骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2011-02-21 17:54


『GONZO~ならず者ジャーナリスト、ハンター・S・トンプソンのすべて~』クロスレビュー「名声を得て一人歩きする仮面の下で、心を軋ませていた人間らしい姿を伝える」
(C)2008 HDNet Films, LLC

1939年に生まれ、50年代の終わりから放浪を続けながらフリーのジャーナリストとしてキャリアをスタートさせたハンター・S・トンプソン。彼は、当時の反戦運動やドラッグ・カルチャーのただなかでこれまでとは異なるジャーナリズムのスタイルを模索し続けた。66年に発表され、代表作となった『ヘルズ・エンジェルズ』で、彼らと1年間集団と生活をともにすることによりその実態を暴きだした。実際に現場に果敢に飛び込んでいくことで、ムーブメントの熱狂をリアルに捉える。そうしたハンターのスタイルがどのように生まれたのか、これまでもジャーナリスティックなドキュメンタリーを量産してきたアレックス・ギブニー監督の筆致はここでも鮮やかだ。『ラスベガスをやっつけろ』でハンターを演じたジョニー・デップのナレーションもはまっている。

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(C)2008 HDNet Films, LLC

映画はライターとしての名声の頂点を極める瞬間から、晩年のうらぶれた姿までを追いながら、アメリカの政治とポップ・カルチャー、そして報道の関係を検証する。そこから浮かび上がるのは、世界の欺瞞に動物的に反応し、食いついていくハンターの勘である。セレブリティと戯れる奔放な生活に溺れるがゆえに、取材する立場から取材される立場に追いやられることにより、彼の批評眼は次第に衰えていってしまう。9.11の世界貿易センターが崩れる映像に心動かされながらも、全盛期の鋭さを最後に取り戻せなかったハンターの姿は、典型的なアメリカン・ドリームを追い求めた市井のアメリカ人として映る。そうした視点にこそアレックス・ギブニー監督の真価が発揮されているように思う。ブログやtwitterの影響力によりあらためてメディアの有効性が問われる現在、ゴンゾー・ジャーナリズムの根幹には、その対象への眼差し、そして取材する者の精神が重要となることをあらためて感じずにはいられないドキュメンタリーとなっている。

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(C)2008 HDNet Films, LLC

▼『GONZO』予告編





映画『GONZO~ならず者ジャーナリスト、ハンター・S・トンプソンのすべて~』
シアターNシネマート新宿にて公開中

監督:アレックス・ギブニー
[『エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?』アカデミー賞候補(ドキュメンタリー長編賞)「闇へ」(未公開)アカデミー賞(ドキュメンタリー長編賞)獲得]
ナレーション:ジョニー・デップ
【インタビュー登場人物】
ジョージ・マクガヴァン(連邦上院議員、大統領選挙立候補者)、ジミー・カーター(アメリカ合衆国大統領[1976年~1980年])、フアン・トンプソン(トンプソンの息子[母親はサンディ・トンプソン]、ラルフ・ステッドマン(アーティスト/イラストレーター)、ソニー・バーガー(ヘルズエンジェルス、オークランド支部長[1965年])、ティモシー・クラウス(作家/ジャーナリスト)、トム・ウルフ(作家/ジャーナリスト)
2008年/アメリカ/カラー/119分/ヴィスタ/ドルビーデジタル

公式サイト


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