世界中から注視されているチベットには、報道規制により、現在外国からのカメラが入ることは許されない。『風の馬』は今から10年前、チベットのラサやネパールで監視の目をかいくぐり撮影された劇映画である。本作は、実話をもとにチベット問題を真正面から捉えた衝撃作として、世界各地で上映され芸術的な賞賛と政治的な論争を呼んだ。この物語は、今もなおチベットで起こっている、紛れもない"真実"を描いた作品である。
本作の公開に先立ち、2009年1月8日(木)にアップリンク・ファクトリーでプレミア上映を開催する。監督のポール・ワーグナー氏に撮影時の様子について話を訊いた。
1993年の秋、ニューヨーク・タイムズ紙を読んでいた監督のポール・ワーグナーの目にとある記事が留まった。若いアメリカ人女性がチベットの首都ラサでデモの写真を撮影したことが原因で中国警察に逮捕されたという。ワーグナー監督がその話に興味を引かれた訳は、彼にはチベットと国境を接するネパールのカトマンズで、チベット文化とチベット語を学んでいるジュリア・エリオットという姪がおり、彼女からチベットとネパールでのチベット弾圧に対する抵抗運動の話を聞いていたからだ。だが、その記事を読み進むと、監督はその若い女性こそジュリア本人であることに気がついた。彼女はパスポートとカメラ、デモ行進の様子を収めたテープを取り上げられた上で当局から解放された。この事件が『風の馬』の制作のきっかけとなった。
写真:ポール・ワーグナー監督(右)
中国当局による監視の目をかいくぐった無許可の撮影
私たちがどうやって『風の馬』を撮影したかを話すと、多くの人が劇映画を撮るにしては驚くべき話だと言う。キャストやクルーにとっては、事実あらゆる点からして生涯に一度あるかないかの体験だったが、その一番大きな理由は、『風の馬』がチベットとネパールの国内で、監視の目をかいくぐり撮影されたということだった。
チベット国内で秘密裏に撮影をするのがどれほど危険だったことか。もし見つかったら、それは映画制作の終わりを意味しただろうが、投獄されることはないと考えていた。しかし、撮影を支援してくれたラサに住むチベット人たちはそうはいかなかっただろう。だから、残念ながらこの映画のために一生懸命働いてくれた勇気ある彼らの名前をクレジットに入れるわけにはいかなかった。
写真:紀元前7世紀頃、チベット自治区の区都ラサ市にある紅山の上に造営されたダライ・ラマの冬の宮殿ポタラ宮
常に危険と隣り合わせの撮影
尼僧のペマが中国の宗教弾圧に抗議して「フリー・チベット!」と叫ぶシーンが最も危険な撮影だった。カトマンズで百人以上のチベット人エキストラを使った撮影では、すぐにこの映画が知れ渡ってしまうのは明白だ。撮影が終わった晩、すべてのテープはアソシエイト・プロデューサーの手に渡り、彼はそれを持ってアメリカ行きの飛行機に飛び乗った。
翌朝、警察がホテルにやってきて、検閲のためにテープを引き渡せと命じたが、我々に心から言えたことは「もうそれはネパールにはない」ということだけだ。
★『風の馬』プレミア上映 1月8日(木)19:00~
『UPLINK プレゼンツ ドキュメンタリー傑作選』
2009年1月2日(金)~1月9日(金)
会場:アップリンク・ファクトリー
(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F)[地図を表示]
料金:一律1,000円(お茶付き)※『風の馬』のみ1,500円となります。
『風の馬』2009年3月よりアップリンクにてロードショー
監督:ポール・ワーグナー
出演:ダドゥン、ジャンパ・ケルサン、他
1998年/アメリカ/97分
配給・宣伝:アップリンク