骰子の眼

cinema

東京都 ------

2009-04-10 23:00


映画の愛に☆直感 第2回:泣きの遺作『buy a suit スーツを買う』と、笑いの処女作『ニセ札』に出会って心うごいた!

CM・映画界に新風を吹き込んだ市川準監督と、芸人や俳優等として唯一無二の才能を放つ木村祐一監督の両作品を、章氏ならではの不思議な視点からご紹介!
映画の愛に☆直感 第2回:泣きの遺作『buy a suit スーツを買う』と、笑いの処女作『ニセ札』に出会って心うごいた!
(写真左より)木村祐一監督『ニセ札』(c)2009『ニセ札』製作委員会、市川準監督『buy a suit スーツを買う』(c)2008 Jun Ichikawa office Ltd.

先月からスタートした松本章氏の映画コラム第2回目は、市川準監督の遺作となる短編映画『buy a suit スーツを買う』と、木村祐一の初監督作品『ニセ札』をピックアップ。さて、今回はどんな直感が出てくるのか!?


生きるとは?労働とは?というより「生活」する事の大切な部分が欠落してるしておるワタスは、スーツと白が似合わないので、コントになるので、似合いたい!!と思ってるその時に、市川準監督作品『buy a suit スーツを買う』と出会って一目惚れしたのです。

お話は、蒸発して行方不明だった兄貴から妹にハガキが届き、妹が上京し、兄の後輩の山口さんに会って、妹は山口さんから託された手紙を持って兄の住んでる場所に行ってみると、浅草の橋の下で、ホームレスな生活をしており、妹と一緒に、別れた妻のトモ子さんに会いにいくのです。

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『buy a suit スーツを買う』 (c)2008 Jun Ichikawa office Ltd.

この作品は実は、自主制作ですよ! いわゆる役者という「プロ」の方は選ばずに、CM『タンスにゴン』でお馴染みのスタッフ(裏方さん)を、素人、そうステキな雰囲気のちゃんと役にあったキャスティングにしてるのです。だから、とっても自然な感じでありますて、関西弁が普通に聴こえるのです。さすがの巨匠でありますので、ホンマに絵創りがしっかりしておりまして、普通の監督さんみたく、ここよってアップとって、雨降らせて、片目から涙を流すという不自然さがなく、基本的に固定のカメラで引いた絵創りで、ほんまにラスト辺りの心が動きすぎるショットでようやくアップなんですねん。

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懐かしい写真を見て、山口さんの手紙を読み「チャンスを、くれ」という兄にトモ子さんの「イッツ・トゥーレイトやわぁ」とカタカナ語の思いやりで語るのでした。あーあの頃には戻れないけど、懐かしい大切なあの時、あの一瞬の大切な想いを思い出すのであります。音楽もすばらしく全て生楽器の生きた優しい音でありまして、申し訳ない、泣いちゃいまして、ただただ、泣いた。

人が人の中で生きる事、孤独とステキな思い出と戻らない時間、時間に追われ過ぎると忘れた、或いは、置いてきた大切な、「おもい」をちゃんと思い出す大切な作品なのです。というか、ホントになんで、市川準監督は、たまたま死んでしまったんじゃ!! あほ!! と3回目観ても、やはり先ず、思うのでした。もっと、もっと、観たかったのです。しかしながら、市川準監督作品を世間様は、あまり観ておらずほんと、いやんバカ愚か者(マッチ風)に感じるのですが、恥ずかしながら私も市川準監督の作品をこの作品で初めて観るという本格的なバカでありまして、全作品を逆に観ていこうと今、決心したのでありますです。


不景気すぎるから、米国さんが早くドルに変わる新札でも作れば、他の国は怒るけれど…と思ってる頃に、結局の所、悩みの原因は、金なのか!! と決定した時に、木村祐一第一回監督作品『ニセ札』と出会ったのであります。

お話は1945年、まさに戦後まっただ中、田舎の暮らしは貧乏で、佐田カゲ子(賠償美津子)が教頭を勤める小学校は図書館の本もない。元教え子のブローカー(板倉俊之)が村を金持ちに救うため、ニセ札を作ろうとぶっとんだ企画を立案しカゲ子の苦悩と葛藤、紆余曲折があり、作戦統括に元軍人で印刷のスペシャリスト戸裏文夫(段田安則)のもと、戸裏の部下(小笠原憲三)と選ばれた精鋭村人でニセ札作戦は進行なのです。そして、金は饅頭より怖い事が起こるのである。脚本の向井康介さんの手腕が光っておりまして、ほんと良く、こんな古い三輪トラックを見つけてきたなーと美術さんも光っておりまして、田舎の家屋の闇の部分を作り出す照明さんも光っておったのです。

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『ニセ札』 (c)2009『ニセ札』製作委員会

倍賞美津子さんが光すぎ! ホンマ、バケモンですねん。演技が凄すぎ!なのです。達人とはこの事だ!です。カゲ子が女手一つで育てた痴呆症の哲也(青木崇高)も画面に出てきた瞬間から光っておったのです。痴呆症の野生な役(野蛮ではなく、心が自由で女にも興味有り、ピュアになっていなく、飛び抜けて記憶がいいとか天才と描かれてない)のですが、韓国映画『オアシス』の女優さんまではいかないが、それに似た難しさとイメージダウン(世間は爽やかが好きなのか、日サロかな?がイメージアップかな?)が有るのですが、敢えていってしまった所に、表現への戦いを感じたのであります。あと軍国青年を演じた三浦誠己さんの「気持ち」の入った演技は、いい意味で他のキャストを喰っておったんです。

ニセ札3

ニセ札を一緒になって作るワクワクする思いは、一緒になってワクワクでき、最後残り15分のお話の終着点が、凄かったっす。向井に拍手!! 惚れたぜ、乾杯!!(前からだけど) で、エンドロールの主題歌で何故か爆笑しましたのです。
ワクワクして、笑って、落ち込んで、お金、そして一生懸命に作ったニセ札よりも大切なモノはあるのだ!!とバカな私に気付かせてくれた作品なのでありました。次回は木村祐一監督自らの企画、脚本作品で是非出会いたいと思ったのであります。

告白します。偶然、処女作と遺作と出会ったのですが、どちらも感じる事が(心うごく事)がありますて、同時に、木村監督の初めて撮る映画の楽しさ、市川監督の初めて撮るような解放された、「映画」を感じたのであります。ほな、ナマステ。

追記:
この2作品を楽しむ無駄なキーワードは、ミルプラトー / 霧の中の風景 / 利己的な遺伝子 / 賃労働と資本 /マルクスを超えるマルクス / 鬼が来た / 宇宙戦艦ヤマト / ニワトルはハダシだ / 松ケ根乱射事件 / 失われた時を求めて / 靖国神社 / 昭和26年のニセ千円札事件 / ゆきゆきて神軍…など、図書館、古本屋、DVD、映画館などで感じてください。



『buy a suit スーツを買う』
2009年4月11日(土)より渋谷ユーロスペースにてモーニング&レイトショー、他全国順次公開

『BU・SU』から始まり、『東京夜曲』、『トニー滝谷』と、これまで17本の長編劇映画を作られた市川監督が、「勢いだけで描いた“線”のような」、「ヌーベルヴァーグが16mmのカメラを持ち、外に飛び出してノーライトで映像を撮りはじめた当時の“初心”のようなものが、今回、自分の気持の中にもあったような気がする」と、2007年12月、自らもカメラを回し、出演を普段からキャラクターが面白いと思っていたCMの仕事仲間に依頼して、作られた作品。

脚本・監督:市川準
出演:砂原由起子、鯖吉、山崎隆明、三枝桃子、他
2008年/日本/47分
配給・宣伝:スローラーナー
◎併映:『TOKYO レンダリング詞集』(市川準監督/2008年/27分)
公式サイト



『ニセ札』
2009年4月11日(土)よりテアトル新宿、シネカノン有楽町2丁目他全国ロードショー

芸人、構成作家、料理人、俳優など、様々な分野で唯一無二の才能を放ってきた木村祐一が長編初監督作品として選んだのは、お金に翻弄される人々の物語。深い親子愛あり、冷酷な仲間割れありのスリリングな人間関係の中で、ニセ札に託された希望が膨れ上がっていく様子を、幅広いキャリアに裏打ちされた抜群のストーリーテリングの手腕で描き、硬派なテーマを笑いと涙とサスペンスの効いた極上のエンタテインメントに仕立て上げた。

監督・共同脚本:木村祐一
脚本:向井康介、井土紀州
出演:倍賞美津子、青木崇高、板倉俊之、木村祐一、西方凌(新人)、三浦誠己、宇梶剛士、村上淳、段田安則、他
主題歌:ASKA 『あなたが泣くことはない』
2009年/日本/94分
配給・宣伝:ビターズ・エンド
公式サイト



松本章(まつもと・あきら)PROFILE

1973年生まれ、伊勢男子、現在西成在住。熊切和嘉監督全作品、山下敦弘初期作品の映画音楽をプロデュース。最近は、熊切和嘉監督『ノン子36歳(家事手伝い)』(全国上映中)、内藤隆嗣監督『不灯港』(7月上旬公開予定)、山﨑裕監督『トルソ』の音楽を手掛けた。特技は、直感。なりたいのは、音楽の、あつかいにくい新人?でした。
マイスペース

【過去の映画コラム】
第1回 変態群像劇『バサラ人間』(2009.3.25)

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