『日曜日のうた』に参加したアーティスト。上段左からひらちん、穂高亜希子、下段左からSHIHO、見汐麻衣、藤田ゆか
アルケミー・レコードとアップリンクが共同でリリースした『日曜日のうた』は、70年代よりライブハウスという音楽の現場に関わり続けてきたJOJO広重という音楽家の視点から集められた、女性シンガーのコンピレーションだ。昨年のとうめいロボの活躍などに代表されるように、現在のシーンに女性のうたが必要とされていることを彼は敏感に感じとっていたという。彼の音楽の現場への洞察と愛情に基づきコンパイルされた今作は、それぞれのアーティストの個性にさらに豊かな輝きを与えている。
女の人のほうがズバリ確信を突いてくる
── 今回の『日曜日のうた』は、収録されている女性アーティストに広重さんが魅力や可能性を感じたところから、はじめられたんでしょうか。
知り合うきっかけというのは、ライブハウスでの対バンで観ることが多いんですけれど、知り合いから「こういうシンガーがいるので広重さん観てやってください」みたいなこともよく言われるんです。もともと自分がエンジェリン・ヘヴィ・シロップや赤痢といった女の子のバンドをプロデュースして成功してきているから、アーティストからも観てほしいという話をもらいます。もちろん女性であれば全部が全部オッケーというわけじゃないですけれど、自分の感覚のなかに引っかかってくる面白いアーティストをピックアップしてプロデュースしたり紹介したりする作業はずいぶん多い。
だから「とりあえず女性アーティストを募集しています」とか「女の子大好きです」と言ってるわけではないんですけど(笑)、たまたまそういった縁があるというのは確かですね。実際いい子たちが多いので、そういった縁にも恵まれていると思います。今回も東京だけではなく、高知や岡山といった地方発のアーティストとも接点がありますし、とうめいロボも岡山に行ったときに知り合った関係ですし、見汐さんも大阪にいらっしゃったときに会ったり。そういったほんとうに出会ったタイミングと、そのアーティストさんの状態というものがちょうどうまくシンクロしたときにご紹介させてもらっています。
── ライブで各地に行かれた先々でフィールドワークをされているんですね。
ほんとうに現場が、最前線のライブの現場がいちばん面白いと思っているので。僕らはそこで演奏してうんぬんというより、そこで30年くらいやってますので、それらを紹介していく立場でもあるので、実際自分が現場に行きながら、そこの人たちと触れ合いながら新しい感覚をどんどん次の世代に伝えていきたいというスタンスでやっています。そのなかでも、ここ何年かは女性アーティストが非常に面白いなと感じていて。
僕自身としてはずっと、それこそ佐井好子さんや森田童子さんを高校時代から聴いていたことはもちろんあるんですけれど、女の子たちのボーカルのほうが、今の時代のなかでリスナーたちのある意味癒しや励まし、希望、そういったところを刺激する材料としていいんじゃないかなと思っているんです。先が見えないし不安だし、精神的にもみんな弱くなってきている。聴いて元気になるとか、ライブを観て燃えるとか、CDが売れて儲かるとか、音楽のいろんな要素があるなかで、聴き手がいちばん求めているところにダイレクトに届くというのが、僕らが紹介しようとしているうたなんじゃないかなというのは、つくづく思うんです。なぜか男の人は出てこない(笑)。女の人のほうがズバリ確信を突いてくることのほうが多いなと感じます。
── それぞれのアーティストの個性はもちろんなんですけれど、時代の空気とも無関係ではないと。
リンクしているような気がします。逆に言えば、女性のうたというのはそんなに長くないんです。だいたい結婚したら終わり、子供ができたらそこまで。活動時代が男性に比べてそんなに長くない。それは自分が担当してきての実感なんですけれど、10年もつというのはほんとうに稀で。5年とか6年といった短いスパンでしかもたないことの方が多いんです。でもその分濃厚になる。そこの旬を逃したくないと、プロデューサーとしてはきっちり形にしておきたいんです。
『日曜日のうた』を編纂したJOJO広重
── プロデューサーの観点からすると、たとえ逸材でも、いつか音楽を辞めてしまうんではないかという不安が常にあるんですね。
だって「子供ができました」って言われたら活動ができないですからね。育児が終わったら活動を再開する方も、結婚しても続ける方はいらっしゃいますけれど、基本的には短いと思っているので。いい時期を逃さず形に残しておきたい。いったん形にして残せば、それはCDやレコードやビデオとして10年後も20年後も次の世代に伝わりますから。
── そして『日曜日のうた』には東京以外の地域で活動している方も少なくないです。地方のほうが、生活に根ざしての音楽活動に適しているとも言えるのでしょうか?
やりやすいかもしれませんね。東京だと埋没してしまうこともあると思うんです。かといってSHIHOさんみたいな人が高知にたくさんいるかというと、そういうわけでもないんですよ。高知のなかでのSHIHOさんのカラーというのはやはり特殊だと思うんです。でも、高知にはまだSHIHOさんのフォロワーはまだ出てきていないけれど、こういう作品になれば、SHIHOさんをフォローする人たちも出てくると思うし。藤田ゆかさんは手水というバンドをやっていて、そこの紹介でとうめいロボさんが出てきたという経緯もあるんです。だから手水のライブを観て、私もうたいたいと思って出てきた。そうやって順々に繋がっているところがある。
── そうした独自の活動をされている方が各地にいるわけですね。
点在している人たちをきっちり励ましていきたい。地方の場合、数も少ないですし、やれる場所も少ないからどうしても小さいサークルになってしまいがちなんです。そういうところを紹介していくことで輪が広がっていけばいいなと思います。地方の場合、そうした作業が必要なんですよ。どうしてもメディアの中心は東京なので、大阪はちょっと特殊ですけれど、東京で拾い上げる作業をやっていかないと、いくら地元でがんばっていても、地元のなかのひとつでしかなかなかありえない。もっと大きな枠のなかで紹介していく作業は必要だと思います。
── 地方では弾き語りのソロ・アーティストの方はライブハウスで演奏しているんですか?
ライブハウスでやっていれば僕らの耳に必ず入ってきますけれど、個人で宅録で、という世界になるとデモテープを送ってもらわないと解らないですね。だからやっている方がいらっしゃれば、どんどん発信してほしいんです。あなたの部屋でうたっている限りでは、僕の耳に入らないので。せめて録音してなにかの形にして出したり、地元のライブハウスでうたってほしい。そうすると僕らの耳元に届くので、一緒に何かやれることがあるかもしれない。だから『日曜日のうた』は、何も東京に出てこなくても、地元で何らかの活動をスタートしてほしいという呼びかけでもあります。そうすると不思議なことに、必ず届くんですよ。
本人にしてみれば、3人や5人のお客さんの前でうたっていて何になるのかしらと思うかもしれないけれど、ひとりでもお客さんがいて「良かった」と思えば、「広重さん、こんな人がいるんですけど」って連絡がくるわけです。やり始めないと何にも起こらないので、やっぱり自分で曲を作って、人前でほんとうに少ないお客さんの前でもいいからやり続けてほしいという希望があります。そうすると、その人のうたを聴くべき立場の人にはいつのまにか届く。そのミラクルみたいなことは、何年も音楽活動をやっていて、ずっと感じています。あなたと僕は直接連絡が取れなくても、誰か介在してくれる人が必ずどんなときでもいるのです。
── それはミュージシャンにとって心強い言葉ですね。
希望になりますよね、でもそれは本当なんです。例えば佐井好子さんは僕が単純にリスナーだったんですけれど「ファンなんです」とあっちこっちで原稿を書いてばかりいると、本人の元に届くわけです。「CDになるときに広重さんライナー書きませんか」と声がかかり、いつの間にか一緒にやれるようになっている。そういうことは海外でもいっぱいありますよ。ホークウィンドがすごく好きでアルバムのなかでカバーしたら、彼らが来日したときに「お前俺たちの曲をカバーしてただろう、今夜はその曲をやるからライブで一緒にうたおう」って言われる。こっちにしてみれば信じられないですよ。でも、海を越えてもそういうことはあるから、日本でももっとそういう可能性はある。今回はたまたま女性ボーカルですけれど、ノイズであろうがロックであろうが弾き語りであろうが、そういったものは続けていただきたい。それが第2弾、第3弾に繋がっていくと思う。
2010年1月に渋谷アップリンク・ファクトリーで開催されたイベント『日曜日のうた』より。左:穂高亜希子、右:JOJO広重
地方に隠れている原石をもっと掘り起こしていきたい
── 収録されている穂高亜希子、見汐麻衣、ひらちん、SHIHO、藤田ゆかという5人のアーティストですが、今回この5組を選ばれた理由というのは?
去年のとうめいロボや埋火を見ていて、女性のシンガーをもっと紹介したかった。それで、アルバム1枚出すにはまだ力があるかどうかはわからないけれど、コンピレーションで数曲なら紹介できるんじゃないかというアーティストをフォローしているんです。だから見汐さんのソロは、埋火とはまた別のスタイルでやっているので、それを紹介したかった。穂高亜希子さんは、とうめいロボの千尋さんが「いいですよ」と言ってくださった。ひらちんはおにんこ!というバンドをやっているんだけれど「ソロを作ったので聴いてください」とCDRを送ってきてくれた。藤田さんは前から知っていて、ぜひソロでやってくださいとお願いしました。SHIHOさんは高知で対バンをして知りました。
だから見ず知らずの人を引っ張ってきたというのではなく、僕との関係性で選んだというのは間違いないです。これをぜひシリーズにしていって、こういった地方に隠れている原石をもっと掘り起こしていきたい。そのきっかけがこの第一弾で、これから伸びようとしてくれる人たちのステップになってくれればと思います。
── 広重さんからのサウンド的なアドバイスは?
楽曲に対しての注文はほとんどないですね。基本的にアーティストから提出していただいた楽曲で、アーティストの主体でしたいことをさせてあげたい。それはずっとプロデューサーとしてのポリシーです。でも、レコーディングに立ち会った段階で、最終判断で「どっちがいい?」と迷ったときに聞かれて選ぶことはあります。もちろん、心のなかではあるんですよ(笑)。もっとこういう歌詞のほうが、とかこういう展開のほうが、とか。でもそれはあえて言わないようにしているんです。特に最初だから、できるだけ原石のきらめきのまま出したい。整えて美しくなる、加工された美しさというものもありますけれど、彼女らのいいところを出していって、そこからどれだけ素晴らしくなっていくかを見るのも楽しみのひとつだから。
── 音楽活動を長いスパンで捉えても、そうした美しさは今しかないということですね。
そこを記録しておきたいんです。だってビートルズだってそうじゃないですか。レコーディングしたものは素晴らしいけれど、その前のデモテープを聴きたいという気持ちだってある。そんな感じかな。元がすごくいいのであれば、それも聴きたいし、もっとプロデュースされて大きくなるのも楽しみ。インディーズの面白さってそこだと思うんです。
聴き手の気持ちのなかにすっと入っていけるかどうか
── これまでもアルケミーは海外を照準にしてきましたが、今回は?
最近はインターネットが豊かになったので、日本国内だけでなく、海外の人にも届くので、さらにワールドワイドになっています。ノルウェーの音楽好きの人が、言葉が解らなくても「とうめいロボいいね」って言ってくるんです。以前はノイズだったらどんな世界でもオールマイティーに通用していましたけれど、今の日本のこういった音が海外に届くようになっている。友川かずきさんや三上寛さんが日本語でヨーロッパツアーしているんですものね。
── それは言ってみればオルタネイティブなフォークとして世界の共通言語だから?
J-POPではだめで、そういう音楽じゃないと届かない。本物だし、心に届くうたなんだから、それは例え外国であろうと心に届く。それの確証みたいなものです。
── 『日曜日の歌』はサウンド的には弾き語りもあれば、バンドサウンドもあり、サイケデリックな面もあり、様々ですよね。
アルバムとしての統一感はそんなにこだわっていなくて、みんながやりたいことをやってくれたらいい。それがたまたまバンドサウンドだったり、弾き語りだったり、デュオだったりしているわけで、特にバンドでまとめようとか、弾き語りにしようとしたわけではないです。でも不思議と統一感はありますよね。それは僕が選んでいるからということろかなと思います(笑)。聴き手の気持ちのなかにすっと入っていけるかどうかというのは大切にしていて、なおかつ聴いた後にそこに残るものがあってほしい。それが重いものであっても、爽快感であっても、喜びでも悲しみでも、聴いた人がハートをぐっと掴まれるようなところはちょっとこだわりたい。
── 超然としているようですが、すごく親密さもある手触りがひとつのトーンになっています。
だからある意味リスナーも選んでいるところはあるんです。自分のなかにはしっかりしたターゲットがあって、そういう人たちに聴いてほしい。音楽がこんな難しい時代なんだけど、こういった音を探している人たちはいて、その人たちに確実に届けたい。もともとノイズをやっているから、万人に受けるとは思っていない。ただこういったものを求めている人は見えているわけです。僕はそれをずっとアルケミー・レコードでやってきている。だからメガヒットのバンドなんてうちからぜったい出ないんですよ(笑)。ないけれど、年間500人なら500人、1,000人なら1,000人がずっと聴いてくれるような音楽。大人になるにしたがって聴かなくなっていくかもしれないけれど、やっぱりそういう音を必要としている人は絶対数いて、その人にはどんな時代になっても「これ聴いたほうがいいよ」というのを残していきたい。それは、どちらかと言えば心の弱い人だったり、不器用な人だったり、生きていくのが辛いなと思っている人。何か自分を癒してくれるもの、楽しませてくれるものを探している人のような、意識的に流されずに生きようと思っている人たちに、なんとか届けたい。「これならだいじょうぶだから」という感じですね。
── 広重さんがそうした哲学のうえで、リスナー像をイメージされているというのは音からも感じられます。
というのは、僕らがやっぱり何度も裏切られてきているんです。世の中や先生や会社、政治、親や友達……そういうところで、どうしても「いや、こんなんじゃないんだ、俺がやりたいのはこういうことなんだ」「俺が夢見ているのはこういう世界だ」というのは必ずあるんです。それを散々叩かれてきた。昔よりはだいぶできるようになってきているけれど、世の中全体を見ているとなかなか難しい。でも自分自身の生き方をしていきたい、実りのある未来を築きたいと思っている人はいるわけで。さっき1,000枚をターゲットと言ったけれど、その人にはこの音楽を聴いたらぜったい外れがないよ、というのをお墨付きをつけて、紹介する立場を僕は担っていると思う。
── 今の音楽マーケットにはそうした考え方は必要だと感じます。
僕はずっとこれを30年間やってきているけれど、マスな数でマスな音楽をやる時代じゃないです。必要な人に必要な音楽を届けるというのはぜったい必要だと思います。あと5年後、10年後経っても『日曜日のうた』みたいな音楽に心惹かれる若者たちはぜったいいるはずで、僕らのようなインディーズ・レーベルをやっていく作業というのはそういうものなんです。今でも佐井好子さんのうたが30年経っても聴けるように、『日曜日のうた』のうたも30年経っても22世紀になっても、100年経っても聴けるうたなんじゃないか。
── 『日曜日のうた』というプロジェクトの今後はどのように考えていますか?
できたらまたオムニバスを出したい。今度は男の子を出すのか、女の子にこだわるのか、じゃあ今度はバンドでやるのか、そのあたりは未知数です。でもコンピレーションで紹介するということは続けていきたいと思います。そして、ここから参加したアーティストのソロアルバムを作ろうということもあると思います。
(インタビュー・文:駒井憲嗣)
『日曜日のうた』
発売中
ULR-020
¥2,100(税込)
UPLINK RECORDS
★購入はコチラ
『日曜日のうた』CDリリース記念イベント
2010年5月2日(日)18:00開場/18:30開演
出演:ひらちん、SHIHO(from 高知)、穂高亜希子
会場:アップリンク・ファクトリー
(東京都渋谷区宇多川町37-18トツネビル1F)[地図を表示]
料金:予約¥1,800/当日¥2,000(予約共に1ドリンク付)
予約方法はこちらをご参照下さい
恋の虜 ─ JOJO広重『みさちゃんのこと JOJO広重ブログ2008~2010』
刊行記念トーク&?イベント
2010年5月22日(土)18:30開場/19:00開演
出演:JOJO広重(アルケミーレコード/非常階段)、五所純子(文筆家)、松村正人(編集者)
会場:アップリンク・ファクトリー
(東京都渋谷区宇多川町37-18トツネビル1F)[地図を表示]
料金:¥1,800
予約方法はこちらをご参照下さい