骰子の眼

cinema

2009-11-30 13:50


モーリー・ロバートソンのウイグル旅行記Vol.4:ウイグルの風俗事情、そして逆境でも笑顔を絶やさない人々【動画付き】

『ウイグルからきた少年』DVD、12/4(金)発売!モーリー・ロバートソン氏が2007年に訪れたウイグルの様子をレポート。今回の訪問先は砂漠の中のオアシス、クチャ。
モーリー・ロバートソンのウイグル旅行記Vol.4:ウイグルの風俗事情、そして逆境でも笑顔を絶やさない人々【動画付き】
町で一番大きいモスクの隣に漢族経営のスーパーマーケットが開店。開店の式典で民族音楽を奏でる楽団達。

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闇にひしめく「理髪廊」の正体

今回の舞台は、クチャという小さな町。砂漠地帯の真ん中にあるオアシスのようだ。ウイグル自治区は、石油産業が活発な地域でもある。しかしそこで生み出されるお金は漢族に回ってしまうということも事実。クチャは近くには石油の製油所などがあるため、出稼ぎに来る男たちが集まる町でもある。彼らが寝泊まりに使う歓楽街の中心に、102km続く「文化中路」という名のメインストリートがある。そこはいわば赤線。昼間は雑貨屋など地味な店が並び閑散としているが、夜は別の顔を見せる。そして表向きは理髪店という形態をとっているが、実際は性的サービスを売る店。その理髪店は「理髪廊」と呼ばれ、深夜一斉に灯りがつく。

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現地の方に連れられてモスクで礼拝を体験。礼拝用に購入した帽子をかぶりながら地産の激旨杏ジュースを飲む。

歓楽街には外国人向けのホテルもあるが、専ら中国国内からの観光客向け。国際的な客を想定していない。鳩摩羅什(クマーラジーヴァ)という訳経僧にちなんだ場所が近くにあるため、その地を訪れる外国人観光客がいる程度。なので、もっぱらクチャ郊外で働く男たちの町というわけだ。

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ウイグルにも裕福な漢族を中心に西洋型のフィットネスジムが増えている。

中国では買収は禁止なので、赤線のようになった場所は非公式・非合法。そのような店の経営者は「理髪店だ」と言い張る。女性の数自体が少ない町で、人気のない田舎の中継駅しかも砂漠の真ん中、そこでうずまく理髪廊。それは実に不思議な光景。理髪廊の過激さの程度が店によって違うのも見ていて興味深い。直接的で過激な店は暗い店内の中赤や黄色の灯りがうっすらと灯っており、客引きの女性が店外に立っている。間接的な店は、一見理髪店のような雰囲気で、客は待合室のソファに座って雑誌を読んでいることも。ほとんどの場合、暗闇の中遠くからでも見えるように、店内を明るくしている。ウイグルなどモスリムの文化で売春を公に行なうことは不可能で、地域社会で制裁をうける可能性があるほど。通常このような地域でも漢族の女性が漢族の男性を相手にする出稼ぎ売春が定石だが、実際はウイグル女性の姿も見つけることができた。

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クチャの砂漠を現役で走るSL機関車。日本からわざわざ鉄道愛好者が訪れることも珍しくないそうだ。

スーパーで売られるウイグル製品、クチャのバザール

クチャの町に1軒、スーパーと呼べる店を発見した。置いてある品物は埃っぽかったが、地域のウイグル人向けのお菓子などが豊富に揃っていた。それらのほとんどはパキスタンなど中東地域から輸入されている。ハラールという特定の殺傷法によって生産された肉類のみ食べることができる、または豚肉はエキスもだめ、など肉食についてはモスリムならではのルールがある。そのような理由から、中国人が作ったお菓子を食べない人もいる。種類は少ないが、ウイグル人によるウイグル人のためのお菓子やカップ麺も。ウイグル人は、殺したてのヤギやとれたばかりのぶどうなど、加工していない食べ物を好んで食べる。製品として見ると貧弱だが、肉や果実などは非常に鮮度が高い。「東京でどこからきたのかわからない肉を食べるより、質が良い」とモーリー氏。

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予期せぬ長旅に備え、列車内には少し多めの保存食を用意することをこの旅で覚える。カップ麺も飲み物も全て清真(ハラールの意)食品だ。

クチャのバザールでも色々なものを売っている。ウイグルでのバザールには、品物の梱包をほどき袋から出してバラバラにして売る伝統がある。日本ではやっと過剰包装が問題になっているが、ウイグルでは包装は無駄だという考え方がある。逆を言えば刹那的ということか。砂をかぶろうが、露天主義を貫く。砂漠地帯のような砂っぽい地域でも革ジャンなど衣類をハンガーにかけてそのまま売ってしまう。そして交渉術も達者だ。ウイグルでは値切るのが主流。値切りのコミュニケーションはウイグル文化の一つである。

半日遅れは当たり前!?ウイグルを走る夜行列車

そしてウルムチ行きの鉄道へ乗り込む。ウルムチまで約11時間。鉄道は「予告なしに夜中に駅と駅の中間で止まってしまうことも。乗る人よりも鉄道の方がエラいんだ」とモーリー氏。さらに「前の日に同じ線の鉄道が強風で横転して、その後けが人や死者が出たかもわからず、発表がもみけされているので気をつけて下さい、という連絡を知人から受けた」とも。

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向かいのホームで出発を延々と待つ乗客達。出発のめどはたっていないが特に困惑の様子も見られない。

カシュガルからクチャへの列車は半日間待たされ、9時間遅れて到着。当初待合室で待っていたが、座る場所はないほど混雑していた。しかも室内で待つことができるのは漢族だけ。0℃前後の寒さの中、ウイグル人は外で待っている。そこで目にしたのはアパルトヘイト並みの世界。乗車券は、特等席、2等席、3等席の中から選ぶのだが、ほとんどのウイグル人は経済的な事情からか、一番安い3等席を買っている。3等席の人は待合室などで暖をとってはダメという論理らしい。特等席の乗車券を購入したモーリー氏だが、立ち尽くしているのも、漢族とウイグル人の格差を公然と目の当たりにするのも嫌だったと言い、一行はタクシーで708時間レストランからレストランへ移動し時間を潰した。ようやく乗り込んだ列車内では、すぐに就寝。空には月が美しく輝いていた。

(インタビュー・文・構成:世木亜矢子)

モーリー・ロバートソン氏プロフィール

「i-morley」の創始者、ミュージシャン、ラジオDJ、ジャーナリスト、作家。1991年以来、J-WAVE(81.3FM)などでラジオ・パーソナリティーとして活躍し、伝説的な深夜番組「Across The View」を司会。自由気ままに語り継ぐポッドキャスト「i-morley」はかつての深夜ラジオに心酔した人から初めて耳にするティーンエイジャーまで、広くリスナーの心をつかみ、52万人を越えるオーディエンスを獲得するに至る。2007年には、チベット・ラサでの取材を写真や映像でレポートする企画「チベトロニカ」の総指揮を務める。

【関連記事】

■ウイグル旅行記

これまでの連載はこちら
http://www.webdice.jp/dice/series/18/

■チベットを知る

全連載はこちら
http://www.webdice.jp/dice/series/11/


ウィグルから来た少年

『ウイグルからきた少年』
2009年12月4日(金)DVD発売

監督・脚本・編集:佐野伸寿
出演:ラスール・ウルミリャロフ、カエサル・ドイセハノフ、アナスタシア・ビルツォーバ、ダルジャン・オミルバエフ他
2008年/日本・ロシア・カザフスタン/65分
配給:アップリンク

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