三留まゆみさん(左)と岩田和明さん
アレックス・コックス監督の最新作『サーチャーズ2.0』が渋谷アップリンク、吉祥寺バウスシアターで公開されているなか、1月24日アップリンクで公開記念トークショーが開催された。ゲストに、独特なイラストで映画紹介をするイラストライターの三留まゆみさん、映画雑誌「映画秘宝」編集部の岩田和明さんを迎えて、「アレックス・コックス映画入門 『サーチャーズ2.0』が100倍楽しめる元ネタ大放談!」と題して濃厚なトークが繰り広げられた。
「レポマンの人生は緊張だ」を座右の銘にして生きてきた
岩田和明(以下、岩田):アレックス・コックス作品との最初の出会いは、やっぱり『レポマン』(84)ですか?
三留まゆみ(以下、三留):そうですね。『レポマン』でコックスの洗礼を受けた人はすごくたくさんいると思います。
岩田:『レポマン』の衝撃ってよく語られますが、具体的に何が衝撃だったんですか?
三留:だって、こんなにとんでもない、先にまったく読めない映画を誰がつくったんだよ、おい!っていう。使われている曲とか、主人公のエミリオ・エステベスがパンクの少年っていうこともあって、パンクスにすごい人気あって。主人公が、ローンをためた人の車を取り返すレポマンっていう仕事にスカウトされるという話なんだけど、途中から宇宙人は出てくるわ、それを追いかけるメン・イン・ブラックは出てくるわ、一体この話はなんなんだ!?と。しかも、イギリス人だけど舞台はロサンゼルスっていう。最後にU.F.Oで飛んでっちゃうんだよ。「レポマンの人生は緊張だ」というセリフがあるけど、まさにそんな映画で。だから、これを座右の銘にして生きている人たちは、私たちの世代にはいっぱいいますよ。
岩田:僕はリアルタイムじゃなくて、DVDでしか観たことないので、どのあたりで何が衝撃を与えたのかなと思ってはいたんです。
三留:何回同じところを観ても興奮するしね。
岩田:当時コックスは自主映画出身で登場したわけですが、三留さんも自主映画界の70年代後半から80年代を駆け抜けたわけなんですけど、当時のコックスはどういう存在でしたか?
三留:やっぱり、インディーズの人です。コックスの映画をずっと観てきて、総インディーズの人なんだろうなって思いますね。『シド・アンド・ナンシー』(86)等の大作も撮ってるけど、ぐるっとまわって、今回の『サーチャーズ2.0』でロジャー・コーマンと組んだりとか。そこに描かれる世界を見ても、やっぱりこの人は絶対インディーズ作家なんだなって。
写真:三留さんが「映画秘宝」(洋泉社刊/09年2月号)にて描いた『レポマン』のイラスト
岩田:インディペンデント・スピリッツを持っている。
三留:ずっとあんな感じでしょ。でも、コックスって写真を見ても分かる通り、とっても紳士な人なんですよ。オックスフォード出身っていうので、「え?そんなプロフィールの人がなんでこんな映画を?」と。ある意味、不良の映画なんです。パンクスイコールという意味じゃなくて。でも、いつもアウトサイドに立って、だけどもアナーキーな、すごくメッセージ性の強いものを発信しているというのは、『レポマン』でのアメリカ批判であったり、『サーチャーズ2.0』もそうでしたし。
岩田:映画そのものに対する批判であったり、映画業界に対する批判というものがありますよね。
三留:そういうものを、全然丸くならずにずっと抱き続け、表現を続けるっていうところで、コックスの生き方はすごいカッコイイと思います。
映画の常識を破壊する作品とは裏腹に、紳士的な人柄
岩田:この劇場用パンフレットは『ザ・ウィナー』(96)というコックスの作品です。三留さんも人物相関図を描いていますね。これは社会派の作品なんですよね。
写真:『ザ・ウィナー』劇場用パンフレット
三留:けっこう壮絶な話です。だけどもコックス節。『ウォーカー』(87)に続き、『ザ・ウィナー』(96)、『デス&コンパス』(96)をつくるんだけど、その辺でコックスはしばらく映画制作から遠くなってきて。
岩田:『サーチャーズ2.0』は日本で公開されるコックスの映画としては、約6年ぶりの新作となりました。今回コックスが来日したとき、「映画秘宝」ではインタビューをしましたね。
三留:話していても、すごく知的で紳士。だけど、映画はいつもこうなんですね。「濱マイク」のシリーズをコックスが撮ったときに、日本のスタッフ・監督のチームだと、押せ押せで、これだけは撮るみたいな感じで毎日朝まで撮影だったんだけど、コックス組はきっちり時間に終わるんだって。だから役者もスタッフも天国だって言ってたみたいで。
岩田:映画の内容は映画の常識を破壊するつくりだけれども、それをつくっているご本人は紳士的だし、驚くほど常識的な人ですよね。三留さんは来日したコックスにお会いしていかがでしたか?
写真:今回来日したアレックス・コックス監督
三留:この人が『レポマン』で『ザ・ウィナー』でって思うんだけど、なんか違うかもしれないっていう、どこで変わるんだろうっていうのが常にあって。でも来日したとき、試写のあとに監督のQ&Aがあって、「チャールズ・ブロンソンとクリント・イーストウッドのどっちが好きか」という質問が出たんですね。コックスは「そりゃブロンソンだよ」って答えたから、すごく親近感が湧きました(笑)。イーストウッドに関しては、イーストウッド作品を褒めちぎったり評価しなければならない風潮がイヤだって。ここもコックスっぽいなって思ったんだけど。
岩田:その辺はいまだにインディペンデントが貫かれていますね。
三留:そういうことをはっきり言い切れるところがいいなと思います。
ジョン・フォード監督『捜索者(サーチャーズ)』が物語のベースに
岩田:『サーチャーズ2.0』は、映画自体は2006年製作でタイムラグがあって、ようやく日本で公開されました。いまコックスの映画を観られるのは素晴らしいことだと思います。僕の印象では、コックスは常に何かに怒っている、もしくは、何かに苛立っている主人公に対して、ものすごくシンパシーを持って映画をつくる作家という印象があるんですが、今回の新作はいかがでしたか?
三留:『レポマン』でもそうですが、「そんなわけないだろ」っていう話をかくもつくってしまうっていう。この映画も初老に差しかかったオヤジたちが主人公で、娘が入って3人のロードムービーなんだけど、そのオヤジたちは元・子役の設定で(笑)。そこまではいい。で、その2人には子どもの頃に撮影現場で脚本家に虐待されたっていうトラウマがあって。その脚本家に復讐するため、3日間車をとばしていくわけですよ。でも、コックスが言っていたけれども、「脚本家が現場で虐待するなんてあり得ないだろう」って(笑)。このストーリーの発想は素晴らしいなと思って。普通考えてもやらないでしょ。
岩田:50歳過ぎの人が発想する映画の発想ではないですよね。若い感覚というか。このトークショーは元ネタ大放談というタイトルになっていますが、実は元ネタといってもそれほど別に元ネタを知っているからどうこうっていうような映画ではなくて、あえて言うならばあらゆる西部劇、ジョン・フォード監督の『捜索者(サーチャーズ)』の物語構造がベースになっています。
三留:岩田くんは観たんでしょ。
岩田:ジョン・フォードの『捜索者(サーチャーズ)』と、コックスの『サーチャーズ2.0』を続けて観ました。『捜索者(サーチャーズ)』は簡単にいうと、家族をインディアンにさらわれたジョン・ウェインが復讐の旅に出るという話。物語構造は完全に『サーチャーズ2.0』と同じなんです。すごく面白かったのは、主人公が独善的な思い込みに縛られて、目的のために爆進するというところが、2作品ともほんとにそっくりで。『捜索者(サーチャーズ)』は、さらわれた家族を発見したときには家族がインディアンに完全に染まっちゃってた。それを知った瞬間に、ぶち殺してやるということになってしまう。それはあり得ないだろうっていうところがあって。あとは、舞台のモニュメントバレーの美しさも見どころなんですけど、『サーチャーズ2.0』もモニュメントバレーの撮影が素晴らしくて。と言っていると、とても真剣な話に聞こえるんですが、実は『サーチャーズ2.0』はコメディなんです。それを知った上で観ていただけると嬉しいですね。この映画の80%は、くだらない映画談義ですし。
写真:『サーチャーズ2.0』より (c)2007 COWBOY OUTFIT, LLC PRODUCTION
三留:映画談義が延々とあるんだけども、たとえばタランティーノ映画での映画談義とは全然違うと思う。
岩田:どこが違うんですかね?
三留:どっちも映画が好きなのはとてもよくわかるんだけども、でもコックスは、そのくだらないことを垂れ流していたり、そこに傍観者がいたりとか。「何をくだらないこと話してるの」って言い切っちゃう。それに、この映画って繰り返し観ると、かなり仕掛けがしてあったりとか、元ネタわかんなくても100%楽しめると思います。わかったらわかったで、また楽しめるっていう。だから、ある一部の映画マニアに向けてつくっているというわけではないんですね。
いまでも健在のインディペンデント・スピリット
岩田:本作には映画の固有名詞や人名がいっぱい出てきますね。
三留:でも、嘘もいっぱい入ってる。
岩田:そうですね。架空の映画タイトルや人名も出てきます。その辺を「これは本物?嘘?」っていうのを考えながら観ていただけると楽しめますね。
三留:それに、いろんな本物の風景を使っています。9.11以降のアメリカが映っているんです。「奴らを倒し、石油を奪え!」と書かれたステッカーが、車のバンパーに貼ってあったりとか。アメリカ人ではなく、しかもイギリスから遠く離れてしばらく中南米にいて映画を撮っていてというコックスが見たアメリカがはっきり映し出されている。それは皮肉だけでなく、そこで自分も今の生活をしているっていうのが見えてくる。
写真:『サーチャーズ2.0』より (c)2007 COWBOY OUTFIT, LLC PRODUCTION
岩田:復讐の理由もとてもくだらないんですけど、深読みがいくらでもできるという映画ですよね。それに、今回コックスが何に対して怒りの矛先を向けているのか?というところがまた面白い。
三留:これだったのかっていう。それはコックスの映画人生なんだと思う。何回観ても、絶対面白いです。
岩田:映画業界人にとっては涙なしでは観れないような部分もあったり。でも、コックスとロジャー・コーマンがこういう今のシネコン文化が席捲する映画業界に対する皮肉の効いた映画をつくったのがすごいと思いますね。若い映画作家は一体何をやっているんだ!という声が聞こえてきますよ。
三留:ロジャー・コーマンって80歳超えてるでしょ。実は、この映画はお金がとってもかかってないそうです。だけど見せ方のプロだなって。お金かけなくてもちゃんとつくれるっていう。
岩田:きちんとインディーズ映画なりのソフィスティケイトがなされています。
三留:10人くらいの少ないクルーでつくったんですよね。
岩田:それこそインディーズ魂ですね。
三留:そういう意味では、久しぶりにコックスの映画を観たっていう感じがしました。やっぱり待っていてよかった。
岩田:濃度100%コックス映画ですね。僕たちが見たかったものをようやく見せてくれました。最後に、コックスの次回作が『レポチック』というレポマンの女性版があるらしいですね。
三留:メインのキャスト以外は出演するって聞いてます。
岩田:撮影がそろそろ始まるみたいで。『サーチャーズ2.0』がヒットした暁には、日本でも是非公開してほしいですね。
【PROFILE】
■三留まゆみ(みとめ・まゆみ)
イラストライター/映画評論家。デス・コード・ジャパンCEO。
公式サイト
■岩田和明(いわた・かずあき)
79年生まれ。『映画秘宝』編集部所属。
映画秘宝・洋泉社公式サイト
『サーチャーズ2.0』
アップリンクX、吉祥寺バウスシアターにて絶賛公開中
監督・脚本・編集:アレックス・コックス
エグゼクティブ・プロデューサー:ロジャー・コーマン
出演:デル・ザモーラ、エド・パンシューロ、ジャクリン・ジョネット、サイ・リチャードソン、ザン・マクラ―ノン
2007年/アメリカ/96分
提供:JVCエンタテインメント 配給・宣伝:アップリンク
【公開記念トークショー開催】
★1月30日(金)21:00の回上映終了後
『サーチャーズ2.0』で読み解く映画業界の「裏」
ゲスト:黒沢清(映画監督)×わたなべりんたろう(ライター 「ホットファズ」公開署名運動主催)
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