらせられない。和上さんは撮影のときも「日本は韓国や朝鮮に対して何をしたんだ」ということをずっと言ってくるんですけれど、昔それがあったということで終わってしまうのが僕たちの世代だと思うんです。そして、結局いまどうしたらいいのか、ということになってくる。

── それについてはこの映画でも答えは提示していないですけれど、日本と韓国の人の考え方の違いは明かにしていると思います。

僕らにとって意味が解らない使命だとしても、和上さんはちゃんとまっとうしようとしている。それは日本人にはできない、というか、戦争の話をされても、そこをどう消化していいか解らない。ちょうど撮影していた2002年で、撮影がはじまって、住職が帰ってきたときがちょうど曽我ひとみさんが帰ってきたときだったんです。ずっと小泉首相(当時)の悪口を言っていたり、面白かったですけれどね。彼も、自分では違うとは思っているけれど、「日本人はこれだけ悪いことをしていた」と障害を持ったお坊さんに毎日朝の説教でしているんです。

── そこになにかを貫いているすがすがしさは感じる人柄だと感じました。撮影していた2002年の社会的状況というのは映画のなかに意識的に入れようとは思わなかったのですか?

単純に素材がなかったので入れていないだけなんです。ワールドカップのシーンは少し入れました。映像だとあまり解らないですけれど、韓国の人がみんな赤い「Be The Reds!」と書いたTシャツを着ていたのがすごくて、お寺に行ったらみんな韓国を応援させられたんですよ(笑)。

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インタビューって結局嘘しか出てこないんです

── 今回ようやく公開となって、あらためて矢口さんが考えられてきたドキュメンタリーの方法論、被写体に対するスタンスをもって、意図通りに完成したと感じますか?

逆にこれが最初で、この時点では撮ってるときは手探りだった。今だったら違う撮り方はできると思うんですけれど、それがすごいよくなかったりすることもあるんです。うまくなりすぎてしまったり余計なことを考えすぎたりしていないので、この時点では下手なんですけれど、下手なりにこれはこれでいいんじゃないかと思います。

── 『FREAKOUT』を撮って、矢口監督が映画を作ることに関してあらためて確認したことはありますか?

編集をやったのもこれが最初だったので、特にはないんですけれど、なるべくナレーションやテロップを入れずに物語として成立しているようにできたらと思っています。ただそうするとどうしても映画が長くなってしまうんです。風景にテロップを重ねれば説明が終わるシーンでも、そこを説明するために言葉で組んでいくと、長くなってしまう。そうした方法論の部分では、こういう撮り方だけど、ひとつの物語になればいいなと思っていました。

── 今回の物語を作るうえでは、145分という時間が必要だったと。

うーん、僕はそうですね。たぶん普通に流れと言いたいことを伝えるだけだったらもっと短くできた。なくても成立するシーンはたくさんあって、関係ないところでその人の面白いところが出るので、そうしたいらないシーンはいっぱいあります。

── 最初にお坊さんが街に出て、家をまわるシーンも面白いですね。

というか、みんなで掃除したりしているシーン最初の1時間はいらないです(笑)。和上さんが帰ってきたくらいからでいいんですけれど。

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映画『FREAKOUT』より (c) TRICKSTER FILM

── でもそうした細かなシーンがあることで、それぞれの人の距離感や機微が解っていいと思いました。

もっと短くできたと思うんですが、編集がへたなんじゃないですか。仮編で繋いだときはライブも入れていたりしたので5時間くらいありました。でもいらないなと思ってカットしたので、音楽を聴きたい人には申し訳ないなと思っています。

── 一般的なバンドのドキュメンタリーとは違うスタイルですよね。そして当たり前のことですけれど、障害を持っている人でもお坊さんでも、ダメな人はダメだときちんと描いている。

さっきしょうがないで片付けられると言ったんですけど、もともと(角田)大龍さんがギャーテーズを作った理由のひとつとして、日本の世間の風潮として障害を持っているからしょうがない、できなくていいというので片付けられるのを良しとしないために結成した、というのがあるんです。僕がさっき言ったこととは矛盾しているのかもしれないですけれど。そして、映画の途中で弘順さん(ギャーテーズ)とお坊さんも自分で言っていますが、自分たちが見世物になっているのが解っているんです。「もっともっと変わったことをやってください」と言われる、そういう変化しかないということを。みんな重度の障害ではないので、考えることはできるけど、本当のところどう思っていたかは僕も解らないんです。

──今の矢口監督がギャーテーズをドキュメンタリーにしようと思ったら、また違った作品になっていたと思いますか?

そうですね。悪かった面も多々あるんですけれど、何も知らなかったから良かった面もあるし。作ってから時間が経って、直そうと思ったこともあったけれど、最終的に直さなかった。それはその時のものとしてこれでいいのかなと。2時間半はきついかもしれないですけれど、前半がんばってもらえれば(笑)。あまり縛られて観てしまうと、はっきり言ってデリケートで難しい問題だから取りあげていくときりがないし、それは俺がやらなくてもいいかなって。政治運動をやっている人の映画ではないし。一生懸命生きていて、しょうがないことがある。でも知らないより知っていたことのほうがいい。

── そうですね、もっと自分の価値観にゆさぶりをかけてくる映画という感じがします。

インタビューも撮ったんですけれど、インタビューって結局嘘しか出てこないんです。あれば編集は楽なんですけれど。ナレーションやインタビューがない分、自分で考えなきゃいけない映画になっていて。ナレーションって教えてもらっているような感じがして、説明なので、好きじゃないんです。ナレーションがあって観るのとなしで観るのとでは、その人の受け取り方は違ってくると思うんです。

──笑いもあり音楽もあり、驚きもあり、時として泣ける。いろんな要素があって、観た後語り合える映画だと思います。チラシのビジュアルのインパクトやあらすじを読んだ人の反応はいいんじゃないですか。

でも観るとまた変わるんじゃないですか。「結局アイデンティティの話でしょ」って。どうしても落としどころはそこが都合がいいですから。ただ落としどころを作っていないのが映画として逃げだと思うんですけれど、まぁしょうがないでしょっていうのは、結論としてそういうことだと思うんです。

(インタビュー・文:駒井憲嗣)




矢口将樹(やぐち・まさき) プロフィール

1978年長野県生まれ。武蔵野美術大学油絵科卒。鬼才・故石井輝男監督に師事し、遺作となった『盲獣VS一寸法師』(2004年公開)にスタッフとして参加。2005年石井監督の急逝後、同作の撮影風景を収めた『石井輝男FAN CLUB』(撮影・熊切和嘉)を監督。石井監督の最晩年の姿、演出風景が一挙に映るこの貴重なドキュメンタリーは2006年に短期公開されたが、今や幻の作品となっている。本作『FREAKOUT』が監督第二作目。新進気鋭の若手監督である。映像制作チームTRICKSTERFILM所属。現在は映画だけでなく、テレビや舞台、ライブなど、様々なジャンルの映像制作に携わっている。




『FREAKOUT』
3月5日(土)より、新宿K's cinema渋谷アップリンクXにてロードショー

出演:ギャーテーズ[角田大龍(Syn Key)、小山大僑(Vo)、大久保弘順(Vo)、荒川大愚(Cl)、高橋ヨーカイ(Bass ex.裸のラリーズ)、棟居イズミ(G)、石塚俊明(Ds from 頭脳警察)、寺田佳之(Per)、松本ケンゴ(G from フリーキーマシーン)]、釋 弘元
監督・撮影・編集:矢口将樹
撮影:菅原養史、松本真樹
イラスト:岩井澤健治
デザイン:吉田真之市、奥田亜紀子
宣伝・配給:ふーてんき
製作:TRICKSTER FILM
2005年/日本/145分/カラー/アメリカンヴィスタ
公式HP

イベント情報

初日舞台挨拶決定!
2011年3月5日(土)上映前 渋谷アップリンクX

登壇者:角田大龍氏(ギャーテーズ)、矢口将樹監督
※音楽演奏はございません。予め御了承ください。

『FREAKOUT』公開記念!!トーク&ライブ
2011年3月6日(日)新宿Naked Loft

出演:角田大龍、松谷健、山下敦弘、松江哲明、松本章 他
開場12:00/開演13:00
前売1,300円 当日1,500円(共に飲食代別)
http://www.loft-prj.co.jp/naked/schedule/naked.cgi


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