photo (c)Chris Walter
僕の歌は次第に個の色がなくなり、
最終的には1人の人間の歌になっていく
60年代にウォーカー・ブラザーズのメンバーとしてアイドル的な人気を誇ったものの、その後ソロアーティストに転向してからはサイケデリックで内向的な作品を発表し続け、レディオヘッドやU2など数多くのアーティストからリスペクトを寄せられるアーティスト、スコット・ウォーカー。1月15日に発売となるDVD『スコット・ウォーカー 30世紀の男』は、本編にも登場するデイヴィッド・ボウイをエグゼクティブ・プロデューサーに迎え制作され、問題作と称された2006年のアルバム『ザ・ドリフト』レコーディングの現場を追いながら、突然スターダムから身を引いた彼の活動の遍歴と謎に包まれた人物像に迫ったドキュメンタリーだ。
映画は、アメリカ生まれでありながらイギリスの地でウォーカー・ブラザーズを結成し1965年にデビュー後、瞬く間にヒットチャートを駆け上っていったウォーカー・ブラザーズを取り巻く狂騒と、当時を極めて冷静に述懐するスコットの姿を交互に映し出していく。
「(ウォーカー・ブラザーズ時代は)観客が絶叫するから僕らの演奏はまるで聞こえない。それを利用する人も多いが僕らは違った。ステージに立つのはたった1~2分で演奏はそれで終わり。人が押し寄せ大混乱になるからだよ。その繰り返しさ」。
1967年にウォーカー・ブラザーズを解散後、すぐさまソロ活動に乗り出した彼は、ベルギーのシャンソン・シンガー、ジャック・ブレルに心酔し、同年にソロアルバム『スコット』を発表。その後は自らのクリエイティビティを徹底的に追い求めていくようになる。『スコット2』(1968年)、『スコット3』(1969)、『スコット4』(1969)と4枚のソロアルバムを発表した後、ポップ・シンガーとしてのペルソナを脱ぎ捨て、実存主義的な表現へと没頭していく。1978年に、再結成を果たしたウォーカー・ブラザーズ名義で制作した『ナイト・フライツ』は、ポップスの枠組みを持ちながら前衛的な表現を極めたオリジナリティの高いアルバムとしてブライアン・イーノをはじめとした多くのクリエイターを驚かせたものの、その後のソロ作『Climate Of Hunter』(1983年)までには実に6年の年月を費やすことになる。
「6年間の大部分は一人で過ごしていた。その間はずっと“静寂”を追い求めた。僕がつかみ取るのでなく僕に流れてくるものだ。だから環境を整えて待った。そして その時が訪れた。万華鏡のような過程と言えるね。アルバムが完成した時は神がかっていたような気がする」
90年代に入り、ソロ作『ティルト』(1995年)やレオス・カラックスの映画『ポーラX』(1999年)に音楽を提供するなどカルト・アーティストとしての名をほしいままにした彼は、『ザ・ドリフト』に着手する。
「『ザ・ドリフト』は一切編曲をしていない。若干のテクスチャは存在するが基本は大きな音の塊だ。弦楽器がノイズの塊を演奏する。でもアレンジしてないから必要な時以外は音は抑えてる。だから効果を高めるため多くの弦楽器が必要だった。収録を進めるうち余分なものが弾かれた。ひたすら純化を続けたら僕らの音と融合した。ベケットのように徹底的に磨き上げ続け、すべての曲を極限までそぎ落とした。僕の歌は次第に個の色がなくなり最終的には1人の人間の歌になっていく。昔は魂の叫びだったけど今はそうじゃない。歌に感情が必要な時は願わくば本当の感情であってほしい。バリトンの声は鎮静作用を持つ場合がある。すると人々の耳には他の雑音は聞こえなくなる。『ザ・ドリフト』は『ティルト』にもあった空白がさらに増えた」。
『ナイト・フライツ』を聴くのは屈辱的だ。今でもこれを超えられない。
―ブライアン・イーノ
スコット・ウォーカーは現在に至るまで、人間が無意識のうちに感じる不安や疎外感を、静寂として、そして抽象的なサウンドとして紡ぎ上げてきた。本作では彼の音楽性の魅力を、様々なアーティストへのインタビューにより、ヴェールに包まれていたストイックな音楽活動を追っている。
彼の曲のいいところは絵を描くように音楽で主張していることだね。彼が言いたいことは分からないが、彼が歌うままに曲を受け入れる。そこから何かをつかみ解釈すればいい。─デイヴィッド・ボウイ
『ナイト・フライツ』で彼の音楽に衝撃を受けた。とてつもない曲だからぜひ聴いてみてくれと言ってデイヴィッドの製作現場に持ち込んだんだよ。感性の一致というか何か通じるものを感じた。ポピュラー音楽でなくオーケストラや実験音楽のようだった。ポップスの枠組みにありながらそこから遠く離れてる。これを聴くのは屈辱的だ。今でもこれを超えられない。―ブライアン・イーノ
僕らは“スコット・ソング”が多い。「クリープ」もそうだ。プロデューサーがカバー曲だと思い込むほど“スコット的”だった。常に彼の音楽が原点だからね。―レディオヘッド
米国人なのに彼の音楽は実に英国的で、英国人の生活や音楽や意識のズレに共感していた。そして彼以前のポップスには存在しなかった憂うつ。それからスコットを聴き始めた。―デーモン・アルバーン
『スコット』の 「いつでも君のもとに」は、たまたま流感にかかりベッドで聴いてたら奇妙な感じがした。熱っぽかったせいか空想の中の音楽に思えた。実在すると思えなかった。―ジャーヴィス・コッカー
「ませた子供」を聴いてほとんど放心状態よ。これだと思った。やる気が出た。音楽のすばらしさを再認識したわ。―アリソン・ゴールドフラップ
実は彼に一目ぼれしたの。あの声を聴いたらのぼせて当然よ。私だけでなく全英の女の子が夢中になったわ。―ルル
フィリップス・レーベルのそのころのサウンドは、「デイ・トリッパー」同様60年代英国を象徴している。殺風景な景色にぴったりだった。ゴシック風で美しい憂うつをたたえている。ウォーカー・ブラザーズはその代表格だ。―ジョニー・マー
様々なアーティストや関係者がミステリーを解き明かしていくようにスコットの実像に迫っていく今作。リリースに合わせて渋谷アップリンク・ファクトリーにて発売記念イベントが五夜にわたって開催される。静寂を追い求めてきた孤高のアーティストの素顔がいま、明らかになろうとしている。
スコット・ウォーカー プロフィール
1965年ウォーカー・ブラザーズの一員としてデビュー。3rdシングル「涙でさようなら」が全英チャート1位のヒットを記録。イギリスのみならずヨーロッパ、オセアニア、日本でアイドル歌手として絶大な人気を得る。ウォーカー・ブラザーズ解散後、複数のソロアルバムを発表。1999年、レオス・カラックス監督の映画『ポーラ X』の音楽を担当。2000年にはロンドンの音楽イベント、メルトダウン・フェスティバルのゲストキュレーターを務める。レディオヘッドやU2等、次世代のアーティストにまでその影響は及んでいる。
『スコット・ウォーカー 30世紀の男』
DVD発売記念トークイベント付き上映会
本編上映とともに、多彩なゲストが様々な切り口からスコットについて語り尽くします!
2010年1月13日(水)今野雄二(映画評論家)×中山康樹(音楽評論家)
2010年1月14日(木)湯浅学(著述業・湯浅湾)×樋口泰人(boid主宰)
2010年1月20日(水)ミト(ミュージシャン/クラムボン)×わたなべりんたろう(映画・音楽ライター)
2010年1月27日(水)北井康仁(音楽ライター)
2010年1月28日(木)萩原健太(音楽評論家)×高田漣(ミュージシャン)
開場19:00/開演19:30
料金:当日2,000円/予約1,800円(共に1ドリンク付)
場所:アップリンク・ファクトリー
(東京都渋谷区宇田川町37-18トツネビル1F) [地図を表示]
渋谷東急本店右側道200m右側
予約方法:このイベントへの参加予約をご希望の方は(1)お名前、(2)人数 、(3)住所、(4)電話番号、(5)御希望の日程を明記の上、件名を「予約/スコットウォーカー 30世紀の男」として、factory@uplink.co.jpまでメールでお申し込み下さい。
ご予約の詳細はこちら
『スコット・ウォーカー 30世紀の男』
2010年1月15日発売
3,990円(税込)
UPLINK
監督:スティーヴン・キジャク
出演:スコット・ウォーカー、デイヴィッド・ボウイ、ブライアン・イーノ、スティング、デーモン・アルバーン、ジャーヴィス・コッカー、レディオヘッド他
字幕監修:今野雄二
2007年/アメリカ・イギリス/本編95分+特典/カラー/ビスタ/英語/ステレオ
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