骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2011-02-02 11:20


「石岡正人監督が撮ってくれたからこそ、ウツから戻ってくることができた」(代々木忠監督)─『YOYOCHU SEXと代々木忠の世界』を両監督が語る

“YOYOCHU”こと代々木忠監督の性差を超えた目線を捉えたドキュメンタリー、銀座シネパトス、渋谷アップリンクXにて公開中。
「石岡正人監督が撮ってくれたからこそ、ウツから戻ってくることができた」(代々木忠監督)─『YOYOCHU SEXと代々木忠の世界』を両監督が語る
代々木忠監督(右)と石岡正人監督(左)

数々のヒット作・問題作を生み、AVの枠を超えて高い評価を獲得している“YOYOCHU”こと代々木忠監督。彼の波乱の人生、そして日本の性産業の変遷を検証する映画『YOYOCHU SEXと代々木忠の世界』公開にあたり今作のメガホンを取った石岡正人監督と代々木忠監督の対談が実現。含蓄のある発言の数々、様々な手法で人間の欲望を暴き出していく代々木監督。そして代々木監督の助監督を6年務めることからキャリアをスタート、今作で代々木作品のオリジナリティと日本の映像文化の変容を鮮やかに捉えた石岡監督。両氏の『YOYOCHU SEXと代々木忠の世界』に対する思いが語られた。

「人間の心を活性化していく、人々が生き生きしてくる何かを提供したり、発信したり、共鳴させたりすることが必要」(代々木監督)

──代々木監督は、映画『YOYOCHU SEXと代々木忠の世界』をご覧になって、因縁というか、目に見えない力のようなものを感じたと、ご自身のブログ「週刊代々木忠」に書かれていますね。

代々木忠監督(以下、代々木):アテナ映像という会社を起こして24年経とうという頃、僕はウツの真っ最中で、もう社長を続けられないと思ったんです。この組織を引っぱっていく力もないし、みんなに迷惑をかけられないと。そこで当時、取締役だったプロデューサーの杉山にバトンタッチした。僕と杉山は、ちょうど二回り違う寅年生まれです。ということは、僕がアテナを起こしたのと同じ歳に、杉山は社長になったわけですね。ただ、もしも僕があのまま社長を続けていたら、はたして石岡監督は一AVメーカーの宣伝になりかねないドキュメント映画を撮ったのだろうかと思ったわけです。

石岡正人監督(以下、石岡):たしかに社長を続けていらっしゃったら、それは考えたかもしれませんね。

代々木:そればかりか、石岡監督がこの映画を撮ってくれたからこそ、僕はその後、ウツという病の淵から戻ってくることができた。どういうことかと言うと、石岡監督から映画の話を聞かされたとき、正直「外に出て、人と話すのは嫌だなぁ」と思ったんです。生きていこうという前向きなエネルギーもなく、麻布の善福寺という寺に墓を買ったくらいですからね(笑)。でも、その一方で、「このままじゃいけないよな」とも思っていた。そんなときですよ、石岡監督に声をかけてもらったのは。

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代々木忠監督

石岡:お墓まで買われたというのは、ウツによって自ら命を絶ってしまうということもありうると考えていたわけですか?

代々木:この苦しい状況から逃れたい、楽になりたいとはずっと思っていましたが、自ら死のうとは思わなかったですね。それは、たとえ自殺しても、結局、来世で同じテーマをまた自分が設定してやり直すんだと思っていたからでしょう。死ぬよりも、この辛さはいったい何だろう、それを知りたいという思いがだんだん強くなっていきました。いずれにしても、内に籠もっていた僕を引っぱり出してくれたのは、この映画です。それはウツだった僕だけでなく、みんなが多かれ少なかれ疲弊している時代だからこそ、求められている映画だと思いました。今まで優秀な人たちがやってきたことが上手くいかなくなってきている。このままじゃダメだということは、みんなわかっているんだけど、じゃあ、どうしたらいいんだというヒントや方向性が見いだせない状況だと思うんですね。

石岡:政治にしても経済にしても、出口が見つからないというか。

代々木:日本は経済的にも疲弊していますが、経済の専門家がいろいろ考えているにもかかわらず、うまくいかない。それは人間の気持ちが落ち込んでしまっているからなのだと僕は思う。何よりもひとりひとりが前向きになると、賑やかになるでしょう。だから今は経済学者が何かやるよりも、人間の心を活性化していくような、人々が生き生きしてくるような何かを提供したり、発信したり、共鳴させたりすることが必要だと思う。そうしてひとりひとりの心が活性化してくれば、必ずや経済にも好影響を及ぼすし、なにより楽しい街になってくる。この写真(映画)はそれを示唆していると思うんです。これは男女にも言えます。なぜ草食系が増え、コミュニケーションすら取れなくなってしまっているのか。どうしたら、相手にも、そして自分にも向き合えるのか、そのヒントがこの映画の中にはある。まぁ、自分の出ている映画をあんまり褒めるのも、みっともないですが(笑)。

日本全体が消費社会に巻き込まれ、すべてをコンテンツ化していく流れがAVにも反映している(石岡監督)

石岡:実は不思議な流れがもうひとつあって、藤村(政治/元プリマ企画社長)さんや奥村(幸士/元日活プロデューサー)さんといった出演なさった方が、この映画ができる寸前に亡くなられたんです。今まで埋もれていた日活の初期の頃やロマンポルノ裁判の事知る数少ない関係者であるお二人なので、亡くなる前に記録に残すことが最後の使命であると、僕を引き寄せたのではないかと思うんです。歴史的に重要ですから。

代々木:石岡監督は時代の要請に応える結果になったんですね。

石岡:そうですね。その流れで代々木監督の人生を撮ることになった。

代々木:時代が要請するものを提供して、そこに参加できたのは幸せだと思いますね。これをきっかけに、僕らはもう一度、性と真摯に向き合い、アダルトビデオを本当の意味で成熟したものにしなければと思いますね。今までにもAVの黄金期はたしかにあった。でも、ファンは男性だけだったんです。一部の女性は観てくれていたけれど、表現方法としては男の視点に立っていた。ありていに言えば「おらおら、どこ感じるんだよ」みたいな作りです。ヌキの道具として、女性を一段下に見ていると言われれば、反論できない。あくまでも男の妄想で作っていて、女をなんだと思ってるのよっていうのが女性側のホンネだと思うんです。今回再認識させられたのは、男も女も楽しめる作品が必要だということです。そのためには、立ち位置をもっと中立的にし、鳥瞰してものを作っていかないといけないと。

石岡:一般試写会では、女性ひとりで観に来てくださった方も、けっこういましたよね。

代々木:そうでしたね。twitterを見ていても、「彼女から観たい映画がある」って言われて観に来たというのがあって、女性の側が「これは男に観せなきゃならない」という思いが出てきているって、すごいことだと思うんです。女性は決めたら、行動に移すのが早いから。それにひきかえ、男はなかなか煮え切らない。だから、これからはこの映画を観た女の人が男を育てていくということになってほしい。かつては遊郭などで「あんた、すごいんだよ」って言われて、男として自信を持てた時代があった。男が女から育てられる部分って、たしかにあるんです。今まではどちらかというと、女が男と張り合い、結果、男を超えてしまったわけだけど、これからは超えてしまった女たちに、男がどれだけ引き上げられるかっていう時代だと思う。

石岡:今の時代、年を取って孤独死していくのは男が圧倒的に多い。寂しいですよね男って。

代々木:僕も夫婦を何十年もやってきて、途中で妻は何回も別れようとも思ったろうし、距離を置いたこともあったけれど、やっぱり一緒にいてよかったと思うね。今は、いないというのがもう考えられないです。女性は足元をちゃんと見ている。かなわないよね。そんな男と女が、体も心も溶け合えるのが本来のセックスであるはずなのに、それを嫌悪する男が増えている。生身の女より映像やフィギュアのほうがいいって言うんだから……。その延長にあるのは、まさに種の滅亡ですよ。

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石岡正人監督

石岡:つまり、性の荒廃であると。

代々木:ローマ(国際映画祭)に行って、メディアの囲み取材を受けたとき、僕はこんなことを言った。「食と性は、どちらも人間が生きていくうえで絶対に欠かすことのできない根源的な営みである」と。「日本の食文化は世界に誇れるまでに成熟したけれど、片や性というのは荒廃の一途を辿っている、だから、この映画が食文化に負けない性文化を確立するための基礎になればいい」。自分で言いながら、ホントそうだよなって(笑)。

石岡:本当にそうですよね(笑)。

代々木:だから、この作品を無駄にしたくない。世界に誇れる性文化が確立すれば、外貨も獲得できるはずですよ。そういうものを作っていきたい。そして、石岡監督には、ウツから引っぱり出してくれて本当にありがとう(笑)。

──代々木監督からお話のあった社会への影響力や、女性からの視点について、石岡監督は制作中に意識されていたのでしょうか?

石岡:意識していました。日本全体が消費社会に巻き込まれ、すべてをコンテンツ化していく流れにあり、それがAVにも反映していると思います。でも果たして性や人間の心を扱うものがなじむのかどうか。代々木監督はその問題意識を持っているなと思いました。また、現在、AVの多くは、男性のマスターベーションに特化した作品を効率よく作る為に、極端なメニュー化、コンテンツ化をすすめ、男性のみの視点でしか性を語れなくなっている。その事が性を扱うメディアとして可能性を小さくしているばかりか、世の男性に影響を及ぼしている。だからこそ、代々木監督が持っている性差を超えた目線はとても重要であると感じていました。

──この作品でも描かれる女性の自由への渇望とそのパワーが、性の可能性を広げるのに必要だということなのでしょうか。

石岡:たぶんこの映画を観て感動してくれる女性がいるのは、代々木監督が撮ったAVに出てくる女性たちの神々しい顔を見ているからだと思うんです。性ってこういう可能性があるんだと女性は感じてくれたのだと思います。

代々木:石岡監督と最初出会って6年一緒に仕事をして、離れて。ちょっと寂しい思いもあったんですけれど、またこういう形で出会って、石岡監督に心を裸にされるのは……劇中では女房が出てきて、言いたいこと言われるんだけど(笑)。でも、ああいうことで楽になった面もあります。等身大で生きようと思っていても、どうしてもマスコミの前などに出ると、ちょっといい格好をしたりする自分がいて、そのこと自体に自分自身が縛られている。そういう意味では、奥さんに出てもらって正解だったのかな。ちょっと等身大に近づけたと思いますね。

石岡:すみませんでした(笑)でも完成できて本当に良かった。代々木監督が、チャネリングを始めたときに、僕の映像としての理解を超えてしまいました。だから一回外に出て、映像の勉強をし直したかった。そして、この映画は、代々木監督がやってきたことを、もう一度映画の言語で捉え直すことで成立したと思います。代々木監督は昔、ポルノ映画からはじかれてアダルトビデオに活動の舞台を移したという、いわば映画に意地悪をされたような形にはなったけれど、もう一回、映画が代々木監督を必要とした、そういう感じがあるんです。そして僕自身も、代々木監督から映画を教えられた。それは代々木監督の演出は、人間の心の奥底に飛び込んでいくんですけれど、それは映画もビデオも関係ない、人間を知ろうという態度です。その事を沢山の人に知って欲しいです。特に映像を勉強する人がそのことを理解すると、もっと作品に広がりがでるんではないかと思います。

(取材・文:駒井憲嗣)




■代々木忠 プロフィール

1938年福岡県小倉生まれ。華道家から極道を経て映画界に入り、後にAVの黎明期に立ち会い、数々の傑作や問題作で一世を風靡する。“AV界のカリスマ”とも呼ばれ、多くの傑作シリーズを発表し、一貫して人間の性を心の内側から切り取って表現し、AVを撮りながら愛を問い続けている。

■石岡正人 プロフィール

1960年静岡県生まれ。83年明治大学政治経済学部卒業。84年から約6年間アテナ映像の社員として助監督、制作担当で代々木監督等の制作現場に付く。89年5月廣木隆一監督、冨岡忠文監督と制作会社ヘブンを起ち上げ、95年5月には自身の制作会社ゴールド・ビューを設立。以後、映像製作や日本映画の海外セールスを行う。08年4月より京都精華大学マンガ学部アニメーション学科の客員教授も務める。




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『YOYOCHU SEXと代々木忠の世界』
銀座シネパトス渋谷アップリンクXにて公開中

監督:石岡正人
撮影:西川憲/椿原久平/石岡正人
編集:深野俊英/石岡正人
音楽:後藤英雄
ナレーション:田口トモロヲ
題字:リリー・フランキー
プロデューサー:朱京順/河村光庸
制作:ゴールド・ビュー/スターサンズ
出演:代々木忠、笑福亭鶴瓶、槇村さとる、和田秀樹、藤本由香里、加藤鷹、愛染恭子、村西とおる、高橋がなり 他
2010年/カラー/HDCam/115分/R18指定
公式HP:yoyochu.com
公式twitter:@yoyochumovie

【関連情報】
★YOYOCHU祭開催!
本作の公開を記念して、本編に登場する代々木忠監督の代表作24本をアップリンクXにて公開、並びに主要配信サイト(※詳細は公式HPで)にて12月20日より約3ヶ月限定で配信します!蔵出しの貴重な映像ですのでこの機会にぜひご覧ください!
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