映画のなかに時々、試写会場のある渋谷の街が映し出される。
それはひたすら人の多い、どこか無表情なグレーな街に見えた。
でも個人的に久しぶりに訪れた渋谷は、秋になりたての空気のなかを、様々な人が行き交う生き生きした街、と感じられたので、まずそのことに軽い違和感を抱いた。
映画は、「うつ」と診断された東京在住の5人の若者の生活を、彼らへのインタビューを中心に綴られている。
登場人物たちは「薬」を毎日服用している。なかには山のように服用されている方もいる。現在封切られている『サイド・エフェクト』というアメリカ映画も「薬」に纏わる事件を扱っているらしいけれど、本来人を救うための助けとなるべき薬が、商業主義の手先になりつつあることを憂慮される表現者はいま少なくないのかも知れない。
でも一番印象的だったのは、映し出される彼らの住まいの狭さだった。
そこでぺットの犬や猫や、沢山の本を並べた棚や、ゴミの散らばった部屋の片隅でひっそりと育てているサボテンたちと暮らしている登場人物たち。
かくいう私の住まいも彼らと似たり寄ったりだけれど、そのことに特に抵抗は感じていない。『日本人はウサギ小屋に住んでいる』とかつて言われた言葉をふと思い出した。
もし日本人監督がアメリカ在住の「うつ」と診断された人々を撮ったら、どんなフィルムが出来るのか、彼らの住まいはどんな風に映しだされるのか、観てみたい、と思った。
試写が終わって、表へ出て歩いた街は、来た道と違ってどこか沈んで見えてしまって、ちょっとだけがっかりした帰り道でした。
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