骰子の眼

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東京都 渋谷区

2008-11-12 15:00


11/16(日)森山大道ゲストで登場!「革命的なことをいつもしている」森山大道をドキュメントした男たちが語るトークショーvol.2
本作を監督した渡辺聡氏(中央)と、『≒森山大道』を監督した藤井謙二郎氏(左)、『森山大道 in Paris ~カルティエ・ファウンデーションにて~』を監督した赤坂英人氏(右)

撮影の経緯

渡辺: まず今日、藤井監督と赤坂監督を招いているんですけれども、サンパウロの話からさせて頂きたいと思います。ちょうど今回の作品を手がける半年前にスペインで回顧展が開催されていて、初めて森山さんにお会いしたんですね。それで、一緒にセビリアの路上を歩く機会がありまして、森山さんがカメラを持って、撮影してたんですね。そのときに感覚的にシャッターを押していく、いわゆる匂いに導かれて歩くというところが映像的にも面白いなぁと思って。それで帰国後に今度サンパウロに行かれると仰っていたので、ドキュメンタリーとして撮影させて頂けるなら、というきっかけで始めました。ちょうど1年前の11月、延べ9日間行きました。

森山さんが仰ってたんですけど、サンパウロは東京のようにものすごく大きな街で、もっと密度も高くて広くて、それが第一印象としてあり、森山さんがこの街の中で何を撮ろうかと考えているときに「路上の人間達を撮ろう」という感じで撮影が始まったと思うんですね。僕はじゃあ、森山さんの切り口とか写真についてとか、森山大道とは?とか、そういうものを排除して、単純に路上の森山大道を撮りたいなって思って、撮りだしたのがこの映像なんですね。森山さんの言葉を借りたら“路上の記録”というものが出来たのかなと思います。

森山大道「サンパウロ、路上にて」
『森山大道「サンパウロ、路上にて」』より(写真:仲本剛)

森山大道をドキュメントした3人

渡辺: 大体4年ごとに森山さんの映像が出来ているのではないかと、先ほど打ち合わせの時に話していたのですが、最初に藤井さんが「≒森山大道」。このニアイコールシリーズは去年も草間弥生さんの作品が出ていますが、一番最初に森山大道さんを撮られたのは藤井さんですよね。

藤井: そうですね。元々はシリーズ化を考えていたわけではなくて、そのときは、とにかく森山さんを撮りたかったんです。

渡辺: 藤井さんはニアイコールシリーズで森山大道の何を撮ろうとされたんですか?

藤井: もう7,8年前になるんですけど、当時はまず森山さんの映像そのものを見られる機会があまりなかったんですね。撮影風景もそうですけど、実際にどんな風に喋るのかも良くわからない。 なのでとにかく自分も森山さんの映像を見てみたい、ドキュメンタリーを見てみたい、そういう単純な欲求から撮影に入ったんですね。そして同じようにただストレートに見たいと思っている人たちとそれらを共有できればいいと。ただ今は結構、森山さんの映像を眼にする場も増えてきたので、そういう状況の中で逆に渡辺さんはどういう風に撮られたんだろうと思いましたね。

渡辺: テレビ番組に出られたりとか、インタビューひとつにしても語りつくされてるっていうところから始まって。

藤井: 僕のときは本当にもうお宝映像みたいなもので、一挙一動見逃すまいと撮っていたんですが今回の渡辺さんの場合は、余裕というか、森山さんだけではなくてブラジルそのものをドキュメントされてる。渡辺さんがダイレクトに映したサンパウロの映像も多く、その辺りも面白かったです。

渡辺: 赤坂さんは2004年に『森山大道 in Paris ~カルティエ・ファウンデーションにて~』というタイトルでカルティエ現代美術館で非常に大きな展覧会があって、それのドキュメントという形ですよね。

赤坂: 元々僕は雑誌のライターなので、今同じ場所にみなさんといること自体、たいへん恐縮してしまいます。僕は映像にも興味があったし、森山さんの写真自体にも興味があったんです。たまたま、ある映像会社から森山さんの映像を撮る企画を相談されて、最初は僕に案内人的な立場を期待されていたようなんですけども、どうせやるんだったら、監督をやりたいなってことを、僕が森山さんに言ったんですね。そしたら森山さんが、それが一番いいよって言ってくれて。ただ、お二人のように映像の経験があったわけではないので、取材で面識のあった藤井さんに相談をしたんです。そうしたら「今はカメラがいいから撮れますよ」って言ってくれて(笑)最初は東京も含めて撮ってたんですが、そのうち森山さんとパリだけに絞ったほうが良いかもしれないという話になりまして。結構行き当たりばったりに、パリで撮ってたんですが、帰ってきてから編集して、何とかなるかなと。

森山大道の言葉

森山大道「サンパウロ、路上にて」

渡辺: 森山さんの言葉って非常に面白いですよね。写真がものすごく好きだったんですけど、実は本も好きで、『犬の記憶』とか何度も読んでるんですけども、60年代からずっと文章も書かれてる。それで巧みな言葉を使ってその世界観を表現されている。インタビューを撮っていると森山語録じゃないですけど、そういう言葉って面白いですよね。

『森山大道「サンパウロ、路上にて」』より(写真:仲本剛)

藤井: そうですね、凄く面白いところがありますね。ただしアーティストの方ってそうだと思うんですけども、理論武装されているところがあって、大体誰に対しても同じようなことを話すんですね。そうするとこちらのインタビューもどうしてもその焼増しになってしまう部分というのはあると思うんです。森山さんの場合も例外ではなく。ただそれはもう森山さんの曲がらないとこであるんだろうから、それそのものとして提示していくしかないと思うんですけども、時々いろんな、微妙に表現が変わってくる、単語の使い方が変わってくる。その辺が森山さんがまだまだ変化し続けていて、常に自分に問いかけているというかですね、その辺は赤坂さんに是非伺いたいところなんですが。

赤坂: 今、藤井さんが仰ったように、同じようなことを話されているけれど、微妙に言葉を変えてくる。つまり、アングルを変えてくる。「記憶」ってことで言うと、今年の春、森山さんにある取材をしていて、それは所謂「記憶」っていうか「記録」みたいな事ですよね?って聞くと、まぁそうとも言えるんだけどもさぁ、「記念」ていう言い方もあるじゃないって言われるんですね。それは、これまであまり使っていない言葉だと思いました。森山さんが、写真を「記憶」とか「記録」みたいな言葉で表現するのが当たり前みたいになっているけど、「記念」って言葉も僕は気になるんだよねって言われるんですよ。こっちとしては、その時から「記念」って言葉が凄く気になったんです。先ほど藤井さんが仰ったように、写真についての考え方も、言葉もいつも変化していってるんだなぁと思いますね。


森山大道「サンパウロ、路上にて」
『森山大道「サンパウロ、路上にて」』より(写真:仲本剛)

森山作品の魅力

渡辺: 赤坂さんに批評的な部分でお聞きしたいんですが、森山さんの作品はなぜこんなに世代を超えて凄く人気があるんでしょうか?

赤坂: 難しいですけど、ひとつは、森山さんはずっと写真のことを考えていて、写真はこういうもんだっていう定義があるのかもしれないけど、そうなの?っていう疑問がつねにある。昔の人も、今、クリエイティブな仕事している人も考えているわけですが、それについて、森山さん自身がかつて自分が言ったことでさえ、否定していく、変化させていく。ある意味では、革命的なことをいつもしていると思うんです。その思考の強さと、写真のインパクトに、僕たちは惹きつけられるんじゃないですかね。僕なんか、写真とか映像は素人ですけども、例えば、森山さんの写真がかつて「アレ・ブレ・ボケ」っていうふうに言われましたけど、今僕らが見ている視覚は、ある場所にはピントは合っているんだけども、僕らの視覚全体は、ピントが合っているところもあれば、ボケているところもあって、きちんと全体を認識してはいない。

つまり僕らの視覚自体が、この世界に対しては、つねに「アレ・ブレ・ボケ」だと思うんです。そう考えると、写真はピントが合っていなければいけないというのは、ある意味、一種の強迫観念的なことにも思えます。そうなっていった理由はあるんだけども、60年代に森山さんが、ほんとそうかよ?って思ったっていうのは、かなり正当なことで、彼のアプローチというのは、個人的なようでいて、非常に論理的で、本質的なことをずっとやっていると思うんですよ。僕は他の写真家の方を取材することも多いんですけど、森山さんは常にクエスチョンマークを投げかけてくる。それでいいわけ?っていうことを常に言ってくるっていう感じがあります。あれだけ言葉も変えてきて、写真も変わっていくというのは、常に考えていないと出来ないわけですよ。たいていの人は、これはこうですってひとつの結論を出しちゃったら、それをずっとやったりしますから。他にもクリエイティブな人はいっぱいいらっしゃるけども、やっぱり森山さんは特筆すべき人かなぁと思いますね。


藤井謙二郎 プロフィール

1968年東京生まれ。大学卒業後、早稲田大学大学院修士課程にて映像を専攻。2001年、初の長編『≒森山大道』(監督・撮影)が劇場公開となり、森山大道の実像に迫った異色ドキュメンタリーとして注目を浴びる。翌年、映画『アカルイミライ』の撮影現場に密着したドキュメンタリー『曖昧な未来、黒沢清』でTOKYO FILMEX 2002観客賞を受賞。2004年には彫刻家・舟越桂を浮き彫りにした『≒舟越桂』も公開。2005年、ピンク映画の世界を、丹念な取材と撮影で白日のもとに現したドキュメンタリー『ピンクリボン』が話題を呼んだ。2006年には武術研究者・甲野善紀を追ったドキュメンタリー『甲野善紀身体操作術』を撮影しアップリンクにてロングランヒットを記録している。

赤坂英人 プロフィール

1953年北海道生まれ。アートジャーナリスト。「Pen」(阪急コミュニケーションズ)、「アサヒカメラ」(朝日新聞出版)など、各誌において現代美術、写真の最新動向について企画、執筆を横断的に行っている。専門分野は現代写真。2004年にカルティエ現代美術館にて開催された森山大道の大規模な展覧会をドキュメントした『森山大道 in Paris ~カルティエ・ファウンデーションにて~』が話題を呼ぶ。2009年春から、「トリッパ―」(朝日新聞出版)で、森山大道とのコラボレーション作品(タイトル未定)の連載を予定。


■『森山大道 「サンパウロ、路上にて」』完成記念イベント

2008年11月16日(日) 18:30開場/19:00開演
ゲスト:森山大道(写真家)×渡辺聡監督

会場:アップリンク・ファクトリー
(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F)[地図を表示]
料金:1,800円(1ドリンク付)


森山大道 サンパウロ、路上にて

『森山大道 「サンパウロ、路上にて」』
2008年11月7日(金)アップリンクより発売

本人以外立入厳禁の暗室作業、撮影秘話を自ら語るロングインタビューなど貴重映像を収録。森山作品誕生のプロセスと彼の写真の創造の根元的精神に迫るドキュメンタリー

監督:渡辺聡
出演:森山大道
2008年/日本/本編60分
価格:3,990円(税込)
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【関連リンク】
森山大道オフィシャルサイト
東京都現代美術館『森山大道 ミゲル・リオ=ブランコ写真展 ~共鳴する静かな眼差し~』

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