社会的弱者にスポットを当てるのを得意とする監督小林政広が今回挑んだのが「高齢化社会」の歪み。そして今回も予算の関係からか。出演者4人と云う超ミニマム・プロダクション。これまでの小林作品と比べて、分かり易い映画ではあった。とにかく”不幸”を撮らせたら小林の右に出る者はいないだろう。今回のタイトルを聞いた瞬間、「!」と苦笑したくらいだ。
ガンで余命幾ばくもない父親(仲代)は死を決意するも、気掛かりなのは精神を病んで失業中の40代の息子(北村一輝)で、彼の再出発のためにもカネを残すべく自身は自室にこもって餓死し、死亡届を役所に提出せずに年金を受給させるという愚策に出る。昭和の一軒家という閉鎖空間を舞台に、愚挙に出た父親と、倦ねる息子の葛藤が痛々しくも笑えてしまう。
脚本の基となった2010年に東京足立区で起きた“111歳男性”の死亡届が提出されず、娘(当時81歳)と孫(同53歳)が年金を不正受給で逮捕された事を発端に、同類の事件が全国で多数発覚した事が切っ掛けだったと説明する。
どう見ても若年層のデート映画ではないが、”終活”してる高齢者には話のネタにとっておきのトピックと思う。しかしこれに似たシチュエーションは現代の日本で普通に毎日起っている事で、映画の為に書き下ろされた特別な設定なわけではないのが、日本人として悲しくも、ブラックコメディとして楽しんだ自分を自戒してしまった。
関係ないが、本作と同監督の「バッシング」「春との旅」「ワカラナイ」「ギリギリの女たち」等を「悲劇ボックス」としてDVD化して欲しいモノだ。