過不足無く、まるでドキュメンタリー映像を見ているかのようなリアリティ溢れる演出と、どのシーンにおいても次の瞬間に何かが起こりそうな予感を孕んだ緊迫感は凄まじく、実話を元にした政治的で血なまぐさい内容ながらも、それを極上のサスペンスとして紡ぎ上げてしまうキャスリン・ピグロー監督の手腕にただただ圧倒される2時間38分。
ウサマ・ビンラディン追跡から殺害に至った経緯が映画化される、それもキャスリン・ピグローが監督すると知った当初は、一体なぜそんな題材を描くのだろうか? という思いしかなかった。
それが観賞後には、この映画はキャスリン・ピグロー監督にしか撮れなかっただろうし、彼女以外には撮って欲しくなかったと思うようになっていた。
若くしてCIAのエリート分析官であるマヤ。
マヤとは別のアプローチで標的に近づこうとするジェシカ。
捕縛への足がかりとなる情報を見つけ出したスタッフ。
ビンラディン追跡チームの中のこの三人の女性の存在と、その役割や功績。
それを描いているのが女性であるという事。
鑑賞中、それらについてずっと思いを巡らせていた。
ああ、監督はこれを描きたかったんだな、というのがジリジリと伝わってくる。
骨太で緊迫感に満ちた臨場感溢れる映像で、それが綴られていくのがとてもスリリングだった。
始めのうちは、CIAの最重要任務のチーム内に女性が多くいるという事自体が意外だったが、この作戦の成功は、陰の女性達の活躍があったからこそなのではと観るうちに思わされた。それこそがキャスリン・ピグロー監督が描きたかったものなのではないだろうか。
「女の勘」という言葉だけでは説明出来ない、男性とは違った視点、思考回路を持つ女性ならではの思いつきや分析力、そして思い込みの激しさと譲らない頑さ。女性のそういった部分と、実際に矢面に立ち生死の境で任務を遂行する男性達の力とが上手く組み合わさって、ビンラディン殺害という結果に至ったのだと思った。
とにかく本当にドキドキさせられた。
心拍計をつけて観たらきっと監督の思い通りに上下してるんじゃないかと思う程。
クライマックス、ビンラディンの隠れ家と思われる邸宅への襲撃シーンは勿論、特に印象的だったのは、容疑者の携帯電話からの発信を辿り居場所を探る場面。市場で車を走らせながら、発信元の人物に近づいては離される。先の見えないウサマ追跡を象徴するかの様で、息詰まるシーンだった。
マヤを演じたジェシカ・チャンステインは観る度に表情、顔まで違って見えて別人のよう。 どの作品でも役柄そのものに見えてくる、稀で魅力的な女優さん。
シールズ隊員のパトリックを演じたジョエル・エドガートン、どこかで観たイイ眼をしている俳優さんだなと思ったら、『スター・ウォーズ』でルークの叔父の若い頃を演じた俳優さんだった。
こういったキャスティング隅々にまでリアリティを感じさせ、重厚な画と極限状態の心理戦を描かせたら今ピカイチで、そしてそれが女性監督によるものだと思う度にまた感心してしまう。
次は一体どんな題材を選び、描いてくれるのか。
キャスリン・ピグロー監督の次回作が今から楽しみだ。