原題は"Parked"。失業、ドラッグ、家庭破綻、パートナーの死など誰にでも起こりえる人生の蹉跌は誰にでも起こりえる。自動車を駐車場に留める如く、動いていた人生が留まらざるを得ない状況下で、社会の片隅に追いやられた市井の人が、チャージし、再びギアを入れてスタートする過程をカメラが追う。といっても決して明るい未来が待っている訳ではない。内面を見つめて変化し人生を乗り越えていくことで、その人の人生がより深みを持つ。どんな生き方も肯定的にとらえることができ、どんな人にも愛が生まれることを知るだけでもこの作品の価値はある。
主人公はコルム・ミーニー演じるフレッド・デイリー。
英国で働いてきたが、失業してダブリンへ帰ってきた。
父の住む家は人手に渡り、住むところがない。自動車を海岸の駐車場に留めて、その中で暮らす車上生活となる。
英国で失業保険を払ってきた真面目な人間なのに、ダブリンでは定住していないと福祉の対象にならないらしい。福祉局に却下される。
どこにでもある、人生の躓き。
車上生活でも、毎朝起きて歯を磨き、植木鉢に水をやることは欠かさないフレッド。
初老に手が届く年齢になってからの仕事がないことの辛さ、住むところがないことの辛さ、そして家族がいないことの辛さは身に染みる。
そんなフレッドと21才のカハルの出会い。カハルのおかげで内気なフレッドにチャレンジする意欲が沸き、ストーリーは展開する。
コリン・モーガン演じるカハルはもうひとりの主人公。
学校を卒業、就職という路線からはずれたヘロイン中毒のホームレスの21才。
崩れてしまった父子関係。父親は、カハルの母親は彼を心配して癌で亡くなったのだと言い放ち、カハルを見捨てた。
父親の気持ちも理解できる。ドラッグから抜け出せないカハルの弱さも分かる。
ただ、たった600ユーロの借金を返すことが出来ず、リンチに合うカハルを見ると、その状況から抜け出せる方法はあるのではないか、と胸をかきむしられる。
父親はきっと自責の念に駆られるはず。
監督のリアルな演出が心を刺す。
社会の片隅で真面目に生きてきた人が社会状況で社会から見放されたとき、ドロップアウトの若者が家族から疎外されたとき、彼らを救う道はあるのかと問いかける。
人々を救えない柔軟性のない福祉制度を批判する。
リアルなだけに感動する作品。