みゆき野映画祭より
雪のスクリーンで上映される映画祭がある事を皆さんは知っていましたか?記事の最後の動画を見てもらえば、行ってみたい!と思うはず。ただし寒さに弱い人は無理です。ホームページには注意として次のような記載があります。
「スノーシアターは周囲の壁も、スクリーンもすべて雪です。すり鉢のようなシアターで、座席は雪の椅子です。夜、雪の森から吹く風はスノーシアターの雪の影響で、周囲より更に冷たい温度の風が吹きます。お客様によっては、-30度くらいに感じるとおっしゃるかたもいらっしゃいます。北極圏にオーロラ鑑賞に行かれる際のような防寒対策をお願いします」。
北極圏!?映画を見るのに生死を彷徨う冒険なみの防寒を強いる映画祭というのに興味を持ち、主催団体であるスノーコレクティブの代表、橋本晴子さんに話しを聞きました。
ワールドワイドなサーミの映画祭に触発された
みゆき野映画祭では、北極圏イナリ村SIIDAで毎冬開催されているスカブマゴバッド(SKABMAGOVAT)映画祭と同じサイズの雪のスクリーンを使っています。いまサーミ(北緯66度33分以北の北極圏で生活する少数民族)の映画祭は5つありますが、雪で作ったスクリーンを使う映画祭はサーミのスタンダードになっています。
スカブマゴバッド映画祭の様子
2007年、最初にその映画祭に行ったとき、席に座った瞬間から、これを日本に持ってこようと思った。その理由は3つあって、まず映画館に感動したことがあります。シアター自体、雪の建造物のインパクトがすごかった。樹氷の森の中をずっと歩いた先が、いきなりぽっかり空いて、そこにインカの遺跡みたいに、ほんとうにきれいな直角のラインの、コンクリートで作ったような高さが4メールの雪で作った壁があって。北欧の昼の薄青い中見たときは寝ているみたいだったけれど、夜になって行ったらたいまつやキャンドルが入ってライトアップされていて、劇場という生き物が生き返ったみたいに感じたんです。
劇場の中も雪でできているのですが、向こうでは雪の上の直に座ったりはせずに、木を編んだものやウレタンマットを敷き、その上に銀の防寒シートを敷いて、さらにその上にトナカイの毛皮を敷いている。トナカイの毛皮ってぜったい水も寒さも通さない。マイナス70度まで行けると言われている動物なんです。向こうの人はトナカイの毛皮はブルーシート感覚でいろんなところに使うんですよ。
みゆき野映画祭より
2つ目は、そこで上映されていたサーミの映画がヒットだったんです。映画ごとに、日本のこういう世代はきっと観たいと思うという感想を持ちました。なかでも、きっと30代の結婚していない女性が観たらいっぱい共感するだろうな映画があって、それが『サーミ・ニエイダ・ヨイク』でした。サーミの娘の歌、という意味です。
3つ目は、映画祭の考え方に感動したことです。サーミの映画祭は他の映画祭と違って、自分たちサーミの民族の映画だけじゃなくて、世界の先住民族と交流を持ちたいと、外に発信しようとしていたんです。10年間にわたって世界の先住民族の住むエリアを地球上のいくつかのパートに分けて毎年決めて、その地域で映画を撮っている監督を招待して、プログラムを組んでいるんです。その感覚がすごいと思った。地球の端にいるんだけれど、いつもワールドワイドなんです。スカブマゴバッドは私の価値観を覆してくれました。
そして自分たちの文化を残すことに意識的。北欧の映画は基本ドキュメンタリー・ベースなので「もっと民族意識の強いものを」という堅い意見も多いのですが、当時の映画祭のディレクターは包容力の広い人だったので、いろんな映画を良しとしていて、私の感覚と似ていた。他のサーミの映画祭と違って思想とスタイルも好きだったんです。
スノーコレクティブ代表の橋本晴子さん
人に良いよこれって言えるポイントがすごく多かったので、この映画祭をとにかく自分がかけられるお金と時間の範囲で持ってきたかった。だからみゆき野映画祭は「映画業界ってどんなの?」「字幕ってどうやってつけるの?」っていうところからスタートしました。
(インタビュー:浅井隆 構成:駒井憲嗣)
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『みゆき野映画祭in斑尾2011』
2011年2月10日(木)~2月12日(土)
場所:長野県飯山市斑尾高原
公式サイト