骰子の眼

cinema

2010-12-08 23:37


『スプリング・フィーバー』初日に行った中国旅行プレゼントに当選した古賀さんの北京最新レポート

『スプリングフィーバー』の初日プレゼントで北京旅行が当たった。まさか!と思ったが本当らしい。映画を見て、すぐ2週間後にその国に行けるなんてめったにない経験である
『スプリング・フィーバー』初日に行った中国旅行プレゼントに当選した古賀さんの北京最新レポート
北京美人とサンザシ。 北京の銀座、王府井。糖葫芦(タンフールー)はサンザシを飴で固めた物で、北京の冬の風物詩だそう。街のいたるところで売られていました。ケンタッキーと吉野屋は北京の街にいっぱいあります。

2010年、北京

『スプリング・フィーバー』の初日プレゼントで北京旅行が当たった。まさか!と思ったが、どうやら本当らしい。映画を見て、すぐ2週間後にその国に行けるなんてめったにない経験である。二つ返事で行くことを決める。

いったいどういう背景からこの映画が生まれたのか、急成長を続ける中国、2008年の北京オリンピックを境にがらりと変わったと言われる北京の街、4泊5日という短い滞在で見ることが出来るのはわずかでしかないが、中国の「今」を私はとても見てみたかった。

映画のものうい雰囲気に反して、街の雰囲気、人々の表情はびっくりするほど明るかった。映画の舞台であった南京ともまた違うのかもしれないし、旅行者の気楽さからそう見えたのかもしれない。北京は予想以上に近代的な都市であった。好景気にわく街を旅行するのは単純にとても楽しい。上向きの気分が街全体から感じられるようであった。

旅行者として外側から見た中国と、映画で知った内側からの視点。国と国との関係としては微妙な時期だからこそ、自分が見たものを信じたい。『スプリング・フィーバー』は、自分の中にあった古めかしい中国のイメージを払拭するパワーのある映画だった。私もなるべく色眼鏡なしで見たいという思いで北京の街を歩いた。

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朝から何をするでもなく、路地裏に集まる人々。
胡同(フートン)が残る下町には、まだそんな風景がある。
なぜかアーティステックな椅子に座るおじさん。
古い町並みの方が歩いていて面白い。

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北京といえば、「人民服と自転車」というイメージがどうしてもある。しかし洪水のような自転車の群れ、というのはもうないようだ。スプリング・フィーバーでもそういえば移動は車でした(自転車だったらまた違ったテイストになってしまう……)。
とはいえ中心街を外れた下町や住宅街では自転車をよく見かける。北京の街は広大でワンブロックが長い。道路には自転車専用レーンがあるし、修理屋も多い。自転車生活はきっと快適。電動アシスト付きも流行っているようでした。

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11月の北京は真冬であった。夜の気温は氷点下で池に氷が張るほど寒かった!スタイルは違えど、街の至る所に焼き芋屋さんが。北京の焼き芋屋さんは三輪自転車にドラム缶である。冬の街角で求める物は同じですね。

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ジャージの子供。赤いスカーフがかわいい。
デパートの客寄せの「歩く鉄仮面」にうおー!となっているところ。

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人民服の人はもうほとんどいないと聞いていたが、骨董市や郊外の方ではたまに見かける。寒いので人民コートのようなものを着ている人も。和気あいあいとしているおじさんたち、何を話しているんだろう?とちょっと気になる。

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印象としては話し好きで素朴な人たち、という感じ。よく中国語でなにやら話しかけてくるおじさんおばさんによく出会う。言葉がわかってなくてもなぜか会話が成立しているときもあって、旅って不思議。

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地下鉄で老人に席を譲る若者もいたし、切符の買い方がわからなくておろおろしていたら「ほら、ここ押すんだよ」などと助けてくれる人もあった。
イメージとして、中国人というのは日本人にとって、アメリカ人より謎多き民族なのかもしれないが、個人として接した時の人と人との関係なんてどの国でもそんなに変わらないんじゃないの?と思う。

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住宅地域を歩いていたら朝市に出くわす。
朝から異常なる活気である。
どんなに体制が変わっても、彼らの庶民生活というのは中国4000年あまり変わっていないんじゃないか、と思わせる。でもカルフールなども進出しているし、一般的には超市(スーパー)に行くのかもしれませんね。

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同じく市場の肉屋。日本には絶対ないワイルド肉屋。
お客が何グラムくれというと、巨大な包丁で骨ごとぶった切ってくれる。
驚くべきことにイトーヨーカドーの中の肉コーナーであってもほぼ同じスタイルであった。

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798芸術区という、国営の工場跡地がギャラリーになっている所。
文革時代に工場の壁に書かれていたスローガンもそのまま残されていて見ることが出来る(毛沢東万歳!みたいなやつです)。
とにかく敷地が広くて、アートのテーマパークのようになっている。
作品は有名無名、玉石混合ではあるが、政治的なものを感じさせる作品も多い。ロウ・イエ監督だけでなく、現代美術家のアイウェイウェイなど、中国の芸術家は本当に闘わざるを得ないのだ、という事実を知る。しかし彼らの活動は非常にラジカルでかっこいい。

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この時期に中国に行く、というと心配されることも多かったし、ちょっと不安ではあったのだが、あぶないことは特になかった。親切な人も多かったし、東京から来た、というと「そう!東京はとてもビューティフルなところね!」なんて言ってくれるホテルのお兄さんなどもいたりしてちょっとうれしい。

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北京と東京の違いは何だろう?
ストリートミュージシャンの意味は確実にちがう。
写真を撮らせてもらったので1元(ケチでごめん……)缶に入れた。自分の行為にとても戸惑う。

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携帯で話しながら歩いている人が本当に多かった。中国製のスマートフォンもあるみたいだし、なんと路上でも売っている。
電波状況は非常に良い。私のiPhoneもどこでもつながった。Googleマップがあれば初めての街でも迷うことなしです(嘘です。一度反対方向のバスに乗ってしまってめちゃくちゃ焦りました……)。

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少数民族なのだろうか、北京の街で見たジプシー風のおばさんたち。なぜかみな同じクマの毛布を羽織っていた。
おばさんの目線の先には、道端にあったシーソーで遊ぶカップル。
「あら楽しそうねー」みたいなことを(おそらく)話かけられました。

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オウムがいる雑貨屋。
「天安門、恋人たち」にも出てきた、池がある公園の近く。古い胡同を改築したレトロな店が並んでいる。大きなショッピングモールやファッションビルが街に増えて行く一方で、若者のレトロ趣味のようなものも存在しているよう。おしゃれなカフェもたくさんある。この辺りや南鑼鼓巷という下北沢みたいな感じのところは、本当に町並みのセンスが良かった。

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日本に入ってきてないような面白い映画はないかと思ってDVDショップをのぞいてみた。が、大きな書店に入っているような正規品が買えるお店では、面白いラインナップは特に見当たらない。ローカルなものはだいたい時代劇かメロドラマ、ラブコメ。検閲ってこういうことなのだろうか……。海賊版事情やネットの動画サイトはどうなっているのかも気になる所です。

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藩家園の骨董市。翡翠のアクセサリーが大量に売られていて、私も欲しかったのだけど、下は10元ぐらいから、上は3桁4桁まで、本物とニセモノを見分ける自信などまったくないのであきらめる。
しかし、人民服のおじさんや、少数民族らしき人々、ワシントン条約は無視かと思われるような毛皮売り。または突発的にはじまる派手な喧嘩(お、はじまったはじまった!!という感じで野次馬が大勢集まる)など、町中ではあまりお目にかかれない風景もここでは見られて面白い。

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昔の中国旅行記を読むと、店員にこれが欲しいと尋ねても「没有(ない)」と言われ、おつりは放り投げるように渡される、というような記述があるが、そんなことはまったくなかった。店員さんは笑顔で接客してくれるし、スターバックスもハーゲンダッツも無印良品もある。街の発展ぶりにすごいな!と思いつつ、しかし発展している所は東京と同じなのでちょっと残念な気持ちもする。外国に行くからには、自分の国と違う何かをどうしても期待してしまうのも事実なのだ。

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行きの飛行機で隣の席だったおじさんはウイグルの人だった。仕事で東京とウルムチを行き来しているという。「ウイグル人は少数民族です。言葉も文化も(中国とは)ぜんぜん違います」何より顔が違う。機内で入国カードを配られて、「ワタシは中国人だからいらないよ」と苦笑いしていた。
旅の始まりに、この巨大な国が抱える問題をかいま見る思いがしたのでした。

(文・写真:古賀加奈子)



★シネマライズにて『スプリング・フィーバー』トークイベント開催
2010年12月12日(日)最終回(19:00)上映前
登壇者:浅井隆(アップリンク社長)
*当日は浅井によるロウ・イエそして主演のチェン・スーチョンとチン・ハオへのインタビュー・ビデオも上映いたします。
*日曜日最終回のため、どなた様でも1,000円にてご覧いただけます。
2010年12月14日(火)最終回(19:00)上映後
登壇者:吉田アミ(前衛家)×浅井隆(アップリンク社長)
*火曜日のため、どなた様でも1,000円にてご覧いただけます。
2010年12月17日(金)最終回(19:00)上映後
登壇者:矢崎仁司(映画監督)×浅井隆(アップリンク社長)




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映画『スプリング・フィーバー』
渋谷シネマライズほか、全国順次公開中

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*ハッシュタグは #springfever
*何日の何時の回にご覧いただいたかをご明記ください
詳しくは公式サイトまで

第62回カンヌ国際映画祭脚本賞受賞
監督:ロウ・イエ
出演:チン・ハオ、チェン・スーチョン、タン・ジュオ、ウー・ウェイ、ジャン・ジャーチー、チャン・ソンウェン
脚本:メイ・フォン
プロデューサー:ナイ・アン、シルヴァン・ブリュシュテイン
撮影:ツアン・チアン
美術:ポン・シャオイン
編集:ロビン・ウェン、ツアン・チアン、フローレンス・ブレッソン
音楽:ペイマン・ヤズダニアン
製作:ドリーム・ファクトリー
ロゼム・フィルムズ
配給・宣伝:アップリンク
中=仏 / 115分 / 2009年 / カラー
公式サイト
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