骰子の眼

cinema

東京都 中央区

2011-02-28 20:45


[CINEMA]『アンチクライスト』クロスレビュー「自身に内在する形の無い恐怖が統制能力を超えてしまう事をホラーというのなら、この世界はホラーに満ちあふれている」

今作の公開にあたり、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『奇跡の海』といった作品で贖罪をテーマにしてきたラース・フォン・トリアー監督は、うつ病のリハビリテーションとしてこの作品の台本を執筆したこと、そしてその行為が彼にとってセラピーであることを告白している。ウィリアム・デフォーとシャルロット・ゲンズブール演じる夫婦が、愛し合っている最中に息子を転落死させてしまったことのトラウマを克服しようとする。彼女が深層心理で恐怖の対象とする森の中の山小屋にその原因があると、ふたりはその山小屋で治癒を試みる。この物語を作って行く行為そのものが、監督にとってこころを解放する作業だったということは、セックスとセックスに対する無意識の嫌悪感が引き金となるストーリーに色濃く反映されている。

webdice_アンチクライストサブ②

ラース・フォン・トリアー監督は、不意に訪れる怒りと暴力や、ホラーさながらの凄惨な描写、超自然的なビジョン、そして屋根裏部屋の秘密人間におけるミステリーを絡めながら、本能のありかを探っていく。今作でカンヌ映画祭主演女優賞を獲得したシャルロット・ゲンズブールのこれまで見たことがない不気味な存在感を引き出しながら、贖罪をはらすことやモラルに従うことではなく、深い森のごとき人間の深層心理の奥にある本能的な衝動に忠実になろうとする挑戦を、この作品で伝えようとしているように思う。

webdice_アンチクライスト メイン



映画『アンチクライスト』
新宿武蔵野館シアターN渋谷ヒューマントラストシネマ有楽町にて公開中

監督:ラース・フォン・トリアー
脚本:ラース・フォン・トリアー
製作:ミタ・ルイーズ・フォルデイガー
製作総指揮:ペーター・オルベク・イェンセン、ペーター・ガルデ
撮影:アンソニー・ドッド・マントル
編集:アナス・レフン、アサ・モスベルグ
出演:ウィレム・デフォー、シャルロット・ゲンズブール、ストルム・アシェシェ・サルストロ
2009年/デンマーク・ドイツ・フランス・スウェーデン・イタリア・ポーランド合作/カラー及びモノクロ/104分/ドルビー・デジタル /英語/DLP上映
提供・配給:キングレコード+ iae
配給協力・宣伝:村田敦子/井瀧誠司

公式サイト


レビュー(3)


コメント(0)