またひとつ、大好きな本が増えた。
高校時代の吹奏楽部を舞台に回想される“あの頃”と、その彼らが数十年ぶりに再結成を果たそうとする過程を描く、その名も『ブラバン』。作者の過去の作品に倣い、ファンタジー系の棚に並べられていたが、れっきとした青春小説である。
が、いわゆる“あの頃”をただ懐かしみ慈しむそこらの懐古小説とは違う。この作品を覆うのは、もっと生々しい苦さなのだ。
元部員たちのその後の人生は、まさに悲喜交々。それを一定の距離感を保ちつつ、冷静に、客観的に見守り、慎重に行動を起こす本作における語りべ・他片の視線は、厳しくも温かい。その語り口に、グッときてしまうのだ。
ストーリー的には、さして目新しいものはない。でも、例えば「同窓会」にありがちな、当時の人間関係の凸凹や緊張感をいともたやすく無かったことにしてしまう、懐かしさの名を借りた気味の悪さをまったく感じさせないのは天晴れである。
親友だからといって、すべてを話せるわけではない。読者だからといって、小説の世界で起こるすべてを読めるわけではない。そんな、語るべきこと/語らないこと、の境界が、この作品には明確に存在する。その折り目正しいスタンスが、限りなく心地よい。だから、決して甘酸っぱくも爽やかでもないこの青春小説が、結果的にすがすがしい読後感を残すのだろう。