ガツンときた作品、という意味では、昨年の個人的ナンバー1である吉田修一「悪人」にも匹敵するであろう、この作品。
『「陽気なポチョムキンでええす。どなたか暇な方、五千円でよろしく」などと無駄に元気に言って、そこそこのさめた笑いをとりたい』なんて思ってしまう、どうにも周囲から浮きがちな主人公、堀貝。いわゆる一般的な女性として振る舞うことができない彼女の言動は、どうにもいびつで痛々しい。ちなみに「ポチョムキン」というのは、22歳にしていまだ処女である自身を表す「何か名乗りやすい」呼び名。ほかの候補は「不良在庫」「劣等品種」などだから、名乗りやすくも自嘲的な目を自分に向けていることが察せられる。そんな歪んだ彼女だが、いたって淡々と日常を生きている。
世間にソツなく溶け込み、スルスルと日々を送る友人・知人たちも、実は心のどこかにいびつな怪物を抱えている。そして、時にそれは思いもしない方向に暴走する。そんな日常と非日常の狭間を、堀貝の語りは淡々と、しかしヴィヴィッドに描き出していく。
やがて、人の心の暴力性に敏感に反応し、そんな自分の衝動を自覚し、その衝動のままに行動する堀貝。いかにも凄絶な顛末を、あくまで日常の延長として描く津村の筆致は、劇的ではないだけに凄みがある。特に、終盤に出てくる、作品タイトルにもなった「君は永遠にそいつらより若い」というフレーズには、心臓を鷲掴みにされた思いだ。
日常に内在する暴力と、それに対するあくなき抵抗を描いた本作。見えない境界を踏み越えてしまいかねない恐ろしさを、まざまざと見せつけられた。