『マイク・ミルズのうつの話』は、【生き辛さ】を【うつ】と呼び、その器の中で、自分らしく生きる人々の日常を綴った映画である。
製薬会社は優しくささやきかける。
体が風邪をひくように、心も風邪をひくんだよ、と。
だからもう我慢することはない、と手を差し伸べる。
風邪の原因はウイルス。
じゃあ、うつの原因は何?
本作にその答えはない。
うつ発症のメカニズムが、未だ解明しきれていない現在、それは当然だ。
原因がわからない、ということは、その治療薬は根治をゴールとしていないのもまた明白である。
ということは?製薬会社の陰謀?
その答えもここにはない。
あるのは、心の風邪をひいてませんか?にイエスと答えた日本人の中から、マイク・ミルズの呼びかけに応じた人々の観察である。
登場人物は5人。
都内在住の抗うつ剤服用者。
衣食住に困ることもなく、コミュニティーもあり、好きなものに囲まれていても、彼らは病んでいると言い、毎日毎日薬を飲むのだ。
良くなりたいというよりは、心配かけたくないから飲んでいるように、わたしには見えた。
このはっきりしない感じ、これって、日本的だな、って思う。
というわけで、うつ患者の観察という斬新な視点から、日本人を知ってみたい人にもお薦めしたい映画である。