骰子の眼

music

東京都 渋谷区

2010-11-02 18:40


「水木さんの妖気が音楽でも出せれば」鈴木慶一と小島麻由美が語る『ゲゲゲの女房』の音楽

初共演となる2組がムーンライダーズ feat. 小島麻由美名義の新作で垣間見せる新境地
「水木さんの妖気が音楽でも出せれば」鈴木慶一と小島麻由美が語る『ゲゲゲの女房』の音楽
鈴木慶一(右)と小島麻由美(左)

NHKの連続テレビ小説を皮切りにした2010年の水木しげるブームの決定打となる、11月から公開の映画『ゲゲゲの女房』。そのエンディング・テーマが『ゲゲゲの女房のうた A Ge Ge Ver.』として、ムーンライダーズ feat. 小島麻由美によりリリースされた。日本ポップスシーンの両雄によるコラボレーションが実現した今作品について、小島麻由美と、貸本屋の主人として映画にも出演し、劇中の音楽も担当した鈴木慶一は、ともに刺激を受けた制作だったことを語った。

より妖しげなストレンジなものになるんじゃないか(鈴木)

──まず今回のコラボレーションが実現することになった最初のところから教えてください。

鈴木慶一(以下、鈴木):おおもとは映画なんですね。『ゲゲゲの女房』に鈴木卓爾監督から私が出演依頼を受けたんです。一日ロケに行って、貸し本屋の親父の役をやって、それでさて出来上がり楽しみって感じだったんだけども、その後、「音楽もお願いできませんか?」と言われて。音楽を制作する時間がかなり短かったんですけど、一気にやって行くうちに、監督と私の両方のアイデアで、エンディングが歌もので終わるといいかなっていうことになったんです。時間がなかったから、先に監督が歌詞を書いて、第一稿ができてくる前に「こんな感じの曲が合うかな」とすでに曲も作ってたの。で、監督の歌詞が出来上がってきたら、これが偶然にも曲に合ってた。
それをはめていったんだけれど、こんなこと滅多にないですよ、普通は歌詞があって曲を作ったり曲があって歌詞をつけたりするんだから。互いに勝手に作ってるものが、監督と私の中でわりとピッタリあったの。言葉数もね。ところどころ修正して、女房と亭主のデュエットにしたいというアイデアが監督にあって、それもふまえて。
じゃあ女房役は誰がいいかなというところで小島麻由美さんの名前を出したら、監督も「素晴らしい!」と。こんなに一致するならやってみようじゃないかって。しかもありそうでなかったコラボレーション。意外と私も接点がなかったんです。

──ファンはきっと重なっていると思います。

鈴木:重なるかもしれないし、たまたま私は新譜の『ブルーロンド』を聴いて、いいなと思ってたんだよ。これも非常に偶然なんですけどね、歌もいいし曲もいいなと。そこで何か昭和の匂いというのを感じて。映画自体も昭和30年代の映画だし、曲もそういう曲にしてみたし、これは合うなと思ってお願いしたんですね。

──そんな偶然が重なって実現したんですね。

鈴木:時間のないときってのは、偶然がうまく行く。

──鈴木さんが出演をお願いされたのは?

鈴木:出演は今年の2月くらいかな。

── 一年も経っていないんですね。

鈴木:だって出演して何週間かして「音楽やってくれませんか?」と言われてその後の打合せから完成まで一か月くらいだからね。

小島麻由美(以下、小島):鈴木卓爾監督も、当然ファンだったわけですよね?

鈴木:すごく詳しい(笑)。詳しいから、「ムーンライダーズのあの曲の感じで」とかいう会話でした。

──俳優としての慶一さんに期待しつつ、もしかしたら音楽もお願いできるかなという気持ちが監督に最初からあったのかもしれませんね。

鈴木:それはわかりませんけどね。最初は出演で終わるはずだったんだけど(笑)。だから映画音楽を作ってて最後の方は、深夜のメールのやり取りで。曲が出来ると、ここに何時間何分何秒からスタートのタイミングで、当ててみてくださいってMP3で送るんだよ。で、監督から返事が返ってきて、OKが出たらミックスするというような突貫工事ですよ。

──そういうスピード感というか、早いジャッジを要求された今回の創作方法はやってみていかがでしたか?

鈴木:私自身がジャッジは早いほうなので、まったく問題なく、やりやすかったですね。

──ではエンディングに小島さんの歌が加わると、もっと良くなるという予感があったんですね。

鈴木:だから作っていた曲に、『ブルーロンド』で聴いた小島さんの声を入れたら、より妖しげなストレンジなものになるんじゃないかと。

──小島さんは、今回のコラボレーションについて提案があったとき、どんな気持ちでしたか?

小島:嬉しかったですね。とても大きな話だし、ムーンライダーズの鈴木さんが、私の音楽を聴いてるなんて絶対思わなくてびっくりした。でも実は、私のバンドでやってるフルートの国吉(静治)さんが、ムーンライダーズのディレクターだった時代があるんですね。

鈴木:70年代ですね。

小島:それで、国吉さん経由で知り合いの知り合いくらいではあったんです。

プロデュースされてみたかった(小島)

──小島さんにお願いする段階で、メロディや歌詞など楽曲がかなり完成された状態だったんですね。

鈴木:うん、できてた。ちゃんとお話しするのはスタジオでが初めて。

小島:そうですね。

──小島さんは、楽曲を聴かれて、どのようにイメージを膨らませていったんですか?

小島:最初はどうやったらいいのか、これはわからないなと思いました。でも自分がテンパッてやってるより、プロデュースされてみたいということは常々思っていたんです。なのでこうした制作方法は初めてに近い状態だったんですが、鈴木さんから指示されて嬉しかったですね。

鈴木:通常は全部自分でやるんだよね。

──そうですよね、シンガーソングライターとして、曲作りからサウンドまで全て手がけるというのが小島さんのスタイルでしたから。それはご自身でも、違う回路でもの作りをしてみたいという欲求があった?

小島:他の人が作ったオケに自分の声が乗る、そういうことをやってみたいという気持ちはあったんですね。初期の頃は全くそういうのは思わなかったんですけど、これだけ活動を続けてると、人とやる楽しみや喜びみたいなのもあるだろうと。

──小島さんは完璧主義というか、自分ですべてコントロールして作っていくみたいなイメージがあります。

小島:そんなじゃないですよ。よくわかってないんですよ。

──では他の人の作ったプロダクションの中で、自分の歌をどう表現できるかということを試してみたかった?

小島:そうですね。ちょうど歌手として他の人の曲も歌いたいなって思い出した頃でもあったんです。

──それは、比較的最近生まれた意欲だったんですか?

小島:いえ、5年くらいずっと思ってますね。いい曲があったら何かいいカヴァーしたいなって。

──その思いは、小島さんのソロではなかなか実現できなかったということですか?

小島:そうですね。どうしてもカヴァーは、自分のオリジナルアルバムでは入れなくなっちゃうんですよね。ぜんぜん入れてもいいんですけど、何か構えすぎちゃうというか。でもやっぱりこう企画があって、呼ばれてやるっていうと、もっと気軽に自由で楽しめるんですよね。

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小島さんの妖しげなムードに引っ張られた(鈴木)

──『ゲゲゲの女房』の原作や映画、水木しげるさんの作品の世界観については、それまでも親しまれていたんですか?

小島:マンガは小さい頃に「ゲゲゲの鬼太郎」を見てたくらいですね。でも、NHKのドラマは好きでずっと見てたんです。

──スタジオで顔合わせをしていきなり作業をすることに、不安はなかったですか?

鈴木:そこで歌を録るわけだからね。だから、初めて会って歌ってもらって、それをディレクションするというのは、けっこう大変ですよ。どうしていいのかなって思う。でも、スタジオ内では5分もすればいろんなことがわかるんだよ。どんな歌い方が欲しいのかというビジョンは、『ブルーロンド』のあの歌い方が好きだったので、それが出てくればと、まずは小島さんに好きなように歌ってもらった。すると、何回かやってくうちに当然出てくるんですよ。

──『ゲゲゲの女房のうた』は、夫婦の掛け合いという構成なんですが、スタジオでもふたりで歌ったんですか?

鈴木:これは同時に歌ってないの。しかも最初は俺歌ってないよね、武川(雅寛)の仮歌だよ(笑)。私は歌入れに時間がかかるから、武川の歌をとりあえず入れておいて、それに対しての受け答えのところを歌ってもらった。それで小島さんに「これでOKですよ」って言って、おかえりになった後、自分の分をレコーディングしました。

──そうしたやり方で、小島さんの歌の独特のムードを引き出そうとしたんですね。

鈴木:小島さんの歌が最初にあって、私はそれを聴きながら歌うわけだから、その妖しげなムードにかなり引っ張られたよ。

──慶一さんは今回、映画音楽も手がけられていますが、『ゲゲゲの女房のうた』という主題歌ということに関しては、いわゆるポップとしてのキャッチーさについては意識されたんでしょうか?

鈴木:まず、映画のエンディングロールに入るようなサイズやテンポで作っているので、キャッチー云々よりも、映画のエンディングとして成立するかどうかっていうのが先だよね。全然別のタイプの曲をはめ込んだようなエンディング・テーマにはしたくなかったので。だから、映画の印象を引き継いだものとしての曲だよね。

──もちろんそれは、鈴木監督が詞を書かれてるということにより、見事に繋がっているということですね。

鈴木:監督が詞を書くことが一番いいなと思った。

小島:この詞、いいですね。監督が書いてるってびっくりした。

──あくまで映画の世界観なり風景がそのまま主題歌になっている。

鈴木:と思うよ、その気持ちで作ったので。映画の音楽については私のソロワークに近いので、主題歌はもう一回レコーディングし直して、今度はバンドっぽくやろうということで録音しました。WORLD HAPPINESS 2010でも一緒にやって、ライブを一度やるとこれでまた感じがわかるんだよ。あのときは雨が降ったり、非常に野外らしい状況ではあったんですけど、でも小島さんそれに屈せずニコニコして歌ってたし。

小島:楽しかった!

──ムーンライダーズ feat.小島麻由美としてはCDリリースよりも前にライブをやるということで、心配や気負いはなかったですか?

小島:気負いはないです。自分のワンマンライブじゃないから(笑)。

鈴木:天候も怪しげだったし、緊張の中でやってたんで、俺たち非常に助かりました。インプロから始まって途中から入ってもらって、突然やけに明るい人が来たなって(笑)。

小島:観光みたいな感じでした(笑)。

──やっぱりスタジオでも、小島さんの醸し出す雰囲気がいい影響を及ぼしたんでしょうね。

鈴木:ご本人のレコーディングの現場は見たことないから、このプロジェクトでしかわからないけど、何か不思議だもん(笑)。

水木さんは感情的とか情緒的なことがないのが面白い(小島)

──小島さんは歌で水木しげるの世界観に入ってみてどうでしたか?言ってみれば、ドラマの主人公の一人になった感じだと思うんですけど。

小島:自分の声がものすごい硬く感じるんですよ。耳にさわるというか、キンキンしてるんですね。慶一さんのほうではっきりとハマりのいい歌を作ってくれているけど、私が入ると異物感というか、「あ、全然違う人が歌ってる」って思われてしまうから、何とか馴染むようにしないとって思った。

──歌を楽曲にどうフィットさせるかというところに苦心されたと。

小島:これは慶一さんの言うとおりにしようと(笑)。

──慶一さんからは具体的に歌についてのアドバイスがあったんですか?

小島:いえ、でもぜったい怒ったりしないし、現場の雰囲気をよくしてくれたので、ゴキゲンで歌ってました(笑)。

鈴木:ゴキゲンさがいいよね。それがちょっと怪しげなムードを生んでいるのかもしれない。

──小島さんの朗らかな歌声が、水木さんのジメッとした世界とはまた別の魅力になっているように感じました。

鈴木:あのね、私は水木先生って湿ってないと思うんだよね。すごいカラッとしてる。

小島:そう思いますね。あれはなんなんでしょう。

鈴木:南方の香りがする。それは戦争で行ってらしたしたことも関係していると思う。水木しげるさんのマンガって、私はまさにリアルタイムなんだ。貸本屋に借りに行くんだけど、親には怒られる。だから、学校で回し読みして「怖ぇーな」って思うわけだ。水木先生のマンガって細密画なんだよね。藁葺き屋根一つ取っても、あるものを何でも書いてしまうその細かさとか、バリのアートに近い。ポヨヨヨーンって煙のような妖気が漂うときがあるじゃない、あれがあの方のマンガの一番の特徴だと思うんだ。あの妖気が音楽でも出せればなと。

小島:ウェットな感じが全くない。何か感情的とか情緒的なことがないのが面白い。

鈴木:だから『カランコロン漂流記』を読むと、文章が続いていていきなり「これ、すなわち」ってぽわーんと終わる、面白いよなぁ。戦争で修羅場をくぐってるんだけど、一生懸命やってた人はすぐ死んじゃったけど、のんきに怠けてたから助かったとか(笑)、何かカラッとしてるんだよね。その辺は鈴木監督が書いた歌詞にもよく表現されてると思うよ。

小島:私もカラッとしてるというか、情緒的なのはあまり好きじゃないので、しっくりきますね。

鈴木:小島さんの節回しがしっくりくるじゃない、するとこっちもそういう節回しになっちゃう。「♪ふぇぇぇぇぇぇん」って。

──本当に水木さんの醸し出すムードと小島さんの歌い回しがすごく一致した場面ですよね。

鈴木:たまたま小島さんのスケジュールも空いていたから。WORLD HAPINESSも一緒に出れたし、レコーディングも2回もできたし、偶然がたくさん重なった。もちろん偶然の前に、小島さんにぜひ歌って頂きたいなという気持ちがあるわけで、偶然は必然とかよく言いますけども、スピードを持って作ってたから、偶然がうまく働いたかなとは思います。

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メンバーが勝手に考えたものが組み合わさった感じ(鈴木)

──小島さんは、念願だったプロデュースされて歌うという作業をしてみて、いかがでしたか?

小島:楽しかった。でも、こんなに楽でいいのかなっていうのもありました(笑)。

──歌に集中できるというのは、ふだんの制作と違いますか?

小島:曲作るの大変ですよね(笑)。

鈴木:ソロでやってると、曲作って、歌詞作って、レコーディングして、それに歌を入れるっていうのは非常に大変な作業だよね。

小島:歌うだけなら自分のアルバムは早くできるんですよね。

──これからはソロでも、今回のような他の方とのコラボだったり作曲を任せてみたりだということもでてくるでしょうか?

小島:ねぇ、いいですよね、もうずうっと自分ひとりだから、そろそろいろんなことをやってもいいかな。

──カヴァーということでは、2曲目に収録の「日曜はダメよ」。こちらもすごくはまりすぎなくらいはまってるカヴァーですが、この曲を取り上げようと思ったのは?

鈴木:ムーンライダーズにおいてかなり前から取り上げていて、90年代で1回テレビ番組用にやったり、今年の3月にライブでやったりしていて。今回何かカヴァーをやろうといろんな候補が挙がったけど、打合せをしていくうちに、やっぱり「日曜はダメよ」が合うなということになったんです。レコーディングしてみたら本当にぴったりで、カラッとして湿り気ない。

小島:すごい歌いやすかった。曲もいいですよね。

──歌の世界観も小島さんの楽曲に何となく近いものを感じました。

小島:そうですね。好きですね。自分のライブでもやりたいですね。

鈴木:西田佐知子さんのバージョンを基準にしたけれども、そこからいろんなものを加えていった。ライダーズでやってた頃はイントロを我々でアレンジし直して演奏していたので、今度はイントロをちゃんと聴いて、それをもう一回変形していこうと。

──これまでの解釈を再度練り直していったんですね。

鈴木:外国でも日本でも様々な人がカヴァーしているので、イントロのフレーズだけ置いておいて、いろんなバージョンを聴きつつチャラにしていった。ムーンライダーズとしては、今回のシングル3曲については、個人作業になってたね。「ここちょっと俺やるから」って譜面書いてる人いるし、みんなで相談することがほとんどない。そうやって勝手に考えたものが組み合わさった感じだよね。まぁライダーズのアルバムになったらもうちょっと違う作り方だけども、われわれの方も風通しがよくて、個人のプレーヤーがやりたい放題にやってる。いまは、この作り方がいいなって。この間白井(良明)がね「無制限にやりすぎてない?これ」って(笑)。

──それは、特に3曲目の「くれない埠頭」に感じます(笑)。

鈴木:あのヴァージョンはWORLD HAPINESSの1曲目にやったのが最初。

──めちゃくちゃプログレッシブなバージョンになっていてびっくりしました。

鈴木:あのライブ中は特に、何がどこで鳴ってるか私もわかってなくて。この音てっきりキーボードで出してるんだなって思ったら、全部ギターだったとか。

──そういうメンバーのそれぞれの自由度に任せつつ作っていくやり方が、ムーンライダーズの中でしっくりきている?

鈴木:そうだね。来年35周年なんで、きっともうちょっと違う作り方になる。でも、うまく両方が合わさればね。いまはインプロバンドと化しているので。

──「くれない埠頭」は13分に及ぶバージョンになっていますが、そのフリーフォームな感じを活かしたプロダクションになっています。

鈴木:小島さんのコーラス以外は、ダビングなしで同時に演奏したのを録ってるんです。スタジオではおのおの小さいブースに入って、エンディングで俺がまだギター弾いてるのに、みんなやめてる。だから「まだやってるよ慶一は」とか話声が入っているけど、あれは、そんな状況を聴かせたくて入れた(笑)。

──「くれない埠頭」は、小島さんが参加するというのを想定しての新しいバージョンなんですね。

鈴木:そうそうそう。「くれない埠頭」は何度も録音してるんですが、WORLD HAPINESSでやったワンコードになっちゃってる、オリジナルとぜんぜん違う「くれない埠頭」を小島さんが聴いてやりたいと言ってくれた。これがまた面白いです。

──小島さんはライブのときにそれを聴かれてどんなところを気に入られたんですか?

小島:長いドローンが始まって、不協和音みたいな感じが「えっ、何だろう」ってかっこよかったんですよ。東欧とかの音楽みたい。

鈴木:それをやりたいって言うんで、最新型のムーンライダーズっってこんな感じで、それを気に入ってくれて。じゃあ録ろうかと。

──リメイクではあるけれど、いまの現在進行中のバンドの実験的な面もできている。

鈴木:ほとんどライブレコーディングだね。白井はループを使ったりギターらしい音は一切出してないんだけど、最新型のライダーズのライブの形態がそうなんだよ。俺の方が先にループとかに夢中になったんだけど、白井はエフェクターの達人なので、すぐ抜かれる。

──メンバーそれぞれが持ち寄ったアイデアをすぐバンドに活かして、呼応していく。

鈴木:「日曜はダメよ」は、個人個人がこういうの入れたいっていうのを入れてるけど、「くれない埠頭」はセッションだったね。

──そうするとこの3曲は、小島さんとムーンライダーズのチャレンジした部分とポップスとしての完成度と、両方味わえる作品ですよね。

鈴木:特にこのシングルバージョンの「ゲゲゲの女房のうた」の私の歌い方は、更に小島さんに寄ってるよね。

小島:私が慶一さんの真似したんですよ(笑)。

鈴木:互いに寄ってる(笑)。

次はドローンをやってみたい(小島)

──あらためてお聞きしたいのですが、小島さんはムーンライダーズとのコラボレーションで発見したこと、ご自身の歌で再確認したことはありますか?

小島:次はドローンをやりたいなとか、7拍子をやろうと思って(笑)。

鈴木:スタジオで言ったよね。

小島:7拍子はかき立てられるものがありますね。「くれない埠頭」みたいなのやってみたいです。

──変わった拍子のリズムやループ感のなかで、小島さんのメロディなり歌がいかに発揮されるかというのも聴いてみたいです。

鈴木:ドローンに小島さんの歌をのせるといいかもね。

小島:面白そうですね。

──デモ制作とかでそうした実験をいままでしたことは?

小島:ドローンは、そんなにないですね。

鈴木:曲作るときはキーボードで作る?

小島:アップテンポの曲を作るときは、リズムから作ったりすることが多いですね。

──ムーンライダーズとしては、小島さんの女性ボーカルとのコラボからこれからフィードバックされるものはあるでしょうか?

鈴木:大いにあるね(笑)。すごい新鮮だよ。だってムーンライダーズって6人が書いた歌を俺が歌うんだから。相当大変なんですよ。自分で書いた曲はいいけど、ややこしいメロディが出来てきたりするし、一音ずつなぞって録音したりすることもある。だから、リラックスしてやれる場所であった。女性ボーカルはある曲では部分的に歌ってもらったり、何度か入れているんです。でもこういういわゆる交互に歌う完全なデュエットってなかったので、それは面白い。しかも小島さんの声が必要だという意図のあるデュエットなので。

──例えば今回のような、夫と妻が交互に歌うデュエット、といったフォーマットがある方が、そこにいろんなアイデアを投影しやすいと言えるんでしょうか。

鈴木:要するに、ドラマ性が生まれるんだよね。

小島:『ゲゲゲの女房』はやっぱりいい映画だなって。自分でもお金出して見たいなと思うほど好きな映画なので、一緒にできてすごい嬉しいですね。

(取材・文:駒井憲嗣 撮影:荒牧耕司)

▼ムーンライダーズ feat.小島麻由美『ゲゲゲの女房のうた』PV



■鈴木慶一 プロフィール

1951年、東京・羽田生まれ。1970年頃より様々なセッションに参加し1972年に、はちみつぱいを結成。バンドとして、またソロとしても数々のステージやレコーディングをこなす。はちみつぱいは1974年にアルバム「センチメンタル通り」を発表し解散。1975年、はちみつぱいを母体に、弟、鈴木博文らが加わりムーンライダーズを結成。ムーンライダーズの活動と並行して、70年代半ばよりアイドルから演歌まで多数の楽曲を提供すると共に、膨大なCM音楽を作曲。任天堂より発売されたゲーム「Mother」、「Mother2」の音楽は、今でも世界中に多数の熱狂的なファンを持つなど、国内外の音楽界とリスナーに多大な影響を与えている。映画音楽では、北野武監督「座頭市」の音楽で、第27回日本アカデミー賞最優秀音楽賞、第36回/シッチェス/国際カタルニヤ画祭オリジナル楽曲賞を受賞した。2008年2月20日、ソロアルバム『ヘイト船長とラヴ航海士』をリリース。第50回日本レコード大賞優秀アルバム賞を受賞した。
公式サイト

ムーンライダーズ プロフィール

1976年に鈴木慶一とムーンライダーズ名義のアルバム『火の玉ボーイ』デビュー。翌1977年にムーンライダーズとして初のアルバム『MOONRIDERS』を発表し、以降コンスタントにリリースを重ねる。1986年から約5年間にわたり活動を休止したが、1991年にアルバム『最後の晩餐』で活動を再開。常に新しい音楽性を追求するサウンドは、音楽界のみならず。幅広い分野で、数多くのアーティストに影響を与えている。最新アルバムは2009年9月リリースの『Tokyo 7』。2011年には35周年を迎える。
公式サイト

■小島麻由美 プロフィール

シンガーソングライター。東京都出身。1995年シングル『結婚相談所』で突然デビュー。同年発表アルバム『セシルのブルース』はジャズ、ジンタ、歌謡曲などの影響と少女的感性が結びついた"古くて新しい"音楽として注目をあつめる。その後、作品毎に意匠を変化させながらも"スウィングする日本語の唄"を軸に、数多くの冒険的、圧倒的な作品を発表。独自のコンボ・サウンドとともに立上がる唯一無二の世界が数多くの音楽リスナー達を魅了しつづけている。2010年に4年振り、8枚目のアルバム『BLUE RONDO』をリリース。初の公式ライブDVD(+CD)『BLUE RONDO LIVE!』を、オフィシャルWEB限定で2010年11月24日発売。
公式サイト


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