骰子の眼

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東京都 渋谷区

2008-11-23 15:00


「カメラを持っていると、突然スイッチが入るんだよね」森山大道×渡辺聡監督トークショー最終回

『森山大道「サンパウロ、路上にて」』DVD発売記念トークショー最終回は、森山大道氏が登場。渡辺聡監督と共にトークをおこなった。
「カメラを持っていると、突然スイッチが入るんだよね」森山大道×渡辺聡監督トークショー最終回

街を知覚する、森山大道の五感

渡辺:今回、初めて撮影に同行させて頂いてまず思ったのは、森山さんはどこの街でも同じスタイルで、嗅覚を使って動かれているということです。結構長旅だったのにサンパウロに到着してから1,2時間くらい休んですぐ街に出ましたよね。カメラを持った瞬間にいきなりスイッチが入ったようでした。撮影はいつもそんな感じで始まるのですか?

森山大道02
写真:仲本剛

森山:僕は性格的に、筋道を立てて進めるとか下調べをするということが全くできないんだよね。カメラを持っていると突然スイッチが入って、だんだんヒートアップしてくる。どの国に行っても自分の嗅覚が連れて行く場所から撮影を始める。僕の場合、まずシャッターを切るところから始めないとなかなか入っていけない。考え込むとフットワークがきかなくなるからね。そこからセンサーが働き出す。カメラを持っていると、知らない街でも徐々にセンサーで感知していける。

渡辺:先日トークショーに出演してくださった飯沢耕太郎さんも、「森山さんのセンサーは天才的だ」と仰っていました。

森山:努力もしてるんだけどね(笑)。


群衆の在り方

渡辺:今回の展覧会についてですが、「人を撮る」ということ、そしてその人で壁面を埋めるということは、撮影中に思いついたことなのでしょうか?

森山:サンパウロを撮るということについては大使館からの依頼だったから、自分では考えたこともなくて最初は戸惑ったけど、未知の都市に一度身を置いてみたいという誘惑や素朴な興味はあったね。そしてミゲル・リオ=ブランコさんと一緒に現代美術館を見に行って、壁面を見た瞬間に「ここは人で埋めよう」と決めた。ブエノスアイレスに行ったときは、好きで憧れた場所だったから、そういう心情で撮ることが多かった。でもサンパウロにはそういう心情を入れ込まずに撮影したかった。それも一種の直感だったね。だから、僕の写真の中でもドライなものに仕上がった。

渡辺:展示ではそれがうまく作用していましたね。1m×1.5mの写真が3列、隙間なく並んでいるのですが、一枚一枚の群像のイメージというよりは、全体で見ると本当にサンパウロの問屋街に立っているような、写真の中の人がうごめいているような錯覚を起こすくらいの壁面になっていました。街の最初の印象はいかがでしたか?

森山:視覚的なスケールは、東京よりかなり広いと思いましたね。それと、上海やブエノスアイレスとは雑踏の在り様が違っていて、サンパウロの雑踏は乾いているような、ハードな印象を受けたんだよね。だから、ウェットでセンチメンタルなカットを撮らずに済んだ。僕が考える、スナップ写真のいい感じが結果として出たと思う。

渡辺:旧日本人街、リベルダージも撮りたいと仰っていましたよね?

森山:最初は、世界最大の日本人街だと何かで読んで、もし本当に100年も続いた場所ならおもしろいなと思って行ったんだけど、行ってみたら全然違っていたんだよね。中国人や韓国人の場所になっているし、有名な鳥居や提灯を今撮ることに意味はないし、移民にことよせて行ったわけではないので。だから、サンパウロのダウンタウンや日常の中に僕自身が紛れ込んでみるというのが一番だと思った。

森山大道
写真:仲本剛

渡辺:あとは、サンパウロから離れたところでは、港町のサントスに2回行きましたよね。

森山:サントスは僕の好きな街なんだよね。港町で旧市街だから、ムードがある。時間とかそういうものが染み付いている場所。センチメンタルに撮ろうと思えば撮れるような。

渡辺:そこでは森山さんの街との関わり方が若干違っていたので、おもしろいなと思いました。

森山:僕は船や港町が好きだからね。でも、そこにこだわりすぎるとブエノスアイレスをトレースすることになりかねないし、今回の展覧会に関してはそういうふうにしたくないので、あえておいしいコーヒーを飲んで散歩しただけです。

今後の活動について

森山大道「サンパウロ、路上にて」

渡辺:サンパウロの展覧会は東京都現代美術館で1月までやっているのですが、11月15日から清澄白河のタカ・イシイギャラリーで、もうひとつおもしろい展覧会が始まっています。

写真:仲本剛

森山:今年の夏、ポラロイドのフィルムが生産中止になったからタイトルは「バイバイ ポラロイド」。せっかくバイバイだから、もう一度東京でも展覧会をやろうかなと。今年の4月と10月、11月の頭まで集中して一気に撮りました。


渡辺:都内のいろいろな場所が写っていましたね。改めて都内を歩いてまわってみていかがでしたか?

森山:すごく忙しい時期で、なかなかゆっくり歩けなかった。だから、仕事の合間が数時間空くとカメラを持ってタクシーに乗って「あそこ行って」と言って、そこに着いたらバーっと撮って、ということを繰り返してたら都内のいろいろな場所を撮れたね。本当はもうちょっとゆっくり街を歩きたかったんだけどね。

渡辺:GRで撮るときとは、ペースなど違いますか?

森山:まあ、カメラの大きさが違うからね。バッグを持ち歩くの嫌いなんだけど、バッグに入れなきゃいけないし。でもそれを凌ぐおもしろさがあった。展示もうまくいったよね。503点を一列に並べてかっこよくなった。

渡辺:12月3日からは、リコーの新しいギャラリー「RING CUBE」で、5月に出た写真集「S’」の展示があります。

森山:無人の競技場などの写真です。僕はスポーツには全く興味がなくて、撮る気もないんだけど、与えられるとやりたくなる、おっちょこちょい精神だね。自分に何ができるかという興味もある。アプローチの方法としては、競技場を物質のように見る、という撮り方。風景写真なら僕じゃなくてもいいと思うけど、その風景がどこかで物質に変容するような作品ができればおもしろいかなと思った。

渡辺:1月7日からは同じギャラリーで、デジタルカメラで撮った写真の展示と、お忙しいですね。

森山:よせばいいのに、「銀座撮ろうか」って言っちゃったんだよね(笑)。3日くらい撮ってたらおもしろくなくなっちゃって。もうちょっとおもしろく撮れるかと思ったんだけどね。でも言った以上やらなきゃいけない。なんとかうまくいくといいんだけどね。やっぱり銀座は僕には似合わないのかな。銀座を歩いている人たちも、臭いが均一で撮りにくいんだよ。良くも悪くもいかがわしさがないんだよね。

渡辺:そして最後に、青山のラットホール・ギャラリーでは北海道の写真の展覧会。

森山:これは30年前に撮影した写真で、ずっと眠ってたもの。それをヒステリック・グラマーから本にしようという話があって、展示もすることになった。ちょうど30年前の78年、札幌にアパートを借りてうろうろしていた頃の写真で、99%は世に出ていないんだよね。それを大きな版で600 数十ページの本にして出します。もう30年前のものだから、どこか自分の作品じゃないみたいなんだけど、今となっては客観的に見ることができるから昔選べなかった写真を選んで、片っ端から伸ばして結局2000枚くらい伸ばした。そこから選んだ数百枚が、本になります。


■森山大道プロフィール

1938年大阪府生まれ。高校在学中から商業デザイン会社に勤め、後にフリ-の商業デザイナ-として独立。1960年、22歳の時に写真家・岩宮武二のスタジオに入り、翌61年に上京。細江英公の助手となる。また、この頃寺山修司とも出会っている。以後「カメラ毎日」や「アサヒグラフ」「アサヒカメラ」などで活躍。写真集、個展と活動を続けていく。自ら展覧会の企画やワークショップの設立に携わったり写真誌を創刊するなど、日本の現代写真の歴史に大きく影響を与えた人物。代表作に『日本劇場写真帖』(1968)、『狩人』、『写真よさようなら』(1972)、『光と影』(1982) 『サン・ルゥへの手紙』(1990)、 『Daido hysteric』シリーズ(1993~97)、『新宿』(2002)、『BUENOS AIRES』(2005)、『ハワイ』(2007)など。

【森山大道 展覧会情報】

「bye-bye polaroid バイバイ ポラロイド」
日時:2008年11月15日(土)-12月13日(土)
場所:タカ・イシイギャラリー(東京都江東区清澄1-3-2-5F)

森山大道写真展「S’」
日時:2008年12月3日(水)-12月28日(日)
森山大道写真展「銀座/デジタル」
日時:2009年1月7日(水)-2月1日(日)
場所:RING CUBE(東京都中央区銀座5-7-2三愛ドリームセンター8F/9F)

森山大道 写真展「Hokkaido 北海道」
日時:2009年12月19(金)-2009年2月8日(日)
※12/29 -1/7までは休廊となります。
場所:ラットホール・ギャラリー(東京都港区南青山5-5-3 B1F)


森山大道 サンパウロ、路上にて

『森山大道 「サンパウロ、路上にて」』
アップリンクより発売中

本人以外立入厳禁の暗室作業、撮影秘話を自ら語るロングインタビューなど貴重映像を収録。森山作品誕生のプロセスと彼の写真の創造の根元的精神に迫るドキュメンタリー

監督:渡辺聡
出演:森山大道
2008年/日本/本編60分
価格:3,990円(税込)
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【関連リンク】
森山大道オフィシャルサイト
東京都現代美術館『森山大道 ミゲル・リオ=ブランコ写真展 ~共鳴する静かな眼差し~』

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