ブエノスアイレスで毎日単調な暮らしが続くなか、愛猫の死と失業という突然の不幸に見舞われる60歳のルイーサ。彼女は退職金さえもらえず、愛猫の埋葬費さえ捻出できない。容赦のない現実に翻弄されるルイーサは、地下鉄の駅で驚くような行動をとり始めるのだった。
大まかなストーリーは厳しくシリアスだが、作風としてはどこかコミカルで明るく感じられるのが今作の特徴のひとつ。それはアルゼンチンの国民的舞台俳優であり、25年振りに映画復帰したルイーサ役のレオノール・マンソの演技によるところが大きい。
不思議なことに人生の不幸に見舞われる前のルイーサより、不幸に見舞われた後のルイーサの方が圧倒的に輝いてみえる。こわばって硬かった表情が、だんだんと柔らかく温度を持って輝き始めるのがわかるはずだ。レオノール・マンソは様々な人との出会いによってルイーサが徐々に自分の人生に目覚めていき、心が開かれていく様を実に繊細に、そして丁寧に演じている。
ルイーサが人生を変えて行くきっかけとなったオラシオ役のジャン・ピエール・レゲラスの存在感も際立っている。今作が遺作となった彼は、人生の苦難を知りすぎている老人を演じているが、彼もまたルイーサという存在に出会うことで変わったのだということを自然と表現している。生まれ変わった各々の人生を祝福するかのように、なけなしの金でホットドックとコーラを二人でむさぼりつくシーンは多くの観客の目に焼く付くことだろう。ホセ役の喜劇役者、マルセロ・セレのとぼけながらも温かい演技も捨てがたい。
また、今作を後ろから支えるスーペル・チャンゴの音楽も重要だ。アルゼンチンのCM等で脚光を浴びる彼等のセンスとユーモアを感じさせるその音楽は、ただ作品を盛り上げるだけでなく、観るものに何かしらの希望を与える。
映画のラストは特に明るいものではない。彼女達の生活は今後何も変わらない可能性もあるのだ。だが明らかにルイーサのなかで「何か」が変わったことだけは確かであり、その変化こそが重要なのだと今作は教えてくれる。
『ルイーサ』
10月16日(土)より、ユーロスペースにてロードショー、全国順次公開!
監督:ゴンサロ・カルサーダ
脚本:ロシオ・アスアガ
製作:オラシオ・メンタスティ、エステバン・メンタスティ、アントニ・ソーレ、ハウメ・ソーレ
撮影:アベル・ペニャルバ
録音:セルヒオ・ファルコン
楽曲:スーペル・チャランゴ
出演:レオノール・マンソ、ジャン・ピエール・レゲラス、マルセロ・セレ、ほか
配給・宣伝:Action Inc.
宣伝協力:神山明
協力:セルバンテス文化センター東京、(有)インタースペイン
2008年/アルゼンチン=スペイン/35mm/カラー/110分