2013-05-27

王家衛がカンフーを撮ったらこうなった、スタイリッシュな映像:『グランド・マスター』クロスレビュー このエントリーを含むはてなブックマーク 

海外へ行くと、アジア人の風貌を見て、「マーシャルアーツmartial artsできるのか」と聞かれることがあります。
東洋の武道・武芸・武術を世界に知らしめたのはブルース・リーです。

今作は、ブルース・リーの師匠として知られる葉問(イップ・マン)の生きた中国武術家繚乱の時代の話です。
ブルース・リーの截拳道(ジークンドー)という武術の基が詠春拳(ウィンチュン)という武術であり、葉問は詠春拳の達人です。

舞台は、武術の町広東省佛山市。
有名な武術師、中国人のヒーロー黄飛鴻(ウォン・フェイフォン)の本籍地、ブルース・リーの本籍地でもあります。
時代は黄飛鴻没後、1930年代から始まります。

中国武術に精通していれば、大変興味深く観ることができます。
話は、北の八卦掌(バーグアジャン)、形意拳(シンイーケン)を極めた宮宝森(ゴンパオセン)の跡目争いから始まります。宮宝森は武術の南北統一を目論み、引退試合を開きます。
弟子の形意拳を受け継ぐ馬三、八卦掌奥義六十四手を受け継ぐ宮宝の娘、宮若梅(ゴンルオメイ)、そして南の詠春拳の宗師葉問が名乗りを上げ、宗師(グランド・マスター)の地位をかけて勝負に挑みます。
サイドストーリーとして北の八極拳遣い一線天(カミソリ)も登場します。

スローモーションを駆使したアクションシーンは息を呑むほど官能的です。スタイリッシュな映像は、アートの域です。
映像美にこだわったアクションシーンは、闘う者の息遣いが聞こえるようです。

後半は1936年以降、戦争と混乱の時代に突入します。
日中戦争で、武術師としての彼らの運命は時代の波に流されて行きます。
裕福な家に生まれた葉問は、戦乱の中、家や財産は没収されてしまいます。
武術家たちは、中国本土から香港に逃れ、戦後を生き抜きます。
生きるために、葉問は香港で「港九飯店職工總會」道場を開きます。ブルース・リーはこの時代に葉問の弟子の1人でしたが、葉問の香港でどう生きたかはあまり触れていません。

それぞれの武術の型が忠実に描かれていますが、所謂カンフー映画ではありません。
武術家として生きる葉問の技と心、そして生き方を描いた映画です。
もちろん、木人で修業を積むシーンも登場しますが、家族との時間もあり、葉問が人格者であることもわかります。

後半のテーマは宮若梅と葉問の思いを通じ合うことができないラブストーリーです。
『ブエノスアイレス』や『花様年華』の王家衛(ウォン・カーウァイ)監督らしい、抑えた大人の恋愛感情が描かれます。

いろんなカンフー映画がある中で、「王家衛がカンフーを撮ったらこうなった」映像にこだわった20世紀前半の中国武術を知る上で、参考になる映画です。

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snow2012

ゲストブロガー

snow2012

“宜しくお願いします。”