なかなか印象に残る“ポドリ”のキャラクターに惹かれ“シュバンクマイエルに影響を受けた実写とストップモーションを融合したスタイル”なんて惹句にノセられてノコノコ出かけると、初っぱなからシットコム風パロディを装った濃厚な政治劇が先制パンチ。まず観せられるのは家族団らんの夕食の場。やがて娘と父の李明博政権の実像を巡り、激しくののしり合う。ここで日本で暮らしている限りまず感じる事の出来ない韓国人から見た李明博像が観客の脳内に浮かび上がる仕組みだ。
“李明博”を“安倍ちゃん”、“四大河川再生事業”を“アペノミクス”、“蝋燭デモ”を“反原発デモ”と置き換えれば何とか雰囲気だけでも伝わるだろうか? 要は“水興火亡”。大規模な河川再生事業で名声を確立し大統領に昇りつめたかの大統領は、就任直後に“南大門の焼失”に見舞われ“蝋燭デモ”への弾圧でその権威を失墜させる。つまりは李明博は水に依って興り、火に因って亡びる。この前提が本編たる“ボドリくん”の物語を楽しむ必須なのだ(でも緑の字幕は目に優しくない)。
プロローグの後には何と別の映画の予告編(見てのお楽しみ)。それからやっと始まった本編はデジタル映像なのにフィルム傷と染みでボロンボロン。妙に色あせた映像にニュース映像や新聞記事がスクラップされて、オバマや李明博、金父子の姿が目まぐるしく現れて消えていく。まるで2050年の未来に飛んで、復元された2013年のフィルムを見ている奇妙な感じ。そしてカメラはとあるアパートの一室に入り込み、そこでニートよろしく鬱屈している“ポドリくん”の奇妙な日常に入り込む。そこは何と言うか…驚きに満ちた世界だ! ストップモーションとは名ばかりの吊りメーションでぶん回されるポドリくん(釣り竿がしっかり映っている)のスンゴいアクションに瞠目する。“ポドリくん”の恐怖の隣人の恐るべき正体と、その映像化に成功した恐るべき映像技術に戦慄する。“ブートキャンプ”なんて言葉を数年ぶりに思い出す。“ポドリくん”の“very good!”連発に段々イライラする。物語の着地点を見失い“ポドリくん”と一緒に途方に暮れる。ムチャクチャでしょ? でもそれがいい。『シュリ』以前はもっとカオスで政治的にもヤバかった韓国映画。『旅人は休まない』を憶えているか? 『ホワイトバッジ』を観たか。『ポドリ君の家族残酷史X -韓国の夜と霧-』はその片鱗が今も生きている事を教えてくれる(でもやっぱり緑の字幕は目に優しくない。慣れれば大丈夫だけど)。