写真:左から、ジャン=ポール・ジョー監督、藤田志穂さん、ツルネン・マルテイさん
学校給食と高齢者の宅配給食をオーガニックにした、南フランスの小さな村の1年間を追ったドキュメンタリー映画『未来の食卓』。フランスでは30万人を動員、ドキュメンタリーとしては異例の大ヒット。社会的なムーブメントを巻き起こしたという。8月の日本公開にさきがけ、監督のジャン=ポール・ジョーが緊急来日。元ギャル社長の藤田志穂、民主党参議院議員のツルネン・マルテイによる記者会見が、東京都日仏学院にて行われた。
── 今回二度目の来日となりますが、日本の印象はどうですか?
ジャン=ポール・ジョー監督:私が日本に来る前は黒澤明監督の国という印象がありました。実際に来てみて、日本は本当に美しい国だと思います。美しい自然と温暖な気候でまさにフランスと同じような感じがします。また、日本はフランスと同様に素晴らしい歴史がありますし、この地球の中でも最も洗練された国だと思います。それにも関わらず、なぜ今日本が切腹をしようとしているのか、自ら命をたとうとするのかがよくわかりません。
── 本作はフランスで大ヒットし、社会的なムーブメントを巻き起こしたそうですが、どのような反響があったのでしょうか?
ジャン=ポール・ジョー監督:この映画は単館のみの上映だったのですが、7ヶ月で約30万人の動員がありました。環境問題に関心のある人や組織の人たちが「ありがとう。こういう映画が必要だったんだ」と言ってくれました。それから次第に、環境問題にさほど関心のない人にまでもクチコミでこの映画の評判が伝わっていきました。また、上映後のディスカッションで若い女性が「環境問題に苦しんでいるのは私一人ではないのをこの映画が教えてくれた」と泣いていました。そのように感動してくれたのは彼女だけでなく、会場の皆さんも感動してくれました。
画像:映画『未来の食卓』野菜を育てる子供たち
── フランスの美しい風景と音楽がとても印象的でした。映像と音楽へのこだわりがありましたら教えてください。
ジャン=ポール・ジョー監督:この映画は人々に問題を知らせるためにつくった映画です。ただ、それは同時に自然に対するオマージュであり、人生にも対するオマージュでもあります。だから私はフランスの美しい風景を撮りたかったんです。映画は今最も必要な芸術であり、素晴らしい力があると思っています。なぜなら映画は美しい自然や音という魅力を最大限に伝えることができるからです。曲をつくってくれた音楽家のガブリエル・ヤレドは二度もオスカーを獲った素晴らしい作曲家です。
── さきほど監督が「日本が切腹をしようとしている」と言われたのですが、具体的に何をみてそう感じたのですか?
ジャン=ポール・ジョー監督:切腹をしようとしているのは日本だけに限らず、産業が発達しているすべての国に言えることです。日本は国の遺産である素晴らしいものを壊そうとしているし、地球の遺産も壊そうとしています。サン=テグジュペリなど多くの方が言っている、“この地球は私たちのものではない。私たちはこの地球を子供たちのために借りているんだ"という格言があります。日本では残念ながら、子供たちに伝えるべくいろいろな遺産を壊しています。また、日本を含む先進国では毎日子供に食べ物を与えると同時に毒を与えています。そして温暖化に対しても大きな責任があります。今のままでは、日本がこれまで培ってきたものは明日にでも壊れてしまうでしょう。
── 日本の合鴨農業を取材したそうですが、感想を教えてください。
ジャン=ポール・ジョー監督:日本では子供を持つお母さんたちが30年前からいろいろな運動をしています。そのひとつが「提携」といわれる農業で、農家や生産者と提携して直接食べ物をもらうというグループなんですけど、これは日本だけでなくフランスやアメリカにも広がっています。生産者の方でもこういった汚染や環境問題に熱心な人がいます。その人がやっている農業は、生物多様性の保存について考えていて、それを守るために非常に有効な農業です。地球環境を守るのはもちろんですが、それが経済的にちゃんとペイできるのを証明しています。
── 映画を観た感想をお聞かせください。
藤田志穂さん:観たとき、率直にすごい難しい問題だとわかって、私自身理解するのが結構大変だったんですね。でも逆に、食べ物にはいろいろなものが入っていることを知ったときに、「もっと考えないといけないな」と思いました。
若い人たちがそういうことを考えるきっかけが少ないので、映画として、踏み込みやすい部分で観られることはいいですね。言葉で有機野菜、オーガニックと言われても若い人にはピンとこないので、私も農業でちゃんとした情報を発信していけたらと思っています。わたし自身まだまだ食や環境についての知識は浅いのですが、私たちのような若い人たちから、もっとみんなが食に目を向けられるようなきっかけを作っていきたい。
私が食や農業に興味を持ち始めたきっかけは、テレビなどで報道されていた、食の安全問題でした。食べることは毎日のことなのに、「どうして不安な気持ちで食べないといけないんだろう」と考えてきて。今年から農業を始めて、秋田で渋谷米というのを作っています。そのお米も完璧にはできないけど、少しでも農薬を使わないよう、安全に食べてもらえるように作っています。
この映画を観て、小さいことかもしれないけど、みんなで力をあわせれば大きなものに変わっていくのだなと思いました。農業も私個人の小さな活動ですが、どんどん周りの人を巻き込んでやっていけたらいいなと思います。
画像:映画『未来の食卓』チラシビジュアル
ツルネン・マルテイさん:本当に感動しました。私は今まで有機農業についての映画を何本も観ていますが、その中で一番感動を与えてくれた映画です。有機農業に関心のない人にも是非観てほしいです。
健康を維持するためには、食=有機は最もよい薬であるということ、それがこの映画には非常によく表れています。また、みんなで話し合いながら給食に有機農作物を使うということは素晴らしいことだと思います。有機農業の推進は、私にとってミッションであり、使命であります。
2年前に「有機農法推進」の法律を作りました。委員たちだけが作った法律ではなく、草の根運動で何10年もかけて、現場の人たちと運動してきました。私たちもこの映画と同じように市民たちと会話をしながら進めていきました。そのような現場の動きがなければ、私たちは法律を作れなかったと思います。
── 監督から皆さんにメッセージをお願いします。
ジャン=ポール・ジョー監督:一人一人の方に今すぐアクションを起こしてほしいと思います。みなさんが非常に環境に対して意識的であると思うし、今はそれを行動に移すべきだと思います。リオデジャネイロのファーストサミットで、ある女性の言葉が非常に印象に残りました。「各国のリーダの方々、言葉だけではなく行動を起こしてください」。まずは、今日からアクションを始めてください。
ジャン=ポール・ジョー監督
国立ルイ・リュミエール大学卒業後、1979年より監督として多くのテレビ番組の制作を行う。1984年のCanal+(フランスの大手ケーブル放送局)の設立当初より、主なスポーツ番組の制作と中継を担当し、スポーツ映像に革命をもたらす。92年には自身の制作会社J+B Séquencesを設立。『羊飼いの四季』(“Les quatre saisons du berger”)、 『マレーヌとオレロンの四季』("Quatre saisons entre Marennes et Oléron”)など移りゆく四季の中で織り成される人々の暮らしを追ったドキュメンタリーを制作し、2004年自らが結腸ガンを患ったことを機会に、「食」という生きるための必須行為を取り巻く様々な事象を振り返り、本作「未来の食卓」の製作にいたる。現在、フランス、北米、日本を舞台とした本作のパート2を準備中。日本では福岡のあいがも農法を撮影した。
藤田志穂
19歳で起業しシホ有限会社G-Revoを設立。ギャルの特性を活かしたマーケティング業務を特化し、様々な商品開発やプロモーションを行う。さらに自ら積極的に環境問題やエイズ予防も行なっている。そして2008年12月に社長を引退し、現在は食や農業についての活動をスタートした。若者が食や農業に興味を持つキッカケを作るため「ノギャル」プロジェクトを立ち上げ、秋田県での「シブヤ米」作りや、イケてる農作業着企画など様々な角度からプロジェクトを展開中。
・公式ブログ
ツルネン・マルテイ
フィンランド北カレリア生まれ。社会福祉カレッジ卒業。
1967年、キリスト教会の宣教師として来日。1974年、宣教師を辞職。1979年、日本に帰化。
1992年、湯河原町議会議員に当選。2007年、第21回参院選に全国比例区で出馬、民主党6位で当選(2期目)。有機農業推進議員連盟の設立を呼びかけ、現在超党派の国会議員168名の参加を有して事務局長として中心的な役割を果たす。
・公式ブログ
映画『未来の食卓』
農薬や化学肥料による食物汚染が、子ども達の未来を脅かす。すべての学校給食と高齢者の宅配給食をオーガニックにしようと フランスの小さな村が立ち上がった! 美しい自然に囲まれた南フランス、バルジャック村。ショーレ村長は子供たちの未来を守るため“学校給食と高齢者の宅配給食をオーガニックにする"という前例のない試みに挑戦しました。大人たちは「オーガニックは値段が高いのに、村の財政でまかなえるのか」と戸惑いましたが、オーガニック給食や学校菜園での野菜作りを通して自然の味を覚えた子供たちに巻き込まれ、小さな村は少しずつ変化していきます。
2009年8月上旬、シネスイッチ銀座ほか、全国順次ロードショー
監督:ジャン=ポール・ジョー
出演:エドゥアール・ショーレ、ぺリコ・ルガッス
音楽:ガブリエル・ヤレド(『ベティ・ブルー』、『イングリッシュ・ペイシェント』)