骰子の眼

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東京都 渋谷区

2008-11-02 18:20


森山大道のプロフェッショナリズムに迫る。『森山大道 「サンパウロ、路上にて」』完成記念4日間限定上映会+トークショーvol.1
本作を監督した渡辺聡氏(左)と、写真評論家の飯沢耕太郎氏

ドキュメンタリー『森山大道 「サンパウロ、路上にて」』制作のきっかけ

飯沢:渡辺さんの森山さんとの出会いというのは、どのようなものだったのでしょうか?

渡辺:このサンパウロの企画の前に、テレビでスペインに森山さんと行くという企画があったのですが、それに付いて行ったとき初めてお会いしました。そのときは、ほとんどカメラをまわしていなかったのですが、森山さんと路上を一緒に歩いたときに、「やはり路上が一番おもしろいな」と思いました。街中にいるときとは違って、路上にいるときは目の色がガラっと変わるんです。これは路上でなにかひとつまとめたら、それだけでおもしろいな、と。そのあとサンパウロの話があったので同行を願い出たところ、「テレビのロケみたいな感じだと嫌だけど、君がちっちゃいカメラを持って付いてくるんだったらいいよ」と言われて撮影できることになりました。

森山大道1
『森山大道 「サンパウロ、路上にて」』より

飯沢:その前から森山さんの写真は気になっていたんですか?

渡辺:80年代からファンのレベルでは見ていましたが、ちゃんと意識し始めたのは、やはり90年代ですね。『ヒステリック』とか。

飯沢:『ヒステリック』というのは、ヒステリック・グラマーというアパレルメーカーから出した、1冊350ページくらいの巨大な写真集ですね。これである意味、森山さんの路上写真が出来上がったわけです。出来上がったといっても、そのあとまたいろいろ変わっていくので今回のサンパウロの写真もまた違うんですが、見え方として2番目の「群衆」に近いです。あれは気持ち悪いんだけど(笑)、今回は爽快に、すごく気持ちよく群衆が見えていますよね。サンパウロの空気感に、ちゃんと反応しているのだと思います。

サンパウロでの森山大道

森山大道2

飯沢:実際、映画を撮ってるときは結構大変だったんじゃないですか?

渡辺:正味9日間くらいだったのですが、なにか匂いのようなものを感じていらっしゃるのでしょうか、突然車を降りたりされるんですね。突然走り出して群衆の中にばっと入って行ったりとか、路地を急に曲がったりとか、そういう匂いを肌で感じていらっしゃるようでしたね。だから、ビデオカメラをまわしっぱなしにしていないと、追っかけきれなかったんです。止めていると、カメラを起動するまでにシャッターチャンスがが終わってしまう。そういう早さでしたね。


飯沢:おそらく全身がレーダーになっているんでしょうね。頭の上で撮っている写真も、森山さんには見えてるのでしょう。ノーファインダーだけど、全身に目があるからちゃんと見えてる。映画の中で、暗室作業でのコンタクトグリッドが見られる場面がありましたけど、あのコンタクトグリッド、無駄がないですよね。全部森山さんの写真になってる。暗室作業は何度かテレビなんかでやっているのですが、この映画では覆い焼きの踊るような暈し方がかなりちゃんと映っていたので、すごいなと思いました。僕も日大写真学科出身なので覆い焼きはやったことがあるんですが、暗くして明るくするとき、段階ができるんですね。下手な人がやるとくっきり出て、ランニングの日焼けみたいになってしまう。森山さんの写真を見てると、そのへんがものすごく滑らかなんです。ネガを見てるだけで結果が見えるらしいですね。普通、何度も何度も失敗してやり直して完成するんですが、本当に無駄がない。

森山大道の人間的な魅力

飯沢:この映画は路上と暗室とゴールデン街という黄金のトライアングルでできている映画なのですが、普段の森山さんっておもしろいですよね。

渡辺:すごく気を遣ってくださる方です。

飯沢:そうですね。森山さんって男性的なきっぱりした感じがありますけど、普段の森山さんはものすごく気を遣う方。細やかですし。だから、僕にとっての森山さんは女性的な感じがするんです。話していても丁寧ですし。90年代の始めに僕が編集長をやっていた『deja-vu』という雑誌があるんですが、森山さんにどうしても仕事をお願いしたくて緊張して行ったんですが、会うといろんなことをしゃべってくれました。

渡辺:好き嫌いとか、良い悪いとか、直感で判断されてますよね。感覚の方なんだと思います。

飯沢:非常に良識のある方でもありますよね。こちらがちゃんとしていれば、それに応えてくれる。それで森山ファンになっちゃう編集者も多いみたいです。反面、最近出たエッセイ集、『もうひとつの国へ』では自分が持っているイデオロギーとは何かと考えたときに、恋愛至上主義だと書いてあったんですね。普段はそういうことは絶対言わないのに。すごくおもしろかった。この映画を見るとすごくかっこよく見えるんだけど、そういう魅力的でおもしろい一面もあるんだよね。

森山大道の展示に対する姿勢

森山大道3

渡辺:映画の撮影中、森山さんはずっと壁面の構成を考えていらっしゃいましたね。一枚ずつの写真を撮るというよりは、すべて並んだときのイメージを想像されていたようです。

飯沢:90年代くらいまでは、森山さんは写真集絶対主義だったから展示に興味がなかったんですが、やってみて展示のおもしろさに気がついたみたいです。以前、「展示はショーだ」と仰ってました。会場の雰囲気と自分の写真がどう見えるか、というのをすごく考えていらっしゃるそうです。だから今回は、60点を隙間なく並べるというアイデアを頭において撮っていらっしゃったんでしょうね。僕はこれまでいろんな展示をさんざん見てきましたが、森山さんの2003年のカルティエの展示はベスト1でした。すごかったです。かなり大きな写真が並んでいるんですが、その並び方や緊張感はすごいものでした。やはりグラフィックデザインの経験から来ている構成力は抜群なのだと思います。


これからの日本の写真家について

飯沢:森山さんの年を聞いてびっくりするんですが、1938年生まれだから今70歳なんですよね。1938年から1940年くらいまでに、日本のすごい写真家が固まっています。篠山紀信が1940年、荒木経惟も1940年。その世代が今、60歳後半になっていて、そろそろ次の世代が出て来てほしいと思います。この世代は固まり感があるのですが、なかなかそういった固まり感がないんですよね。おもしろい人はいるんですが。

渡辺:写真を基本媒体にしたアーティストはいると思うのですが、写真家となるとあまりいませんよね。

飯沢:写真家はアイデアとかコンセプトとかをゼロにすることができる。カメラだけ持って行って、なにかと出会い、その出会いを記録する。アーティストはアイデアやコンセプトをまず固めるんです。それでカメラを表現の手段として使う。そこにアーティストと写真家の大きな違いがあると思います。だから、森山さんのような撮り方ができるかできないか、ということに写真家の可能性があるんだと思います。それを常に見届けていたいですね。


■飯沢耕太郎PROFILE

1954年宮城県生まれ。写真評論家。1977年日本大学芸術学部写真学科卒業。1984年筑波大学大学院芸術学研究科博士課程修了。フリーの写真評論家として活動中。『写真美術館へようこそ』(講談社現代新書)でサントリー学芸賞、『「芸術写真」とその時代』(筑摩書房)で日本写真協会年度賞受賞。写真評論のほか、絵本、旅のエッセイなど著書多数。東京綜合写真専門学校非常勤講師、東京大学教養学部非常勤講師を務める傍ら、キノコ切手の蒐集家としても知られ、著書に『世界のキノコ切手』がある。


『森山大道 「サンパウロ、路上にて」』完成記念イベント

■11月16日(日) 18:30開場/19:00開演
ゲスト:森山大道(写真家)×渡辺聡監督

会場:アップリンク・ファクトリー
(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F)[地図を表示]
料金:各日1,800円(1ドリンク付)


森山大道 サンパウロ、路上にて

『森山大道 「サンパウロ、路上にて」』
2008年11月7日(金)アップリンクより発売

本人以外立入厳禁の暗室作業、撮影秘話を自ら語るロングインタビューなど貴重映像を収録。森山作品誕生のプロセスと彼の写真の創造の根元的精神に迫るドキュメンタリー

監督:渡辺聡
出演:森山大道
2008年/日本/本編60分
価格:3,990円(税込)
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【関連リンク】
森山大道オフィシャルサイト
東京都現代美術館『森山大道 ミゲル・リオ=ブランコ写真展 ~共鳴する静かな眼差し~』

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