実は私、テレンス・マリックという監督を知らなかった。知らなかったというか、『ツリー・オブ・ライフ』を観て感銘を受けたのだけれど、テレンス・マリックという監督名は記憶していなかった。
今回『トゥ・ザ・ワンダー』の試写を観れるということで、『天国の日々』と『シン・レッド・ライン』をDVDで観てから試写に行った。
マリック印とも言えるモノローグ、連なる断片的なショット、その美しさ、マリックの作品はあらゆる映画作品に類を見ない特異な存在であると感じた。とにかく映像は美しく、これは大きなスクリーンで(そんなに大きくなくてもいいけど家でDVDをテレビの画面で観るなんてことはしない方がいい)体験するべき。
エマニュエル・ルベツキによるゆっくりと動き続けるキャメラ、そしてその映像の自然の音を聞いていると、なぜか懐かしいようなそんな気がしてしまう。なんだか懐かしい、まるでそこに自分が存在しているような感じ。この作品でもほとんどのシーンが“マジックアワー”に撮影されたらしいが、ちょっと検索してみたら過去の作品でもどうやら“マジックアワー”に撮影するということが多かったようだ。とても贅沢な撮影でもあるし、それの成果は確実にあるように思う。
一つ一つのショットは決して長くないのだがそれは動き続け、断片的で、時間は流れていく。
俳優から即興的に芝居を引き出すマリックの演出法によって作られるシーンの数々は、台詞は少なくそこでは言葉は必要ない。例えば他の映画作品でストーリーを追う面白さがあるのなら、マリックの作品はそれらとは全く違う次元にあるといっていい。
即興的な芝居の連なり、これはたいそう編集が大変なのだろうと想像してしまう。プレス資料によると、『天国の日々』では編集に2年をかけ、『シン・レッド・ライン』では7カ月に及ぶ編集で約6時間のオリジナルカットに、その後6カ月かけ135分のファイナルカットを完成させたという。そして『トゥ・ザ・ワンダー』では複数のエディターが編集に関わりポストプロダクションに1年以上をかけ完成させた。ということも驚いてしまうが、ベン・アフレック演じるニールの親友役を演じたレイチェル・ワイズのシーンが全てカットされてしまった(!)という。レイチェル・ワイズ、この作品の世界にピッタリだと思うだけに残念だ。
オルガ・キュリレンコといえば、個人的には小川洋子原作の『薬指の標本』を思い出す。本作では笑顔でいたかと思えば、急に不機嫌になったりと台詞が少ないだけあり表情で見せる芝居がとても印象的だ。そしてハビエル・バルデムの神父役!!!
『天国の日々』が評価されながらもその後20年間映画から遠ざかっていたテレンス・マリックは謎の人物、というか変人なんじゃないかと思う。そのマリックが現在公開待機中(ホスプロ中)の作品が『トゥ・ザ・ワンダー』以外に3作品あるということは驚きだがそれらの作品もとても楽しみだ。やはりDVDで観るし~と思わず映画館で観るべき、と思う。