モンサンミシェルとオクラホマという二つの舞台を交錯しながら描かれる一組のカップルを中心とした愛の物語は、テレンス・マリックが描く映像と音楽だけでほぼ完成しているといっても過言ではない。見終えると台詞らしい台詞がほとんどなくとも、見ているこちらまで感情が抉られているような気分になるのだ。
映画のなかで繰り広げられる男女の愛の姿は、飛び込んでくる映像の美しさと相反して、とても残酷で儚い。
「愛があれば他に何もいらない」というマリーナに対し、ニールは徐々に疲弊していき、別の愛を求めていく。教会の神父は救いのために布教をしているにもかかわらず、自身もまたキリストの姿を求め、苦悩している。しかし、苦悩しているのは神父だけではない。ニールもマリーナも、ニールと再会したジェーンもまた、求める愛に、受け止める愛に苦悩している。その姿は、見ている側をも苦しい思いに陥らせる。
テレンス・マリックはそれぞれの感情の軋みを、掘削の音、水の流れ、風のざわめきなどのあらゆる音と、マジック・アワーに集中して撮影されたというこだわりが見事に反映された圧倒的な映像美で表現し、肝心の言い争いの音などは映画のなかでほとんど響かないように演出している。そこに、映画の美しさを損なわずして感情の揺らぎや苦しみを伝えるすごさを感じた。
監督デビューから40年というキャリアのなかで、わずか6本の映画しか残していないテレンス・マリック。
しかし、作り上げた作品どれひとつとして揺るぎない力を持っている希有な例だと思う。
本作品もまた、一見して難解な作品だ。見終わってこちらが混乱する。それでも、混乱すら受け止めていたいような「何か」が存在していると思わずにはいられない。劇場のスクリーンの前で、ぜひ圧倒されて欲しい。