骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2009-01-07 18:30


アレックス・コックス監督来日レポートPart2 中野ブロードウェイで「サブカル・ミステリー・ツアー」

アレックス・コックスを愛してやまないライターの加瀬修一氏が、監督来日を知って思いついた企画とは!?
アレックス・コックス監督来日レポートPart2 中野ブロードウェイで「サブカル・ミステリー・ツアー」

「奇跡の一夜、ALEX・COX in 中野ブロードウェイ」
加瀬修一(ライター/レコミンツSIDE-Bスタッフ)

それは偶然。いや、必然だったんだと思う。その日、2008年10月21日。職場で書類の整理をしていたら、試写状を見つけた。僕宛ではない。アレックス・コックス監督の新作『サーチャーズ2.0』。以前アップリンクの石井さんから、噂は聞いていた。これかー、公開はいつからだろうと裏を見ると、監督来日、11月17日の試写でQ&Aありの文字が。心の目盛りがグッと上がった。パッと頭に浮かぶ。アレックス・コックスを中野ブロードウェイに呼びたい!周りは誰も実現できると思っていなかった。でも僕は、根拠は何も無かったけれど、できる!と思った。何故って?死ぬほど会いたいから!!
すぐ石井さんにメールした。この時すでに来日まで一ヶ月を切っていた。ここから奇跡が始まる。

■インディペンデントな場所に呼びたい!

石井さんもすぐに打ち合わせの時間を取ってくれた。企画のあらましは28日にほぼ決まる。あっと言う間だった。その場で試写状を頂き、翌々日の試写で初めて『サーチャーズ2.0』観る。面白い~っ!!オフビートでブラックでもの凄く自由。監督のぶれることのない価値観。この映画は、既存の枠組みを撃ち砕く弾丸だ。アレックス・コックスのパンク・スピリッツ健在!!目盛りがまた一つ上がる。企画のハードルも上げる。

ロックとサブカルが渦巻く中央線沿いにある「中野ブロードウェイ」。インディペンデントなこの場所に、インディペンデント・スピリットを持ち続けるアレックス・コックス監督を呼びたい。ガイドは僕がやります。3、4階を散策して、締めくくりにDVD専門店レコミンツSIDE-Bで、先行上映イベントのチケット購入者限定サイン会っていうのはどうでしょう?ガイドもサイン会もやった事など一度も無い。おまけに僕はNO Englishだ。勢いだけの滅茶苦茶な企画とスケジュールを、石井さんがフォローしてくれた。

フライヤー

あとはギリギリまでやるしかない。手書きでPOPを書きまくった。メールや電話をしまくった。協力してくれる人くれない人、全てをひっくるめて走り出した。まずは店内に監督のイラストを飾りたい。でっかく引き伸ばして。知り合いのイラストレーターに持ちかける。興味があったらでいいんだけど、一週間でアレックス・コックスのイラストを描かない?無理ならいいんだけど。彼は乗ってきた。できたイラストは、後に監督も大満足の仕上がりだった。スチールカメラマンもプロがいいな。お世話になっている映画芸術の福田さんに相談する。すぐ何人か当たってみます。と言われてから2日待つ。良い人いましたよ~、と矢吹さんを紹介される。本番4日前だった。

ここまで来ると、どんどん人と人とがつながり始めていた。イメージが一気に具現化して行く。加速する。石井さんから、監督無事に来日しましたと連絡。ホッとするも、いよいよ時近し。準備も最終段階。目盛りはとうにレッドゾーンに入っていた。


■「中野はビールを飲むところはありますか?」

11月17日。監督の歓迎パーティーに顔合わせも兼ねて呼んでいただく。『リベンジャーズ・トラジティ』DVD特典のTシャツを着て気合いを入れる。会場につくと、監督の姿が!当然だけど普通にいる。おぉ、背が高い。嬉しさと緊張で、テンションがおかしくなる。いざ、挨拶の瞬間。○*#&%&$…。上手く言葉が出てこない。石井さんが紹介してくれる。頷く監督の笑顔が素敵だ。「明日は楽しみましょう。よろしく」そう差し出された大きな手。握り返すとこちらの緊張もほぐれてきた。こちらこそ、よろしくおねがいします!

アレックス&加瀬
写真:ライターの加瀬氏(左)とアレックス・コックス(撮影:中平一)

「中野はビールを飲むところはありますか?」たくさんあります。「良かった、一緒にビールを飲みましょう」はい、楽しみにしています。Tシャツに気づく監督。「リベンジャーズ・トラジティだね!」今日着なくていつ着るんだと思って着てきましたと、健さんよろしくもろ肌脱ぐ勢いで、ジャケットを捲って背中のロゴを見せた。「エクセレント!!」おっ、喜んでもらえたかな。そして持って行った本「e/m booksアレックス・コックス」にサインをお願いする。監督の映画作りがどういうものか知りたくて、この本を何度も読みました。「ありがとう。うれしいよ」中の写真を見て、「ビールを飲んでて、ちょっと酔っている顔だね」と笑う監督。「この次に300ページくらいの本を出しているんだけど、まだ和訳されてないんだ」そうなんですか、日本版が出版されるのを待っています。「(通訳さんに)彼が暇な時にちょっとやってくれればいいんだ」是非明日から、お願いします!みんなで笑った。


■中野ブロードウェイでジョー・ストラマーのDVD購入

11月18日。ついに中野ブロードウェイにアレックス・コックスが来る。18時に中野サンプラザ前で待ち合わせ。中野通り沿いに立つ監督の姿、一瞬現実感を無くす。夢じゃない。大きく息を吸い込む。これから短くも熱い「サブカル・ミステリー・ツアー」が幕を開ける。監督、Let’s Goです!「よし!行こう」

アレックス・コックス中野ブロードウェイ
アレックス・コックス01
アレックス・コックス02

アレックス・コックス04
アレックス・コックス03

中野ブロードウェイを散策するアレックス・コックス

中野ブロードウェイに着くと、直通エスカレーターで3階まで一気に上がる。漫画やショーケースのおもちゃ達を興味深気に見つめる監督。CDショップの前まで来ると、噂を聞きつけたファンが待ち受ける。気軽にサインや写真撮影に応じる監督。昨夜もそうだった。妙な取り巻きはいない、物腰はやわらかで優雅、常に気遣いとユーモアを忘れない。そして笑顔が最高に素敵なのだ。監督のジェントルな姿勢には、本当に感動させられる。CDショップでは、亡き親友ジョー・ストラマーの『レッツ・ロック・アゲイン』のDVDをお買い上げ。「これはいい作品だよ」買います!!そのあとも、髑髏グッズやミニカーを眺めながら、終始穏やかな笑顔をみせてくれた。

アレックス@中野

監督が次回作の撮影機材を探していると聞いていたので、4階のフジヤエービックプロショップへ案内する。ここでは監督の表情が一変する。真剣な眼差しで機材を見つめ、デモ機を手に取り、細かに通訳さんに確認しながら質問を繰り返す。答える店長の長谷川さんも真剣だ。その監督の姿に、撮影現場の様子を垣間見た気がした。


■BGMはゴジラ!「いい曲だよ!」

ついに締めくくりのサイン会。集まったファンの拍手に、照れながらおどけてみせる監督はチャーミング。ここに至っては、僕も完全に目盛りを振り切ってしまっていたので、ブースでの立ち位置を間違っている。通訳さんを間にしなければいけないのに、監督に寄り添ってしまった。ただその時は全く気づいてなくて、ただただ嬉しかった。

アレックスサイン会

「さあ、始めよう!」一人一人丁寧に声をかけ、ファンの名前を間違えないように、スペルをメモで確認する。最後は笑顔で握手。緊張していたファンも顔がほころぶ。監督BGMわかりますか。「もちろん!ゴジラだ。いい曲だよ!」店のボルテージは最高潮に達した。監督は、タイトなスケジュールできっと疲れているはずなのに、そんな素振りは微塵も感じさせない。自分がすべき事を知っている。笑顔は笑顔を呼び力を生む。
闘いつづけているからこその強さと柔軟さ。その懐の深さに僕だけじゃない、みんなが魅了されていた。やがて終りの時。湧き上がる拍手。監督、本当にありがとうございました。「こちらこそ、本当にありがとう」握手をした手は一段と大きく感じた。

約束通り、打ち上げはビールで乾杯。ごめんなさい。そこで話した事は、僕の胸にしまっておかせて下さい。一つだけ、監督の言葉を紹介します。
「人生は先に何があるかわからない。だから肩の力を抜いて行こう」
それは監督やゲストではなく、人生の先輩からの一言だった。ずっしりと心に響いた。

タクシーで帰るアレックス・コックス監督の姿を見送りながらふと思った。
これは夢じゃないか。いや、夢ではないけれど、奇跡だ!


(文:加瀬修一/写真:矢吹健巳)

『サーチャーズ2.0』
2009年1月10日(土)よりアップリンクX、吉祥寺バウスシアター、横浜シネマジャック&ベティにてロードショー

監督・脚本・編集:アレックス・コックス
エグゼクティブ・プロデューサー:ロジャー・コーマン
出演:デル・ザモーラ、エド・パンシューロ、ジャクリン・ジョネット、サイ・リチャードソン、ザン・マクラ―ノン
2007年/アメリカ/96分
提供:JVCエンタテインメント 配給・宣伝:アップリンク

初日限定、特別併映あり!
『アレックス・コックス・イズ・バック』(約20分)

2008年11月に来日したアレックス・コックスに密着したドキュメンタリー。単独取材、横浜、東京で行ったイベントなどを通して彼の溢れる映画愛、ハリウッド・映画業界に反抗し続ける生き様、貫き続けるインディペンデントスピリッツの原点を探る。田口トモロヲ、永瀬正敏などにも取材を行い、アレックス・コックスの人物像に迫る。
・渋谷アップリンクX:1月10日(土) 13:00~/21:00~
・吉祥寺バウスシアター:1月10日(土) 21:15~
・横浜シネマジャック&ベティ>:1月10日(土) 20:00~

公式サイト


レビュー(0)


コメント(0)