ブラジルのファヴェーラが産み出した音楽、バイレファンキのスーパースター、ミスター・カトラに密着したドキュメンタリー『ミスター・カトラ キング・オブ・バイレファンキ』のDVDが11月7日（金）、アップリンクより発売される。これを記念して、10月19日（日）アップリンク・ファクトリーでトークショーが行われた。
出演者は、ローリング・ストーン誌の取材で実際にファヴェーラを訪れ、カトラにも会った事があるDUNE編集長の林文浩さん、ファヴェーラのファンキパーティーでシャッターを切った写真家の石田昌隆さん、そして司会に、かねてよりバイレファンキに興味があったという荏開津広さんの3名。
映画『ミスター・カトラ キング・オブ・バイレファンキ』について
まず最初に、荏開津さんから映画の感想を聞かれた林さんが「『シティ・オブ・ゴッド』とかファヴェーラを舞台にした作品は色々あるが、この映画に描かれている空気が、俺の実際に見たファヴェーラに一番近い」と述べた。
一方、元々ファンキという音楽に対する興味からファヴェーラを訪れた石田さんは、音楽的な面からこの映画を評価する。「今、YouTubeでバイレファンキを検索すると、色々出てくることは出てくるんだけど、それは皆、洗練されたポップなものばかり。そんな中で、こういう荒々しいファンキの映像、本物がついに出たなという感じです」
伝説のバイレファンキ・ミュージシャン“ミスター・カトラ”。バイレファンキとは、ヒップホップ、エレクトロ、サンバ、などが入り混じった、ブラジル、リオ・デ・ジャネイロのファベーラと呼ばれるスラム街発の音楽である
ブラジルの魅力
「体力的にも距離的にも大変そうなので、僕はまだ行ったことがないんです」という荏開津さんは、これまで何度もブラジルを訪れている林さんに、ブラジルの魅力を伺う。林さんは、小学生の頃から憧れていたというほどの筋金入りのブラジル好き。「ブラジルは色んなものが交じり合っているところが面白い。渋谷くらいの狭い地域の中に、富裕層の暮らす地域と、ゲットー（貧民街）が入り混じっている。その多様性が魅力」
それに対して石田さんは、「ブラジルほど人種が多様な所は他に無い。黒人でも色の濃い人から薄い人まで本当に様々。黒人と白人が結婚するのも当たり前だし、そんな国は滅多にない」と述べた。
林さんの話によると、一般には白人文化と思われているサーフィンやスケートも、ブラジルでは当たり前のように黒人がやっているそうだ。
リオデジャネイロのスラム街、ファヴェーラ
映画「ミスター・カトラ」にも描かれているように、ファヴェーラは麻薬組織（トラフィカンチ）によって支配されており、外部の人間が入るのは非常に危険な場所である。それでは、林さんはどのようにして入ったのだろう。
「スケーターやグラフィティ・ライターのネットワークを使ったんだ。ファヴェーラの中にはスケートランプがあったり、グラフィティもたくさんあるので、彼らは中のことに詳しい」
ガイドの重要性については、石田さんも力説する。「本当にファヴェーラの中を見たいなら、とにかくいいガイドを探すこと。ダメなガイドは、ファヴェーラの中でも顔が利かないから、案内出来る範囲が狭い。ガイドが大物になればなるほど、その行動範囲は広くなる」。ちなみに石田さん、この日、シャツの下にファヴェーラのお土産Tシャツを着ていた。観光客向けに、ファヴェーラの安全なところだけを案内するツアーというものが存在するそう。
ファヴェーラに関わらず、危険な場所に行く際に必要なことは、「多すぎず、少なすぎない額のお金」と石田さんは続ける。「絶対、お金を使わないわけにはいかないし、しかし多すぎてはいけない」。林さんも、これに同意して、「とにかく我々は、向こうからしたらカモなんだから、そのことを自覚しないと」
ファヴェーラで行われるファンキパーティーにはキッズたちも熱狂的に踊っている
裕福な子供時代を過ごしたカトラ
実際にカトラに会ったことのある林さんにカトラの印象について聞くと、「映画では描かれていないけど、彼は割と裕福な子供時代を送っているんだ。ファヴェーラの女性は、大抵ホテルのメイドとか、金持ちの家の手伝いとかをして働いている。金持ちがそういうメイドなんかに手をつけることもよくあるそうで、カトラもそんな風に生まれた一人。大学生の頃までは父親の援助があったから、いい暮らしをしていた。援助を打ち切られたため、カトラは別の道を行くわけだけど、だからカトラは富裕層の生活もある程度知っているんだ。頭の回転も速いし、ファヴェーラの外の金持ちから、犯罪組織の人間まで、どんな人とも話ができる。そこがすごい魅力だと思った」
林さんは、この時の取材で一晩カトラに密着してその人気振りを間近で見たそうだが、小学生の子供たちまでが、カトラの卑猥な歌に合わせて熱狂的に踊っているのを見て、感心したり驚いたりしたそうだ。
本物の音楽
最後に石田さんは、「バイレファンキは、土地と密着している音楽だから、実際に現地へ行かないと本当の面白さは分からないかもしれない。このDVDに写し撮られているのは、ほんの上澄みかもしれない。ただし、例え上澄みであっても、その奥にもっと深く、広い世界があると言うことを感じさせる、それは大変すごいことだと思うし、是非皆さんにも見ていただきたい」と、本作の魅力を語った。
DVD『ミスター・カトラ キング・オブ・バイレファンキ』
2008年11月7日(金)アップリンクより発売
『シティ・オブ・ゴッド』『シティ・オブ・メン』の舞台となったブラジル、リオ・デ・ジャネイロのスラム街ファベーラに君臨するバイレファンキの帝王ミスター・カトラを追いかけた衝撃の音楽ドキュメンタリー。
監督：アンドレアス・ジョンセン（『インサイド/アウトサイド』）
出演：ミスター・カトラ、他
2004年/本編60分
価格：3,990円（税込）
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