骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2010-07-23 22:30


「この映像を通して私たちが目にするのは、荒野である」─『デルタ 小川国夫原作オムニバス』クロスレビュー

小川作品に接するということは、自分の心のうちに潜む狂気に触れる危険な営みであるかもしれない
「この映像を通して私たちが目にするのは、荒野である」─『デルタ 小川国夫原作オムニバス』クロスレビュー
『デルタ 小川国夫原作オムニバス』より、『誘惑として、』

1960年代よりストイックな文体と深淵な世界観により確固たる地位を築いた作家・小川国夫。彼の作品に共鳴した映像作家が小川文学作品にそれぞれのアプローチで映画化に挑んだのがこの『デルタ 小川国夫原作オムニバス』である。坪田義史監督の『美代子阿佐ヶ谷気分』(2009年)奥秀太郎監督作品『USB』(2009年)の撮影を担当した与那覇政之監督による『誘惑として、』は、演出家としてのみならず、アート、音楽など幅広いジャンルでパフォーマンス活動を続けてきた飴屋法水の俳優としての存在感が画面を横溢する。書くことについて苦悩する作家という物語を題材とし、この映画そのものが映画論であるような構造を持つこの作品は、決してひとり語りではない、物語の可能性を示唆しているように感じられる。
『雲の上』(2003年)『国道20号線』(2007年)など、意欲的な活動を続けるインディペンデント映像制作集団「空族」のカメラマン高野貴子がメガホンをとった『他界』は、その「空族」の諸作にも繋がるその場にいる者でしか体現できないドキュメンタリー性を小川作品に加えることで、ある老人の失踪事件から起こる地方都市の人間関係のずれを描く。

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『ハシッシ・ギャング』より

第50回読売文学賞を受賞した同名短編小説集をベースにした『ハシッシ・ギャング』は、多摩美術大学在籍時よりインディーズ映画界で活動を続けてきた小沢和史の監督作。〈幻聴〉というキーワードから、小川国夫が数多く題材にしてきた静岡の風土の裂け目に、幻想的な世界を現出させている。
リアリズム、夢幻、形而上的と表現スタイルが異なりながら、それぞれの作品に共通する、漂う死のにおい。そしてときにさとすような、ときにおどやかな〈語り口〉は、観る者の感覚が研ぎ澄まされる、奥行きの深いオムニバスとしての通底するムードとなっている。

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『他界』より

『デルタ 小川国夫原作オムニバス』
7月24日(土)よりロードショー

渋谷アップリンクX
日時:7月24日(土)~8月6日(金)15:00/19:00
8月7日(土)~ 20:50
料金:一般1,500円/学生1,300円(平日1,000円)/シニア1,000円


『誘惑として、』(2010年/24分)
監督:与那覇政之
出演:飴屋法水/井上弘久/本多章一/佐久間麻由/鈴木宏侑

『他界』(2010年/20分)
監督:高野貴子
出演:渡辺敬彦/他

『ハシッシ・ギャング』(2010年/24分)
監督:小沢和史
出演:松浦裕也/土肥ぐにゃり/金崎敬江/川屋せっちん/ミキエ



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