最初に断っておきますと、私自身アスペルガー症候群のボーダーライン(特性は一部重なるが、確定診断はつかない程度)のような所があり、アスペルガーの特性は関連書籍で学習済みです。その上で本作品を見ると、シモンはそのような書籍に記載がある特性を全部揃えているので、「あぁこんな症状本にあったなぁ」と復習になるような感じがありました。
本作品は、純粋にコメディとしては上出来でした。主人公がドラム缶の宇宙船に入っている最初のシーンから笑わされました。アスペルガーの特性がかなり誇張されているので、主人公のルールに振り回される周りのドタバタは、実際にはここまではあり得ないだろう、と思うくらいでした。全ての行動を分刻みのスケジュールで管理し、周りの人にもそのスケジュールの厳格な遵守を要求する様に、テレビ番組「Oh!マイキー」のタイム君を思い出しました。
最近は映画を見ても集中力が途中で切れてしまうことが多かったのですが、この映画は時間が短め(86分)なのもあるでしょうが、ハプニングが次々起こり、珍しく最後まで全く意識が逸れずに食い入るように観て、「え!もうこれで終わり?!」と思ってしまうくらいでした。
ただ、大いに笑って観終わってから、心に引っかかった点が3つありました。
1つは、アスペルガーについて勉強したことがない定型発達(発達障害がない)の方がこの映画を見ると、シモンのイメージがアスペルガー患者の典型として植え付けられてしまうのではないか、ということです。特性の出方は完全に人それぞれであり、程度も様々。シモンのように、教科書的文献に載っている特性を全部、誰の目にも非常に解り安い程度で兼ね備えた人はおそらくいないでしょう。実際に本作品の脚本家も、アスペルガーの人々のために特別上映を行ったところ、9割程度の人達は、彼のキャラクターはアスペルガーの特徴と社会における障壁をよく捉えているとは認めるものの、シモンとそっくりな人はいなかったようで、シモンは少し大げさだという反応もあったようです。アスペルガーの人全員がシモンの持つ特性を全て持っているわけではなく、従って接し方にも全員に共通のマニュアルはなく、個々人の特性の出方を見る必要がある、ということがこの映画だと全く伝わらないと思います。それぞれ違った特性を持っているアスペルガーの人々が出てくる映画があれば良いと思いました。
2つ目は、アスペルガーを「性格」「個性」ではなく、日本のように(発達)「障害」として捉える場合、このように笑いものにして良いものか、疑問が残りました。定型発達の人の目には奇異に写っても、本人は馬鹿馬鹿しいとは思わず大真面目にやっているので、この映画をきっかけに、アスペルガーの子供の行動が笑いの種になるようなことがあったら、本人は傷つくのではないかと思いました。
3つ目は、タイトルの「シンプル」は英語で「知能指数が低い」という意味なのでどうもふさわしくない気がしました。「シンプル・シモン」は英題をカタカナにしたものなのでしょうか?
それでも、アスペルガーの人を主人公にした映画を撮るという、おそらく世界初の試みはもちろん賞賛に値すべきです。それに、自閉症者は、天才的な能力があり、それを活かした仕事をしているようなイメージで語られることが多い気がしますが、シモンはそれには当てはまらない(物理に明るくても清掃の仕事をしている)という点も、より大多数のアスペルガー患者の現実に近い描き方で評価すべきだと思いました。