骰子の眼

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東京都 渋谷区

2009-06-04 15:59


「Cinema of Transgression(破戒映画)」とは一体何だったのか:リチャード・カーンを日本で配給した鈴木章浩氏が語る

『NO NEW YORK 1984-91』のDVD発売を記念し、リチャード・カーン、ニック・ゼットと親交をもつ鈴木章浩氏の解説付き資料映像上映会が開催された
「Cinema of Transgression(破戒映画)」とは一体何だったのか:リチャード・カーンを日本で配給した鈴木章浩氏が語る

80年代ニューヨーク、若手監督たちによる暴力・ドラッグ・性的倒錯・ブラックユーモアが溢れる8ミリ映画は「Cinema of Transgression(破戒映画)」と呼ばれ、社会への不満やハリウッドの商業主義に対する嫌悪がストレートに表現された作品が次々と生まれた。このムーブメントを当事者たちへのインタビューを通して明らかにしていくドキュメンタリー『NO NEW YORK 1984-91』の DVDがアップリンクより発売された。発売を記念し4月30日に行われた鈴木章浩氏の解説付き資料映像上映会をレポートする。


劣等感から生まれたムーブメント
「Cinema of Transgression(破戒映画)」

リチャードカーン

あらゆるムーブメントというのは、中心になって始めた人物がいて、その周りの仲間を巻き込んで拡がってゆく。そして、それに憧れた新しい世代が現れることによってまた変化していくものだと思っています。個人的に、この「Cinema of Transgression(破戒映画)」というムーブメントは結局リチャード・カーン、ニック・ゼットその周辺から生まれたのだと思います。

写真:リチャード・カーン

とにかく金が無くて、自分達が認められないという劣等感から生まれたもので、普通の映画館で上映できないので、ライブハウスなどでバンドと一緒にコラボレーションして上映したりしていました。ニック・ゼットは自作自演で「こんな凄い作家がいる!」と自分達を絶賛しているミニコミを作ったりもしてたんですよ(笑)。当時のニューヨークアンダーグラウンドシーンの映画部分が「Cinema of Transgression(破戒映画)」という名前で呼ばれているんだと思います。


私が初めてこれらの映画を見たのは、映写技師のバイトをやってた時、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)のニューウェーブ特集でジム・ジャームッシュ、スパイク・リーなんかを紹介していたことがあって。その年の選考の段階でリチャード・カーンの映画もあって、それを映写室でみたのが最初です。リディア・ランチがファックしてるのを映写室で見るというのは、覗きみたいな面白さがありましたね(笑)。

その時は、あれ何だったんだろうなと思っていたんですけど。その後、ニューヨークのダウンタウンにあった自主制作したビデオを置いているようなレンタルビデオ屋でその他の作品も見てなるほどなと思いました。リチャード・カーン、ニック・ゼットよりも前の世代のアンダーグラウンド・フィルムは16ミリだったので映写機をまわして上映していたんですけど、この頃になるとカセットのようなメディアで比較的手軽に上映することもレンタルビデオ屋で借りることも可能でした。

リチャード・カーン/ニック・ゼット『Thrust in Me』


この『Thrust in Me』という作品はニック・ゼットが出演して、リチャード・カーンとの共同監督作品なんですが。面白いのは、ニック・ゼットは自分の短編集のビデオでは、自分の名前を先に出してるんですね。リチャードカーンは二人の名前を並べて共同監督と書いているんですけど。

ニックゼット

ニック・ゼットが変名で書いた“破壊映画のマニフェスト”というのがあって、内容は「映画文法を壊せ!」「退屈な実験映画はクソだ!燃やしちまえ!」とかそいうものなんですけど。彼らの作品を見た時、意外とカットバックや合成みたいなことをちゃんやってて、「映画」っぽく作っていたので驚きました(笑)。

写真:ニック・ゼット

他にも、実験映画なんかクソ食らえと言いながら物凄く実験映画っぽいニック・ゼットの『Whore Gasm』という作品なんかもあったりして非常に面白いです。僕は彼やエラ・トロヤーノなんかは60年代のジャック・スミスやジョージ・クッチャーなんかの流れを汲んでいる人だと思っています。


映画の出来、不出来に関係なく、このシーンが好きなのは、“過激なこと”=“チンコ、マンコ”だと、何のてらいも無く正面切ってやってしまうところで。人に認められたいのに、不快な映画を作るという…その全く逆な感じも良いですよね。

これが作られた80年代の日本でも石井聰亙なんかが8ミリで映画を撮り始めていて、僕も自分で8ミリ映画を撮ったりしたのですが、35ミリで撮られている商業映画と自分達が撮っている8ミリ映画は同じなんだという気分で撮っていたので、とても共感したのを覚えています。

リチャード・カーンの映像センス

あのシーンにおいて、その後に大成したのはリチャード・カーンくらいで、ニック・ゼットは『NO NEW YORK 1984-91』に出てきたように当時と同じように貧しくて、認められないくて、世間を呪って…(笑)
『ハード・コア』を配給したときに、リチャード・カーンでポルノ撮ったら面白いなと思って、その旨をFAXで送ったことがあるんですけど。「僕はもう写真家なので、映画はあんまり撮る気ないな。じゃぁ、ニック・ゼット紹介してあげるよ!」と返信があり、そしたら直後にいきなりニック・ゼット本人からFAXがきて「やぁ、僕の映画をプロデュースしたいそうだね!それは良いことだ!」と。でも自分はニック・ゼットはどうだろうと思ってたので丁重にお断りしたんですけどね。(笑)

リチャード・カーンというのは、ニック・ゼットや、世界中のアンダーグラウンド・フィルムと同じように、反社会的、半モラルをテーマにしているんですけど、映像センスがあって。同じ、全裸、チンコ、マンコでもセンス良く見せることが出来るのが、彼の才能だと思います。ニック・ゼットの映画と比べると明らかに洗練されているし、映画文法というのとは違うものではないんですけど、躍動感や力やセンスがあるんですよね。

リチャード・カーン『Stray Dogs』


リチャード・カーン『X is Y』


リチャード・カーン『You Killed Me First』



NO WAVEシーンとの架け橋、
ディーヴァとしてのリディア・ランチ

リチャード・カーン、ニック・ゼットが当時のニューヨーク・アンダーグラウンドの映画界の中心だったとして、音楽界、当時のNO WAVEシーンとの架け橋になったのはリディア・ランチという、女性ボーカルだったと思います。彼女は体を張って彼らの映画に多く出演ていて、ある意味ディーバ的存在だったんですね。

リチャード・カーン『The Right Side of My Brain』


動画:リディア・ランチが主演している
リディアランチ

他にも『Fingered』というリチャード・カーンの代表作であり、リディア・ランチのコラボレーション作品としても有名な短編があるんですけど。この映画は「Cinema of Transgression(破戒映画)」で最も成功した作品で、ベルリン国際映画祭に招待されています。まぁ、とんでもない内容だったんで相当顰蹙をかったらしいですけど(笑)。僕は映画的にも非常に良くできた作品だと思っています。

写真:リディア・ランチ

面白いのが、この作品を映画祭に出すために8ミリで撮ったものを16ミリにしなければならなかった時に、どのような方法をとったかというと、8ミリを映写機でスクリーンに映し、それを16ミリのカメラで撮るという方法がとられています。これが一番安く済む方法だったからだそうです(笑)。全てがこんな風にメチャクチャだったところも好きなんですよね。

【関連記事】

中原昌也×ジム・オルーク対談
地引雄一×ECD 対談

【関連リンク】

リチャード・カーン公式サイト
ニック・ゼット公式サイト
UBUWEB : Cinema of Transgression
┗掲載したもの以外にも「Cinema of Transgression(破戒映画)」の作品が配信されています。


■鈴木章浩PROFILE

1961年浜松生まれ。18歳より8mmによる個人映画を撮り始める。テレビのAD、映写技師などを経て、スタンス・カンパニーでリチャード・カーン、ブルース・ラ・ブルース、グレッグ・アラキ、大木裕之など内外のクィーア/アンダーグラウンド作品を多数配給。映画のプロデュース、監督、“東京レズビアン・アンド・ゲイ映画祭”、“アンダーグラウンド・アーカイブス”などの映画祭企画なども行う。主なプロデュース作品に『シャボン玉エレジー』(イアン・ケルコフ監督)、『あなたがすきです、だいすきです』『エクスタシーの涙・恥淫』(大木裕之監督)など。監督作品に『天使の楽園』『天使の体温』がある。また、復活した60年代の伝説的アート集団・ゼロ次元のパフォーマンス時の映像も担当。現在、『ルナの子供』、『夜の影(仮)』(共同監督)の2作品を仕上げ中。ブルース・ラ・ブルース監督作品など海外との合作企画も進行している。


DVD『NO NEW YORK 1984-91』
アップリンクより発売中

監督・撮影・編集:アンジェリーク・ボジオ
出演:リチャード・カーン、ニック・ゼッド、ジョー・コールマン、リチャード・ヘル、リディア・ランチ、サーストン・ムーア、ブルース・ラ・ブルース、他
2007年/フランス/70分
価格:3,990円(税込)
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公式サイト

※本作品には、性的または暴力的表現で刺激が強く人によっては非常に不快に思うシーンが含まれていますので鑑賞の際にはあらかじめご注意ください。

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