今月も厳選シアター情報誌「Choice!」との連動インタビュー企画“Artist Choice!”をお届け!都内の劇場、映画館で配布されている「Choice!」本誌にはインタビューの他にもさまざまな映画・演劇の情報が満載、是非探してみてください。「Choice! vol.11」10月号は本日より配布されています。(→「Choice!」配布場所一覧)
今回は現在シネマライズ、新宿バルト9ほかにて公開中の是枝裕和監督の最新作、映画『空気人形』に出演しているARATA氏のインタビューです。
「演じる」でも「なる」でもなく、「いる」。言ってみれば東洋のタオイズム的なアプローチで、役に、作品に、溶け込む。最初の映画出演から11年。その透明感は濁ることなく、むしろ強度を増している。
一部分しか描かれていないからこそ
強く感じられる空虚感
洋画を観て「かなわない」と思うのは、「演じている」を超えてその人物に「なっている」役者に出会った時だ。欧米に浸透する理論的な演劇教育の力を痛感するのだ。でもARATAを観ると、そんな理論に対して胸を張りたくなる。「なる」より深い「ずっとそこにいた」を感じさせる存在感。映画『空気人形』では、心を持った人形をごく自然に受け止める青年・純一を、静謐の中に演じている。
「純一はほとんど私生活が描かれていないんですけど、監督(是枝裕和。脚本も手がけた)はあえてそうしたんだと思います。多くを語らず、空気人形のそばで、彼女が成長していく過程を優しく手助けしてあげるような存在でいる。それは純一という人間の一部分なんでしょうけど、それだけで充分だと僕は思っていて。全部が見えないから、彼の空虚感が強く感じられるんじゃないかと」
役の性格や生活が脚本に書き込まれていないと、足がかりがつかめずに不安になる役者は多い。この人が稀有な才能の持ち主だと思うのは、そこに恐れを感じていないところだ。
「確かにこういう役に抵抗はないですね。是枝監督の作品なら、なおさらです。『空気人形』が3本目の是枝作品になるんですが、どれも共通して表現してきたのは“人間の空虚感”なんですね。そこはいつもテーマとしていただいているし、自分の中ではベースになってる役柄でもあるので、すんなりと受け入れられます。言い換えると、是枝さんによってそれが(ベースとして)つくられたという感覚はあります」
『空気人形』は、エロティックでグロテスクでとびきり美しい大人のおとぎ話だが、それを成立させている大きな要因は、不可思議な存在の人形を純一がすんなりと許容することだ。その理由となる“空虚感”にARATAが強く共感したとして、感情の動きもせりふも少ない引き算だらけの役を、これだけ落ち着いて演じられたのは、役へのシンパシー以上に、何か大きなものへの信頼感があったからではないだろうか。
「その通りだと思います。もしこれが是枝監督の作品じゃなかったら、僕はそこ(純一が人形を受け入れる動機)をもっと突っ込んで聞いていたかもしれません。過去の2作があって純一という役が生まれたと思っているし、これまでの監督とのやりとりがあったからこそ、あそこに着地できたのかな、と思います」
苦手なことにあえて挑戦したくて
“ 舞台、やります! ”
最初に豊かな回路を開いてくれた監督と、ひとつの成果を見る。その先にARATAが選んだのは、『空気人形』でも共演した岩松了が作・演出する舞台『マレーヒルの幻影』への出演だ。
「いろいろな方の演出を受けて芝居が楽しいと純粋に思えてきた時期でもあったし、苦手なことにあえて挑戦してみたいと考え出した時にお話をいただいて“やります!”って二つ返事でした。僕の声がどこまで届くのかとか不安はあるんですが(笑)、最多共演女優の麻生久美子ちゃんも一緒に初舞台なので、諸先輩方に迷惑かけないように、かつ、ナメられないようにやってみましょうかって、今、ふたりで燃えているんです」
(取材:徳永京子 撮影:有本真大)
★このインタビューのロングバージョンは
厳選シアター情報誌「Choice!」公式サイトで読むことができます。
ARATA(あらた)プロフィール
1974年、東京都生まれ。1998年に『ワンダフルライフ』で映画主演デビューを飾る。以降、主演作が立て続けに公開され注目を集める。近年の主な出演映画は、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2008)、『蛇にピアス』(2008)、『20世紀少年 第1~3章』(2008~09)、『ウルトラミラクルラブストーリー』(2009)など。現在、最新出演作『空気人形』が公開中。
映画情報
映画『空気人形』
シネマライズ、新宿バルト9ほかにて公開中
監督・脚本:是枝裕和
原作:業田良家「ゴーダ哲学堂 空気人形」(小学館ビッグコミックススペシャル刊)
出演:ペ・ドゥナ / ARATA / 板尾創路 / 高橋昌也 / 余貴美子 / 岩松了 / 星野真里 / 丸山智己 / 奈良木未羽 / 柄本佑 / 寺島進 / オダギリ ジョー / 富司純子 他
配給:アスミック・エース
公式サイト
(c)2009 業田良家 / 小学館 / 『空気人形』製作委員会
厳選シアター情報誌
「Choice! vol.11」2009年10月号
厳選シアター情報誌「Choice!」は都内の劇場、映画館、カフェなどで無料で配布されており、毎号、演劇情報や映画情報を厳選して掲載。注目のアーティストをインタビューする連載“Artist Choice!”の他にも、演劇ジャーナリストの徳永京子氏による演劇レビュー、ライターの相田冬二氏による映画レビューが連載されています。
演劇ジャーナリスト・徳永京子氏による演劇レビュー
Stage Choice!ラインナップ
・『ヘンリー六世』
・さいたまネクスト・シアター『真田風雲録』
・劇団☆新感線『蛮幽鬼』
・青山円劇カウンシル#3 ピチチ5プロデュース『サボテンとバントライン』
ライター・相田冬二氏による映画レビュー
Cinema Choice!ラインナップ
・『パンドラの匣』
・『のんちゃんのり弁』
・『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』
・『無防備』