骰子の眼

dance

埼玉県 さいたま市

2010-08-09 18:35


確かなダンススキルと柔らかで自由なイマジネーションで観るものを揺さぶるダンサー、KENTARO!!インタビュー

彩の国さいたま芸術劇場で康本雅子とのデュオ『「」の中』を上演するKENTARO!!にインタビューを行った。
確かなダンススキルと柔らかで自由なイマジネーションで観るものを揺さぶるダンサー、KENTARO!!インタビュー
写真:片岡陽太

十代から培ったヒップホップのダンステクニックと思想を基に、
想像力溢れる即興とストーリー展開、そして躍動感溢れるライブ感のすべてを駆使し、
コンテンポラリーダンスの世界を縦横無尽に跳ね回るKENTARO!!。
そんな彼が彩の国さいたま芸術劇場で9月3日~5日に行われる
康本雅子とのデュオ『「」の中』を上演すると聞き、話を伺ってきた。

その場で踊りがどんどん浮かんでくる

──今回の作品のタイトル『「」の中』というのはどういう思いでつけられたのですか。

全く作品のイメージが無くて先行でつけたのですが、康本さんと一緒にやるということで、まずはあまり恋愛っぽくは見えないだろうなと。背丈も一緒だし。だからいろんな関係性、例えば家族、恋人、他人に見えるような作品がいいのかなと。しかもいろんな関係性に見えながらも、お互いは全然別に生きているような作品にしたかった。だから振りについても一緒に踊ったりするところで、相手を見ないとか、たまに見るとか、そういう仕草でお互いを探り合いながら、タイトルの「」にあてはまるものをたくさん創っていく感じですね。

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写真:コスガデスガ(撮影場所:トヨタ自動車株式会社 東京本社体育館)

──KENTARO!!さんは作品を創るのが早いそうですね。

僕は創るのがかなり早い方なので、康本さんは本当に頑張ってくれています。彼女は普通の人の二倍くらいは振りを覚えるのが早いです。僕はあらかじめ振りを創ってこないんですよ。康本さんの身体を見てその場で「こういう踊りをやってほしい」というのがどんどん浮かんできて振り付けていく。そこで一回決まったら殆ど変えません。

──例えばそれは自身が主宰するダンスカンパニー『東京ELECTROCK STAIRS』で振り付けるときも同じですか。

同じです。「この娘はしゃべったらおもしろい」とか「この人だったら汚れ役でも大丈夫」とか、それぞれのメンバーの個性が大体わかっている。だから演劇のアテ書きじゃないけど、その人にしかできないフレーズとか味みたいなのが好きですね。

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写真:コスガデスガ (撮影場所:トヨタ自動車株式会社 東京本社体育館)

康本さんはこれまでに一番踊りたい人でした

──今回デュオをやられる康本さんはKENTARO!!さんにとってどのような存在だったのでしょうか。

そもそもコンテンポラリーダンスをちゃんと見ようと思わせてくれたのが、康本さんがやられたASA-CHANG&巡礼『背中』のPVでした。それまでにももちろんピナ・バウシュを生でみて感動することはありましたけど、僕はヒップホップをやっていたからビートで踊るのが当たり前だったんです。ピナ・バウシュの他にもコンテンポラリーダンスはいろいろ観たのですが、ちょっと実験的すぎるかなと思うものが多くて。そんなとき康本さんがやられたPVを見て、「コンテンポラリーダンスでもこんなポップなものや音にはめて踊るものもあるんだ」と思って。それから劇場でコンテンポラリーダンスの作品を一から観始めたんです。

──今回康本さんと一緒にデュオをやると決まった時にどういう作品にしたいと思いましたか。

「一緒に踊りたい」と思う女性ダンサーは少ないのですが、康本さんは別でこれまでに一番踊りたい人でした。だからいろんなストーリーも見せたいんですが、まずは康本さんの良さを消さないように、いつもの彼女よりもさらに良い部分を僕が引き出したいと思ってます。いいものをつくるのは当たり前なんですけど、現在「良い」といわれているコンテンポラリーダンスの作品の、さらにまた上をいきたい。いまはとりあえずいいダンスを創るということしか考えてないですね。

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写真:コスガデスガ (撮影場所:トヨタ自動車株式会社 東京本社体育館)

──いったいどういう内容になるのか、非常に楽しみです。

やっぱり相乗効果で行きたいんですけど、デュオはお互いの良さが死んじゃうことも多いんですよ。去年僕は外国人とデュオをやったんですが、凄く苦労しました。英語でやりとりをしたのですが、踊り方も違えば寄り添い方もぜんぜん違う。他の人の作品でもこの組み合わせだったら絶対面白そうなのに結果はそうでないということもあるし。だったらひとりで振り付けした方がいいと思うことも多いです。今回は僕が全部振り付けをやっているので、自分の作品としてもしっかり残るような作品を創りたい。

──康本さんもKENTARO!!さんも音の捉え方が近いということで、息が合う感じがするのですが。

やっぱり彼女は音感がいいですね。コンテンポラリーダンスでは音を聴いてない人があまりにも多い気がする。振りを移すときに音を聴いているつもりでも身体的にずれることがあるんです。同じ「ドン」という音でも人によって微妙にずれてしまう。そこがかなり大変でストレスになるのですが、康本さんには全く無いです。 デュオでやるときはそれがあるとすごく大変なので。

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写真:木田陽子

音楽・漫画がモチベーション?

──今回の音楽についてはどうされるのですか。

本当はオリジナルを半分くらい創りたかったのですが、10月のソロ公演と並行して創っているので厳しいかな。ただSE(効果音)とか曲の繋ぎはほとんど自分で創ります。個人的にすごく曲間にこだわっていて、ブツッと切れるというのが好きではなく、SEがあって、またゆっくり小さな音からピアノが入っていって、というようにストーリーがちゃんと繋がって曲を崩さないように音を繋げたいです。

──KENTARO!!さんのサイトを拝見させていただいても音楽にこだわりがあるのがわかります。

あのサイトは手作り感満載で結構しょぼいんですけど(笑)。もともと自分でも音楽を創っているし、常に自分と密着しているし、モチベーションになっています。音楽が無いとやっぱり踊りたくないですね。最近だと“髭”というロックバンドの『青空』という曲がすごくいいです。僕は普遍的なものが好きだし、わかりやすいんですよ。髭のような曲を落ち込んだときに聴いてまた踊ろうと思ったり。

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写真:塚田洋一

──本も小説から漫画と幅広いですね。

漫画は『ジャンプ』が好きで小学校から絶えず買っていて。継続して買っている単行本はたくさんあるのですが、それを読んで踊りたくなることは結構あります。僕、落ちやすいんですよ。ただ、鬱みたいにはならなくて、次の日にはアガる。『ちはやふる』とか読んでがんばろうと思ったり。小説だったら角田光代さんが好きですね。

──KENTARO!!さんのように踊りをその場で創作していると、インプットされたものはすべてそこに現れるでしょうね。

普段吸収しているものがそのまま出ちゃいます。創っている時はめちゃくちゃ元気なんですよ。モードがそうなっているから。ただまわりでもあのブログは暗いと評判で。でもそれがいいと言ってくれる人もいるんですよ。こないだある地方の人が「共感できて元気が出るからいつも読んでます」と言ってくれましたし。

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写真:片岡陽太

ヒップホップにもコンテンポラリーにも「どこにも属さない」

──KENTARO!!さんがやられていることはヒップホップとコンテンポラリーに股がった、ある意味で特殊な立ち位置かと思うんですが、その点で今のダンス界に対して何か感じることはありますか。

ヒップホップにしてもコンテンポラリーにしてもそれはありますね。ヒップホップは型があって違うものを受け入れないし、まるでそれはクラシックバレエの世界と同じようで。例えば日本語で裸足で踊ったりするだけで「あれは違う」と言われてしまう世界。じゃあコンテンポラリーの世界なら自由かと思ってきたのですが、コンテンポラリーも大人が牛耳ってるというか。かといって大人の人達がみんなかっこいいわけでもないし。
とにかく「自分だけ幸せならいい」という人が多いのかなと。創るのはそれぞれみんな創るんだけど、若手のために何かをしてる人はあまりいない。音楽の世界だったら、例えばヒップホップでもそれはあるんです。才能のある若い人達を見つけてまわりに紹介して次の世代に繋げて行く、というような。そういうことから僕自身もワークショップをやっているし、たくさん企画をやっているんです。でも別にそれは僕がやらなくても、偉い人とかお金がある人たちがやってくれたら、ほんとはもっと若手が育つと思う。それが一番どうにかしてほしい点ですね。

──ヒップホップにもコンテンポラリーにも「どこにも属さない」というのはご自身のなかで意識的にある、と。

あります。ヒップホップの人からすれば、「あれはヒップホップじゃない」ということもたくさんやっているので。でもそこは仕方が無い。コンテンポラリーのフィールドからは最初はやっぱりすごく無視されました。やっていて二年くらいはまったくオーディションにも受からないし、シカトされたし。横浜で賞を獲ってから変わりましたが。ただ、自分がやってるのは意味合い的にコンテンポラリーダンスなんだろうなという意識は常にあります。作品について「何のダンスだ」といわれればコンテンポラリーダンスなんだと。

(インタビュー:世木亜矢子 構成・文:中村 慎)

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写真:木田陽子



dancetoday 2010
9月3日(金)〜5日(日) 彩の国さいたま芸術劇場 小ホール

開演:3日(金)19:30、4日(土)5日(日)開演15:00
料金:【一般】3,500円 【メンバーズ】3,150円

Island of No Memories―記憶のない島

振付・演出:伊藤郁女
出演:伊藤郁女 ミルカ・プロケソバ 山崎広太

「」の中

振付・演出:KENTARO!!
出演:康本雅子 KENTARO!!

※詳細は彩の国さいたま芸術劇場公式サイト

KENTARO!!ソロ公演情報
10月14日(木)~24日(日) 僕はまた今日も未完成の音楽で唄う

場所:こまばアゴラ劇場 振付、演出、出演:KENTARO!!


料金:【前売り】2800円 【当日】3200円



※詳細はCAN,Inc.


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