かつて栄華を誇ったヨーロッパ最高峰のホテルを舞台に繰り広げられる、サスペンスコメディ。
伝説のコンシェルジュ“グスタヴ・H”と愛弟子のベルボーイのゼロが、その謎を解いていくのだが、
何といっても、目を惹きつけてやまないのは、四角いフレームの中に彩られる、さまざまな色たち。オレンジ、ブルー、赤、ピンク、ブラック、スノーホワイトと、観ているだけでも、心が躍る。
そして、画面の前に後ろに、上に下に動く登場人物たち。廊下、ドア、窓、エレベーター、物語の鍵となる名画と、四角い箱やフレームをふんだんに使い、その画面の中は、活気にあふれている。
ときに、列車や、クラシックカー、自転車、バイクといった乗り物が右に左にと画面を横切って、物語に不思議なテンポとリズムを生み出す。
しゃれたセリフもときにはあるけれど、それがなくても、とにかくこういった移動が、笑いをさそう。凝ったアングルで撮られたシーンはまったくなく、それがとても新鮮だ。
この四角四面な感じは、この映画の要であるコンシェルジュ、グスタヴ・Hの人柄や几帳面さ、折り目正しさにぴったり重なる。高級ホテルならではのおもてなし感とも重なる。
彼は、どんな事件に巻き込まれようと、その姿勢を変えない。大戦の足音が聞えてきて、あらぬ疑いをかけられても、銃声が飛び交っても、いつもエレガントだ。脱獄した後は、愛用のフレグランス「ル・パナシュ」の香りを欲しがったりと、それがまた、おかしさを誘う。
愛弟子のゼロは、苦しい過去を背負いながらも、憧れのホテルで働けることに誇りをもっているし、グスタヴと行動を共にするうちに、立場をこえた友情を築く・・・でも、それを絆とは思っていない。「彼とは同じ仕事をした。それだけで十分だ」と後々さらりと語ったりと、それもまた新鮮だ。
ホテル好きには、内装やインテリアに目が行くだろうし、ファッション好きなら、伯爵夫人のドレスから、ホテルマンのユニフォーム、大尉のコート、囚人服、秘密結社の謎の男のジャンパーに至るまで目が離せないだろう。
ホテルの、お屋敷の厨房から漂う湯気からは、美味しそうな匂いが漂ってきて、料理好きにもたまらないはず。
また、物語のもうひとつの見どころといえるのが、パティストリー、メンドルの色とりどりのスイーツたちだ。お菓子好きでも、そうでなくても誰もが引き込まれてしまうに違いない。
http://youtu.be/whq3UUUFjIo
と、この作品はどんな人でも楽しめるし、どんな切り口からでも語れる。
とにかく、飛び出す絵本のようでもあるし、舞台を観ているようでもある。
6月6日、雨の夜、日比谷シャンテを出ると、
看板、ネオン、高架下に並ぶ店、その上を走る電車が、不思議な四角に見えて驚いた。
グランド・ブダペスト・ホテル公式サイト
http://www.foxmovies.jp/gbh/