骰子の眼

cinema

東京都 新宿区

2010-06-03 21:10


アンダーグラウンド・パルムドール受賞作!? 『エンター・ザ・ボイド』急げ劇場へ!スクリーンで観るのだ!

のりピーで知る事になったドラッグを買う側の話だが、これは売る側の話をリアルに描いた傑作。
アンダーグラウンド・パルムドール受賞作!? 『エンター・ザ・ボイド』急げ劇場へ!スクリーンで観るのだ!
(c) 2010 FIDELITE FILMS - WILD BUNCH - LES FILM DE LA ZONE - ESSENTIAL FILMPRODUKTION - BIM DISTRIBUZIONE - BUF COMPAGNIE

映画の一生を考えれば、テレビモニターで観られる事の方が多い現在、スクリーンで観なければいけない映画は確実に存在する。過去の映画を、シネフィル気取りで鑑賞するのではなく、同時代の映画『エンター・ザ・ボイド』こそ映画館で観る、いや、体験すべき映画である。東京では6月11日迄シネマスクエアとうきゅうで公開されているので急げ!と言っておく。小さなパソコンやテレビの画面ではこの映画を観た事にはならない。

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(c) 2010 FIDELITE FILMS - WILD BUNCH - LES FILM DE LA ZONE - ESSENTIAL FILMPRODUKTION - BIM DISTRIBUZIONE - BUF COMPAGNIE

監督のギャスパーは、前作『アレックス』から7年間、この映画を撮る準備とケン・ラッセルの『アルタード・ステーツ』のリメイクの準備にかかっていたという。結局『アルタード・ステーツ』は形にならず、この『エンター・ザ・ボイド』が完成した。
もう、4、5年前になるだろうか、ギャスパーがこのプロジェクトの準備のため東京に来ていたとき、二晩ほど東京の夜を案内した事がある。その時の経験はまさに『エンター・ザ・ボイド』の世界だった。麻布にあるSMクラブに連れて行き、目の前で客が鞭で叩かれる姿にギャスパーは、興味津々だった。女王様のプレイの真剣度がいつものことで飽きているのか微妙でおかしかったのを覚えている。その後、車でお台場を一巡りし、張りボテの香港の町並みを見せ、ニセの自由の女神を訪れ、真っ暗な埠頭に行き、ここにヤクザは死体を沈めるのだと教えた。それから歌舞伎町に行き、新宿のドン・キホーテのジャンクな雑貨のジャングルの中を一巡りし、歌舞伎町が上から見られるアパートはないかという要望で、二人でこっそりマンションに潜り込み、上の階から歌舞伎町の灯りを眺めたりした。

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(c) 2010 FIDELITE FILMS - WILD BUNCH - LES FILM DE LA ZONE - ESSENTIAL FILMPRODUKTION - BIM DISTRIBUZIONE - BUF COMPAGNIE

さらに、青山のホテルに戻り、外国人が集まるクラブに勤める外国人スタッフに話を聞いた。アルゼンチンからやって来た若者が新宿での客引きから出世して、六本木に店を持つようになり、毎週月曜日にはアタッシュケースに現金を詰め、店にやってきてステージにそのケースを開いて置き、世界中から集まって来た踊り子たちに現金で給料を払う話だとか、日本人が、クラブにやって来てボックス席で女の子といい思いをしてクレジットカードで清算して、その晩はご機嫌で帰ったのだが、翌日開店と同時にその客が真っ青な顔をしてやってきたが後の祭りで、昨晩の遊び代は300万円だったりとか、オーバードースで死んだ外国人、でもなぜか記事になることはなかったり、ここでは書ききれないドラッグの話は山ほど聞いた。それは同じ東京に住んではいるけれど、外国人が生活する別世界の東京の話ばかりだった。
そして今思えば、ギャスパーは、当時から東京を空撮したDVDを購入して、どうすればこの映像が撮れるか、撮影したところはどこかなどと下調べをしていた。また、なぜ、日本の資本を入れないのかと聞いたら、そうすると結局日本のタレントを使ったりしないとだめだとか、表現の制約が出てくるからだと言っていた。まあ、あれだけドラッグシーンが出てくればまず日本の会社が出資するのは難しかっただろう。

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(c) 2010 FIDELITE FILMS - WILD BUNCH - LES FILM DE LA ZONE - ESSENTIAL FILMPRODUKTION - BIM DISTRIBUZIONE - BUF COMPAGNIE

そんなことが数年前の話、出来上がった作品を3月のフランス映画祭でノーカットバージョンを観た。素晴らしい。キワモのでもなく、これこそが映画という堂々とした作品だった。しかも、あの時のロケハンで彼が撮ろうとしていた作品のコンセプトは全くブレることなく、内容も視覚的にも完成させたことに驚いた。きっと撮影中に多くのスタッフは、完成したイメージをはっきりと抱く事は難しかったのではないだろうか。それほど、ポストプロダクションの作業は膨大だったと思われる。

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(c) 2010 FIDELITE FILMS - WILD BUNCH - LES FILM DE LA ZONE - ESSENTIAL FILMPRODUKTION - BIM DISTRIBUZIONE - BUF COMPAGNIE

押尾学と酒井法子の事件により、東京のドラッグ事情の一端を一般の人も少しは知ることになったが、それはあくまで買う側の話で、この映画は売人サイドの話だ。さらに、海外から来た若者が売人になる話だ。もし、この映画を観て、既視感があるという人はヤバい事をしている人だろう。一見ファンタジーな感じもするが、リサーチの結果による圧倒的なリアルな世界を描いていた作品だと思う。リアルという意味では、映像化不可能なトリップする感覚の映像化も最大限の近似値で描いたと言える。とにかくスクリーンで観てほしい。新しい映像をクリエイトしようと思う人なら「これを見ずしてなにも語るなかれ」といってもいい。
自分が思い描く世界を映像に定着する事ができる世界でも数少ない監督がギャスパー・ノエだ。次回作は3Dポルノだという。これも楽しみだが、日本ではノーカットでは公開は無理だろう。
フランス映画祭の上映後、ギャスパーに、「パルムドールだよ、これは」といったらすごくうれしそうにしていた。本当にこの作品はアンダーグラウンド・パルムドールの価値がある作品だと思う。

(浅井隆/webDICE編集長)


映画『エンター・ザ・ボイド』

シネマスクエアとうきゅう他にてロードショー公開中

監督/脚本:ギャスパー・ノエ
出演:ナサニエル・ブラウン、パス・デ・ラ・ウエルタ、シリル・ロイ
製作:ブラヒム・シウア、ヴァンサン・マラヴァル、オリヴィエ・デルボスク、マルク・ミソニエ、ピエール・ブファン、ギャスパー・ノエ
撮影:ブノワ・デビー
SFX:ピエール・ブファン
協力:アニエスベー
配給:コムストック・グループ
(2010年/フランス/35mm/カラー/シネスコ/ドルビー/英語/143分)
公式サイト

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