骰子の眼

cinema

東京都 ------

2010-10-02 16:00


「壊すかもしれない」怖さに向き合うこと ─女優・美波『乱暴と待機』について語る【後編】

本谷有希子原作、冨永昌敬監督作品『乱暴と待機』に出演する女優・美波インタビューの後編
「壊すかもしれない」怖さに向き合うこと ─女優・美波『乱暴と待機』について語る【後編】

厳選シアター情報誌「Choice!」との連動インタビュー企画“Artist Choice!”。「Choice!」本誌にはインタビューの他にもさまざまな映画・演劇の情報が満載です。

今回は10月9日に公開される、本谷有希子原作を冨永昌敬監督が映画化した『乱暴と待機』に浅野忠信らと出演する女優・美波氏のインタビュー後編。

【関連記事】 - この記事は後編ですので前編よりお読みください。
“なにか、壊れる音がする。それって、ずっと残る” ─女優・美波『乱暴と待機』について語る【前編】(2010-08-31)




見せかけではない、ほんとうの緊張感

『乱暴と待機』は、男女4人だけの関係性を凝視する映画である。そこで美波は、ある状態を「演じつづける」特異なヒロイン、奈々瀬に扮している。

「それは、見せかけの緊張感じゃない。ほんとうの人間の、落ち着かない不安、崩していけない怖さ。その緊張感がずーっとあって。大きな怪獣に追いかけられているようで、なかなか振り向けない。ほんとうは、意外と振り返ると、たいしたことがなくても。だから、振り返れれば、きっと乗り越えられる」

美波が話すことは、作品の分析であり、キャラクターの読解であり、演技の方向性であり、自分の気持ちのありようであり、そのすべてが「同時にある」ことでもある。

奈々瀬に語りかける言葉が、美波自身の吐露に思えてくる不思議。

いわゆる「役になりきる」ということとは違う。そうではなく、もっともっと「現実的」なのだ。きっと、リアリストなのだと思う。「これは役」「これは私」「これは演技」というふうに、脳内フォルダに振り分けて処理してしまういい加減さが、彼女にはない。物事をわかりやすく「片付ける」のではなく、現実の不可解さ、とりとめのなさ、無尽蔵さに、冷静に対処しているから、様々なファクターが連なり、蓄積され、結びつき、弾け合うことにもなる「演じる」ことの奥の深さが、言葉と言葉のあわいからこぼれ落ちることになる。


自分で芝居を編集できる場、それが舞台

ところで、『乱暴と待機』はもともとは演劇作品でもあり、ある種の密室劇でもある。しかし、明らかに舞台とは異なる感触がある。

美波が、演じ手として、舞台と映画の違いをどんなふうに認識しているのか、気になるところだ。

「演劇は自分で芝居を編集できるんですよ。編集しながら冒険もできる。だから舞台ははかないんでしょうね」

やはりこのひとは現実主義者なのだと思う。舞台での演技を「編集」と関連づけたとき、舞台経験のない人間にもそれがどういうことか、どういう輪郭なのかが、感覚的に伝わってくる。

「ただ、舞台が怖いのは、壊すこともできちゃうこと。役者が。だから、最高に緊張して、それが面白い部分でもある。ふとよぎることがある、これが壊れちゃったら……と」

舞台は一回性を生きざるをえない。映画と違ってやり直しがきかない。だからこその真剣さも、本気さもある。しかし、その「怖さ」を、「失敗」ではなく「壊す可能性」として認識しているあたりに、彼女の非凡がある。

けれどもそれをスリルと呼んではいけないとは思う、とつづける。

「たとえばジェットコースターのような、とは言いたくない。だって……お芝居で気持ちよくなってはいけないから」

おそらく、永続的ではない関係性を生きることこそ、演技なのだろう。

願いや祈りに似た何かを抱えながら、美波は敬虔に演技表現をつづけている。そう思った。

取材:相田冬二 撮影:平田光二 ヘアメイク:小濱福介(D&N) スタイリスト:井伊百合子


美波's ルーツ

ハーフということもあり、他の人との違いを気にしていた。
自分が傷つくことも、相手を傷つけることもあるアイデンティティ。

美波(みなみ)プロフィール

2000年に映画『バトル・ロワイアル』でデビュー以来、舞台、映画、ドラマ、CMなど幅広く活躍。若手実力派女優として注目される。主な出演作は、舞台『エレンディラ』NODA・MAP『ザ・キャラクター』、映画『さくらん』『デトロイト・メタル・シティ』、ドラマ『有閑倶楽部』など。9/4(土)から舞台『ハーパー・リーガン』に出演する。




映画情報

映画『乱暴と待機』

『乱暴と待機』(2010/97分)

2010年10月9日(土)テアトル新宿 他にて公開
監督・脚本・編集:富永昌敬
原作:本谷有希子
出演:浅野忠信、美波、小池栄子、山田孝之
配給:メディアファクトリー・ショウゲート
(C)2010『乱暴と待機』製作委員会
公式サイト





厳選シアター情報誌
「Choice! vol.15」2010年9-10月号

「Choice! vol.15」2010年9-10月号 表紙

厳選シアター情報誌「Choice!」は都内の劇場、映画館、カフェのほか、演劇公演で配られるチラシ束の“オビ”としても無料で配布されています。

毎号、演劇情報や映画情報を厳選して掲載。注目のアーティストをインタビューする連載“Artist Choice!”の他にも劇場・映画館周辺をご案内するお役立ちMAPやコラムなど、盛りだくさんでお届けします。
公式サイト

◇ステージラインナップ

『シダの群れ』
日程:9/5(日)~29(水)
劇場:Bunkamuraシアターコクーン

・さいたまゴールド・シアター第4回公演『聖地』
日程:9/14(火)~26(日)
劇場:彩の国さいたま芸術劇場 小ホール

・表現・さわやか『アラン!ドロン!』
日程:9/1(水)~14(火)
劇場:駅前劇場


◇シネマラインナップ

『乱暴と待機』
公開日:10/9(土)~
上映館:テアトル新宿

『ブロンド少女は過激に美しく』
公開時期:9月
上映館:日比谷 TOHOシネマズ シャンテ

『悪人』
公開日:9/11(土)~
上映館:シネクイント新宿ピカデリー


レビュー(0)


コメント(0)