骰子の眼

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2010-07-02 23:25


「これこそストリート・ファッション。パリ、ロンドン、ミラノ、ニューヨークがアマチュア同然にみえる」ジャマイカ文化の熱気を伝える『ロッカーズ・ダイアリー』発売
(c) Ted Bafaloukos

レゲエ・ムービーの金字塔『ロッカーズ』(1978年)のメガホンをとったセオドロス・バファルコス監督がその制作の現場を綴ったフォト・エッセイ『ロッカーズ・ダイアリー』が発売された。
ギリシャ生まれのバファルコスは、カメラマンとしての夢をかかえアメリカに赴き、ニューヨークでレゲエに刺激を受け、全米ツアーを行っていたボブ・マーリィと出会うことで、本場ジャマイカで映画を制作することを決意する。連載第2回でご紹介する〈第3章 燃えるジャマイカ 〉は、友人のジャマイカ人とともにキングストンに旅行するチャンスを得るところからスタート。伝説のアーティスト、キング・タビーのスタジオやボブ・マーリィ宅を訪れたりといったエピソードとともに、色鮮やかなキングストンの街を描写している。
キングストンの中心部に位置するミュージシャンたちが集う場所、アイドラーズ・レストに乗り込む、バファルコス監督の観察眼の鋭さが感じられる場面だ。

第3章 燃えるジャマイカ 『アイドラーズ・レスト』より(抜粋)

その翌日、フィリップがやってきて、私たちをダウンタウンに連れていってくれた。キングストンの中心部である。これぞ正真正銘のキングストン。バス、車、バイク、騒音、埃、クラクション、そしてすさまじい数の人間。私たちを街角で下ろすと、フィリップはそのままどこかへ行ってしまった。路地と呼んだほうがいいくらいの狭い道に、車とバイクが数台停まっていた。ドレッドヘアの男が10人かそこら、日陰になったほうの壁に寄りかかっている。ランディーズ・レコードショップの隣にあるこの場所が伝説の〈怠け者の巣窟〉(アイドラーズ・レスト)だった。ミュージシャンや歌手、その追っかけ連中が毎日集うところだ。ここは個人事務所、臨時の職業斡旋所、PR会社としても機能していて、大勢の歌手やスタジオ・ミュージシャン、そしてミュージシャンの卵が音楽業界への手づるを探し求めてここにやってくる。隣のランディーズ・レコードショップでかかっている新しいシングル盤の音が雑踏の騒音と混じり合って、街角に響き渡っていた。

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(c) Ted Bafaloukos

その場にいた全員が一斉に、キングストンにいるたったひとりの白人──つまり私──に目を向けた。私が写真を撮りはじめるとリスターが、「レゲエ・シーンを記録しにきた売れっ子《「売れっ子」に傍点》写真家だ」と説明した。その言葉に、空間全体が活気を帯びてきた。突然、私の周りで華麗なショーが始まったのだ。ステップを踏むやつ、うろうろ動き回るやつ、身振り手振りをするやつ、ポーズをとるやつ。しかし圧巻なのは、なんといっても彼らの装いである。これこそストリート・ファッション。世界中のどこへ行ってもお目にかかれないような代物だ。これに比べれば、パリ、ロンドン、ミラノ、ニューヨークなんてアマチュア同然だ。ここ〈アイドラーズ・レスト〉に集まっている連中の全員が、カッコいいを超越したカッコよさである。ファッションには〈何を着るか〉派と〈どう着るか〉派という二種類の異なったこだわりがあるが、ここではそれが見事に調和していた。

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(c) Ted Bafaloukos
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(c) Ted Bafaloukos

もうひとつ、彼らを見ていてわかることがある。それは、服の善し悪しは値段の問題ではないということだ。ただし、靴は例外かもしれない。そこが金のあるなしを密かに示すバロメーターなのだ。ここでは〈正しい選択をすること〉がすべてを左右していた。それができれば、予算のあるなしとは関係なく、目を見張るほどエレガントになる。例えば、そこにいたひとりの男──頭のてっぺんからつま先まですべてデニムという、一歩間違えば悪趣味になりかねない若者ですら、際だってエレガントなのである。そのデニムの彼が私に近づいてきて、「ここで何をしてるんだ」と話しかけてきた。私が「写真を撮っているんだが、きみの写真も撮ってやろうか」といったら、10ドル寄こせときた。モデル代を要求してきたのだ。私が「貧乏だから金はない」と答えると、「それなら猿の写真でも撮ってろ!」と叫んで、げらげら笑いながら去っていった。

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(c) Ted Bafaloukos

リスターに目を向けると、この場所を離れたそうな顔をしていた。私に対する敵意がハンマーのように襲いかかってきたからだ。身振り手振りをともなった、宣戦布告のような饒舌な罵声が浴びせかけられた。残念なことに、そのほとんどは私には理解不能の言葉だった。みんながいきなり地元民になってしまったような感じだ。彼らがしゃべっていたのはパトワ語である。金を要求していると思われる怒気をにじませた言葉に混じって、ときおり英語の単語も聞こえてくる。人数が次第に膨らんできて、われわれは逃げ場を失った。そのとき、リスターがこう叫んだ。「ボブ・マーリィの写真を見せてやれ!」

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(c) Ted Bafaloukos

私はカメラバッグから、はがきサイズにプリントしたシカゴ公演の写真とニューヨークの街頭で撮影した写真を取り出して見せた。その途端、雰囲気がガラッと変わった。みんなが静まり返ったのだ。夢は実現するんだという証拠写真をみんなで見ようじゃないか──といった感じである。ジャマイカを征服した男の肖像をじっくり見よう。これぞ眼福だ。リスターと私がそこを脱出したとき、持っていた写真はあらかたなくなっていた。「ボブ・マーリィに渡さなきゃならないんだから」と説得して、かろうじて数枚回収できただけだった。

(写真・文:セオドロス・バファルコス)
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(c) Ted Bafaloukos

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『ロッカーズ・ダイアリー』

写真・著:セオドロス・バファルコス
訳:浅尾敦則
2,990円
ISBN978-4-309-90876-2
菊判変形/ハードカバー/272ページ
発売中
UPLINK

『ロッカーズ・ダイアリー』公式サイト
http://www.webdice.jp/rockersdiary/

UPLINK WEBSHOPでは限定の特装版、1980年に全米公開された際のポスターとのセットや、映画『ロッカーズ』の貴重なスチールを集めた写真集『ロッカーズスタイル』とのセットなどを販売中です!
http://www.uplink.co.jp/webshop/


関連企画


『ロッカーズ・ダイアリー』刊行記念上映+トークイベント
トークゲスト:Likkle Mai

2010年7月9日(金)19:00開場/19:30開演
トーク19:30~/上映20:00~予定
渋谷アップリンク・ファクトリー
(東京都渋谷区宇田川町37-18トツネビル1F) [地図を表示]
渋谷東急本店右側道200m右側
料金:1,000円(1ドリンク付)

『ロッカーズ』
監督・脚本:セオドロス・バファルコス
キャスト:リロイ・ホースマウス・ウォレス、リチャード・ダーティ・ハリー・ホール、マージョリー・サンシャイン・ノーマン、ジェイコブ・ミラー、グレゴリー・アイザックス、他
製作:パトリック・ホージィ
音楽:ナイジェル・ノーブル
撮影:ピーター・ソヴァ
配給:アップリンク
1978年/アメリカ/99分/カラー

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■Likkle Mai(リクルマイ) プロフィール

DUBバンドDRY&HEAVYの元・女性ボーカル。在籍中に4枚のアルバムと1枚のリミックス・アルバムをリリース。05年、更なる飛躍を求めDRY&HEAVYを脱退しソロとして始動。06年2月アルバム『ROOTS CANDY』をリリース。07年7月セカンドアルバム『M W』を発表。サードアルバム『mairation』を09年11月にリリースした。この他ルーツレゲエのDJとしても第一線で活躍中。
公式サイト



【予約方法】
このイベントへの参加予約をご希望の方は、
(1)お名前
(2)人数 [一度のご予約で3名様まで]
(3)住所
(4)電話番号
以上の要項を明記の上、件名を「予約/ロッカーズ」として、として、factory@uplink.co.jpまでメールでお申し込み下さい。
アップリンク・ファクトリー予約ページ
http://www.uplink.co.jp/factory/log/003632.php



『ロッカーズ・ダイアリー』展

2010年6月30日(水)~7月12日(月)12:00~22:00
渋谷アップリンク・ギャラリー



レストランTabela『ロッカーズ・ダイアリー』発刊記念メニュー

アップリンク・ファクトリー、アップリンク・ギャラリーに併設されているレストランTabelaでも『ロッカーズ・ダイアリー』発刊記念メニューを展開中!


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ムサカ
(米ナスと牛挽き肉のチーズオーブン焼き) 580円

セオドロス・バルファコスの故郷、ギリシャの郷土料理。ヨーグルトから作るクーリームソースとブドウの葉のほのかな香りが特徴。

ムサカ



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ジャークチキン
(ジャマイカ風バーベキューチキン) 480円

ジャマイカの国民食とも言える代表的な料理。オールスパイスと数種類のハーブで、オリジナルに味付けしたタベラ自慢の一品です。

ジャークチキン

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