AOKI Takamasaが新作『FRACTALIZED』発売に先駆けて、2010年1月11日(祝・月)渋谷アップリンク・ファクトリーにてニューアルバム先行試聴会を行う。1月27日に発表される『FRACTALIZED』は、2003年から2009年までに発表したリミックス作品をコンパイル。坂本龍一、SKETCH SHOW、HASYMO、半野喜弘といったアーティストたちの音源と自身の楽曲のセルフ・リミックスを織り交ぜながら、アルバムとしての統一した質感がはっきりと感じられる。タイトルにも掲げているフラクタルという概念が具現化されることで、彼の放出する肉感的なグルーヴが比類なきオリジナリティとなっている。AOKI Takamasaにとってのリミックスとは何か、そして音楽へ向かう根本的な動機とは?当日は各楽曲へのアプローチや方法論についてのAOKI氏本人のトークとともに、新作をリリースに先駆け体験していただくことができる。とりわけエレクトロニック・ミュージックという分野に関してファンクというのは〈間〉であり〈空気〉であるということを、この〈体感試聴会〉により感じていただけるに違いない。
AOKI Takamasaインタビュー
ダンスミュージックのグルーヴ感はバイオリズムと同じ
── 『FRACTALIZED』はリミックスアルバムという形態ではありますが、AOKIさんの美意識の詰まった完成度の高い作品ですね。
ありがとうございます。いつも通り、現代階でやれるすべてのことをやりました。でも今回は特に色んな方の曲を使ったリミックス盤なので、どちらかというと、素晴らしい曲とすごい人達のキャリアをブースターのように自分が抱えて、今まで飛んだことの無い所まで飛ばせてもらえたという気持ちです。みなさんには感謝の気持ちでいっぱいで、ラッキーという感じすね(笑)。原曲も大好きな曲ばかりでしたし、作っておられる方々も日本の音楽シーンをずっと支えてきた方々ばかりで。その人たちの培ってきた経験やシーンに蓄積されたもの、その威力を無駄にすることなく、自分のスタイルにリスペクトを持って、最終的に納得できる形でシンプルに妥協無くポップに落とし込めたのではないかなと思っています。
── 今回のアルバムには2003年からの作品が収められていますが、そこから今年までを含めてもかなり音楽シーンも変わってきたと思いますし、機材やテクノロジーの部分でも激変していった時代だと思うんです。そういったものを一つにまとめるという所で、何かうまくまとまるかどうかなと心配に感じることはありませんでしたか?
でも数あるリミックスの中でも2009年というふるいにかけると残ってくるものはそんなに多くはなかったです。特に2003年にやったSKETCH SHOWの「MARS」のリミックスに関しては、自分でも転機になる、今に繋がる技術なりノウハウを獲得できた目印になるような曲でした。あのチャンスをいただけたことで、自分の中に技術的な進歩や精神的な進歩があって、本当に自分らしいものを創れるようになった。それ以降、自分が何をやりたいかというのが頭の中でどんどんクリアになってきた。なので基本的に2003年もそれ以降もコンセプトは変わらないし、自分がやりたいと思っていることもまったく変わらないし、ソフトウェアやハードウェアの面でも実はそれ程変化はないです。ただ、その2003年から2009年までの間にいろんな経験を積ませてもらったことによって、音に関しての理解が広まっていった。そしてエンジニアの早乙女(正雄)さんが統一感を持てるマスタリングをして下さったので、すごく感謝しています。
── そのSKETCH SHOWのリミックスの時に、青木さんの中で自分の個性がリミックスで実現できるというという実感というのは、具体的にはグルーヴ感であったり、音の選び方であったりという所ですか?
そうですね。僕が勝手に思っていることですが、例えばダンスミュージックのグルーヴ感というのは作った人のバイオリズムと同じだと思うんですね。心地良いからその音を選んだわけで、結局はその人自身。もしその人が流行とか取り入れるとか、好きじゃないけどこれ入れようとかやって終われるなら、それはまた違うバイオリズムになると思う。けれど僕の場合、自分の好きな音しか入っていないし、自分の好きなタイミングでしか鳴っていない。流行の音も入れてないし、嫌だったら入れてないし、本当に自分自身なんですね。自分とは関係ないものは入ってない。でもリミックスというのはそこに人のメロディを入れたり、自分とは異質なものが入ってくる程に自分を意識する。その感覚解りますか?
── はい、解ります。
例えば初対面の人と会って、後でその人に対する対応を思い返して見たらけっこう僕人見知りなんだなとか、自分冷たい時もあんねんなぁとか(笑)。後で反省したりすることも多い。リミックスって正にそういう感じで、本当にその人と会ってしゃべって、何か別の話題が生まれる。そういうプロセスである気がします。
photo by Yuna Yagi
── 音色的に今回入っている楽曲でも、音がよりノイジーにアブストラクトになっている場合もあると思うし、逆にすごく整理されてむき出しになっている場合もあると思うんですけど、それはあくまでAOKIさんのタイム感に準じた結果がこの作品なんですね。
やっぱりその時の精神状況や肉体の状況とか全部が影響していると思います。だからその時はささくれ立ったのが好きなのかもしれないし、その時は整理整頓したものが好きかもしれないし、でも結局は自分のわがまましかやっていないので自分自身が出てきますよね。楽曲ごとの質感の違いをスパイスとしてうまく使って、でも基本の骨組みは僕自身。そのスパイスとなる質感に関しては年代であり状況であり住んでいた場所であったり、その作った日の心理的な状況であったりがすごく影響してくると思う。自分に正直になることで、今自分が何を求めているかというのがおのずと出てくる気がしますね。
── 今はベルリンに拠点を構えての活動ですが、ドイツという国の環境は音楽活動に影響を与えていますか?
でも基本的に拠点という概念が無くて、地球に住んでいますという感じです(笑)。それが時間に対して自由な仕事をやらせてもらっている特権かなと思うし、その得難い状況を最大限に利用してもっと視野を全人類に、文化の違いや年代や世代に関係なく伝わるようなものを作るためには、いろんな場所に住んでいろんな経験をしていろんな人と会う、そういう状況が必要だ思っています。
── 今の日常のサイクル自体が制作の面に影響していると。
それは絶対にそうだと思います。人間って経験とか身の回りの状況で、その時に何を選択するかが全然違ってくると思う。それがキックの質感なり、曲の長さであったり、何らかの形で楽曲のどこかに影響が出てるのは確実ですね。
僕の音楽は自然現象に近い
── こうしてアルバムが完成して、AOKIさん自身でも芯の部分は変わっていないなと感じられますか?
基本的に曲作るときに欲しいものは昔から変わっていないと思います。それはやっぱり踊れるというか自然と身体が動いてしまう、音楽というよりはスピーカーを介して身体が動いてしまう現象。それこそ天変地異とか自然災害とか含めて、F1のエンジンとかロケットとか爆発音とか日常での人の声とか、そういう穏やかに見えて実はすごいプロセスで出来上がっているものがすごくあると思うんです。目の前にあるのに全く気付かない現象とかってすごくある。ノーマルの中に潜んだ過激さとか、日常のなんでも無い瞬間に潜んだ狂気とか、そういうのにすごく興味があって、それをどう音を使って表現して、しかもダンスミュージックというものに昇華できるか。それで、なぜ僕がダンスミュージックに興味があるかというと、やっぱり人をハッピーにしたい、将来的な目標としては本当に人が人を殺し合わない世界を僕は体感したいと思っています。人が人を妬みあわない、競争しない、いがみ合わない。そういう世界が人類としては次のステップだと思うんです。人間としてそういう動きにどれだけ加担できるかっていうのは常に考えていて。そういう中で、踊っている時にもう死にたいとか、あいつめっちゃむかつくとか、なかなか思わない。ダンスミュージックという方法で自分は戦争をしない人類になるよう貢献できたらなと、地球に貢献できたらなと、そういう気持ちが常にあります。
── ダンスミュージックの一体感を信じていらっしゃるんですね。
それは疑いようが無いですね。何百回もライヴをやらせてもらって、何百人が踊るを目の当たりにするとやっぱりそれは疑いようのないことであって、踊りながら喧嘩している人も見たことないし。
── AOKIさんのライヴは、音源のクールでストイックでセンシティブなイメージに比べて、ぐっとアグレッシブでフィジカルなパフォーマンスなのでびっくりしました。
でもね、実は音源も基本的に僕は小さいスピーカーで小さい音で音楽をかけるようには作ってないんです。それは最初から今も全く変わりなくて、高解像度のスピーカーで爆音で聴いてほしくて作っています。だからそういうクールなイメージを持っていられる方はすごく多いんですけど、自分としては肌と身体で振動を体感して、近くで何かが爆発するような、それでタイミングが合えば踊っちゃうみたいな、スピーカーで音楽を鳴らすのでなく、スピーカーを使って空間を鳴らして空気を振動させるというようのが元々の発想です。どちらかというと音楽というよりも自然現象に近いものを求めていまして、音楽というよりも踊っちゃうという現象、それを爆音で心地よく体感してもらいたい(笑)。
── 今回のアルバムは同時に、YMOのお三方や半野さんなど他のミュージシャンとの繋がりやコミュニケーションの一つの成果としてまとまったものとも言えると思います。
やっぱり人間は全員一人ひとりに80億の世界があるというか、みんな違う価値観や世界観を持って生きているということを作品を通じて感じ取ってほしい。みんな違うアプローチの仕方をするし、モチベーションも違うし、初期衝動も違うし、その違いの面白さ、自然の多様性というか。そういうものを志を同じとするアーティスト達と会うことで、より理解しやすくなる。やっぱり同じ周波数やバイブレーションを持っているのか、仲良くなる人たちって自分の好きな音楽を作っているんですね。だからそういう意味では、言語を飛び越えてコミュニケーションができる。自分の音楽は自分そのものなんで、きっと他の方もそうなんだろうし、僕はその言語を飛び越えてその音楽を聴いてその人の性格を見るし、その人の性質も理解できるし、その人がどれだけ繊細かとか乱暴かだとか、ここは適当やねんなとかも理解できる(笑)。
── 最後に、タイトルにもなっている〈FRACTALIZED〉というキーワードはどんな考えから生まれたのですか?
自分が昔から思っていたことのひとつに、例えばドラムのループを作る場合に、最初と終わりというのがなくて、完成というスイッチを押されたと同時に、その力で永遠に周り続ける永久機関みたいなリズムが作りたいというのがあって。そういう話を宇宙物理学をやっている友達と話していたんです。そうしたら自分の音楽に求めている、ミクロで見てもマクロで見てもひとつの波が延々と動き続けるというのは、フラクタル(一部分が全体と相似となるような図形や概念)であると教えてもらいました。自分のなかでリミックスというのはフラクタルなものに人のバイオリズムを落とし込むということ。一般的にリミックスとひとまとめに呼ばれていますけれど、みんなアーティストそれぞれリミックスの方法やツールが違うし、モチベーションも違うし視点も違う。だから自分の作業というのは自分のアイディアと人のバイオリズムを自分の理想とするフラクタルなリズムに落とし込むという行為だったので、このタイトルをつけました。人間が否応なく受け入れるリズムって、物理法則に適っているというか、宇宙の法則に正しく合致しているから人間も自然と受け入れることができるんだと思います。例えばおいしい水を飲んだら体にすうっと染み込むのは、それが自然そのもので人間が自ずと欲しているから。それを音楽でも適用できないかなと思って。僕の音楽は全部コンピュータなんですけれど、元々の音源ソースを電圧って雷だったり自然に近いものだからできる限り電圧に近いものにして、既存の音楽用に作られたアーティフィシャルな音色じゃなくて、ランダムに自然発生するノイズを音楽的に使う。しかもタイミングを自分のバイオリズムに完璧に合わせて、心地いいタイミングに置くことで、出来る限りピュアなリズムを作る。それを確固たるものにするのがフラクタルの概念なんです。
(インタビュー・文:駒井憲嗣)
『FRACTALIZED』体感試聴会
トークゲスト:AOKI Takamasa
2010年1月11日(祝・月)15:00開場/15:30開演
場所:アップリンク・ファクトリー
(東京都渋谷区宇田川町37-18トツネビル1F) [地図を表示]
渋谷東急本店右側道200m右側
料金:当日800円(1ドリンク付)
「音のディテールにこそ本質が宿る」体感試聴会とは
ダウンロードで音楽を購入し、iPodのイヤフォンで音楽を聴き、住宅環境の問題からステレオで音楽を聴くという行為が衰退しつつある現在、〈スピーカーで正しく音楽を聴く〉という行為の復権により、もういちど音楽ファンに音楽を聴く楽しさを伝えたいというテーマで2009年9月よりスタート。アップリンク・ファクトリーのサウンドシステムにより、音楽家が本来意図していた音のディティールまでを感じてもらうことを目指します。普段ヘッドフォンやMP3で聴いているときには気づかなかった音のディテール、作品の本質や世界観をより感じてもらえる企画となっている。
会場のアップリンク・ファクトリー
AOKI Takamasa プロフィール
1976年大阪府出身、現在はドイツ・ベルリン在住。2001年初頭に自身にとってのファースト・アルバム『SILICOM』をリリースして以来、コンピュータ/ソフトウェア・ベースの創作活動を中心としながら自らの方法論を常に冷静に見つめ続け、独自の音楽表現の領域を力強く押し拡げる気鋭のアーティスト。
公式サイト
AOKI Takamasa myspace
『FRACTALIZED』
2010年1月27日(水)リリース
RZCM-46434
2,800円(税込)
commmons
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