ミュージシャンは、売れれば尊敬されるが、鳴かず飛ばずだと、社会からドロップ・アウトした者だと見なされてしまう。
この物語も、そんな男ルーウィンの話だ。やることなすこと冴えないし、そのすべてが裏目に出てしまう。女友達に「妊娠した」と言われれば、反論もできない。住所不定で、知り合いの家を転々とする毎日。もちろん、そんな彼に対する周囲の目は冷ややかだ。
それでも、ギターも歌も捨てない。グリニッジ・ヴィレッジのうらぶれた路地裏の小さなライヴハウスで、細々と歌い続けている。同期のミュージシャンが注目されていくなか、自分だけがおいてきぼりにされているような感覚を覚えても、この男は、心のどこかでは、自分の歌が一番だと思っている。
彼の煮え切らなさと、これぞフォーク・ソング!といえる歌が生まれてきそうな気配が、もやのようになって、このスクリーンを包んでいるけれど
物語の最後には、そのどっちつかずの状態が破られる。歌に対する、そして音楽に対する愛情と信念を、彼自身が見せるからだ。
折しもその夜は、フォークのブームを巻き起こすことになる、ボブ・ディランが彼と同じライブハウスで歌っていた。
同じところをぐるぐる回っているだけでも、時代の変化というのは確実に訪れるものだし、それに乗れるか乗れないかが、運命の分かれ道ともいえる。
ルーウィンの劇中での演奏はすべて、この役に扮するオスカー・アイザックによるもの。
そして、『華麗なるギヤツビー』でのデイジー役が記憶に新しい、キャリー・マリガンが友人役を好演している。
また、ルーウィンがギターと一緒に抱えて歩く、猫からも目が離せない。猫とは思えない名演技に拍手を送りたい。気ままに見えて、芯がしっかりとしている。
「名もなき男の歌」は、実はその名前以上だったし、音楽に対する愛情は、売れる売れないを超えていた。
インサイド・ルーウィン・ディヴィス 名もなき男の歌 公式サイト
http://www.insidellewyndavis.jp/