2012-12-03

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●2012年5月にメタモルフォーゼ出演のため来日した際に行なわれたインタビュー。

ーー今回のステージにはテリ・ジェンダー・ベンダーがヴォーカルで参加しましたね。あなたが彼女のバンド=ブッチャレッツでベースを弾いたことは何度もありましたが、あなたのグループで彼女が歌うのは何回目なんですか?

「今度が初めてなんだ。でも2年くらい前、テリは僕の作品で歌ってくれたんだよ。そのアルバムは未だリリースされてないんだけどね(※『オクトパス・クール・エイド』というタイトルで、9月に国内盤が発売された)。作ったけど出していないアルバムが結構あるんだ。また日本に来ることになって、そのアルバムから幾つか曲をやりたいと思ったんで、いっしょに来て歌ってほしいって彼女に声をかけたわけ。日本でライヴをやるのは僕にとって本当に特別なことだから、毎回やる曲を変えたりして、違う内容にしたいと考えている。それで今回も、これまでとは違うアルバムからの曲をやろうと思ったし、テリを呼べば、彼女を日本のオーディエンスに紹介することもできて、その才能を知ってもらえるしね。そうやって経験を分かち合うことは大事だと思うんだ。どんな経験もともに分かち合うことによって、いっそうリアルなものになるからね」

ーー彼女と初めて会ったときの印象を聞きたいのですが、どんなきっかけで知り合ったのですか?

「初めて会った時、テリはとてもエキサイトしてた。僕と会って、新しいことができることに、そしてサポートを得られることに対してすごく喜んでいたんだ。というのも、メキシコはすごく男性優位の国で、女性がバンドをやるのは大変なんだよ。彼女はブチャレッツを始めて最初のうちはうまくやってたけど、そこから先が大変だった。ラテン文化では、とにかく自分が第一で、誰かがうまくやっていると許せなくなって、引きずりおろそうとする。とても奇妙だよね。同じラティーノの人間が成功をつかもうとしているのを見ると喜ぶんだけど、実際に成功すると落としてやろうとするっていう。だからテリはメキシコで苦労していたんだ。もう少しで成功をつかみそうなところまで来たら、あちこちから足を引っ張られて、ドアがどんどん閉ざされていってね。僕が、彼女のライヴを最初に観たのは、僕の家の近くでブチャレッツがライヴをやった時で、ちょうどメキシコに住んでいた頃だった。友達のバンドが出るっていうから観に行ったんだけど、会場が停電してしまって大変な状況で。だけどテリは、それにも構わず演奏していたんだよ。電気なしでライヴをやっている姿を見て、すごいと思った。それで翌日のランチに招待して、君らのアルバムをプロデュースしたいと言ったんだ。だって、とてつもないパッションがあるのがわかったからさ。それが僕らの出会いだった。彼女たちは、引きずり下ろそうとするんじゃなくて、認めて手助けしてくれる人が現れたのを喜んだよ。ラテン文化、特にメキシコは男性優位だから、女の子がバンドをやってると馬鹿にされる。さらにまた才能があろうものなら大変で、余計に嫉妬されてしまう。本当に、残念だよね(苦笑)」

ーーそれはいつごろのことですか?

「3年か、3年半前かな」

ーーでは、あなたやテリにとって、メキシコの風土とか、スペイン語とか、そういうラテンの文化というものは自分たちの芸術表現にどういう意味を持っていると思いますか?

「すべてだよ。僕たちを定義する、いちばん重要な要素だ。僕たちはラティーノだから、それが僕たちのカルチャーで、すべてをその目を通して見ている。アメリカに住んでいる時でも、ヨーロッパにいても、ラティーノはラティーノなんだ。日本人がどこにいても日本人であるのと同じだよ。だから、僕たちの文化のネガティヴなところにも、もちろん影響を受けている。自分の文化を愛しているからこそ、変わってほしいと願うところもある。だから僕が言ってきているのは、自分の文化を批判できなければ、愛しているとは言えないってこと。自分の文化を愛しているなら、それだけ批判していかなくちゃいけない。批判することによって良くなっていくわけで、そうしないと良くならない。だから批判することはポジティヴなことでもあるんだ。自分の文化をただ受け入れるだけじゃなく、正面から向き合うっていう」

ーーなるほど。

「とにかく、自分のアートから切り離すことはできないものだね。育ち方や食べてきたものとか、そういうものが、何に興味を持つか、何に惹かれるかということに関わってくると思うし。僕はプエルトリコで育ったんだけど、ラティーノって、日本人もそうだと思うけど、メタファーを大事にするんだ。それが文化の一部なんだよね。たとえばドイツ人は知性とか単刀直入であることを大事にするけど、ラティーノはメタファーを愛するところがある。死を祝福するようなところもあるし」

ーーわかりました。ところで、以前「日本でレコーディングして、日本に捧げるアルバムを作りたい」という話をしてくれましたが、その後の進展はどんな感じですか?

「もう日本でのレコーディングはしたんだよ。さっき言ったみたいに、作ったけど未だリリースしてないアルバムがいっぱいあるんだ(笑)。作ったものが溜まりに溜まっていてさ……何年かしたら出すことになるのかもしれない。ランダムにね(笑)」

ーー確かに、これまでにも大量のアルバムを出してきていますが、すでに自主レーベルを通じて、どんどんリリースしていく体制は整っているのですよね?

「うん、自分のレーベルを持っているのはいいことだと思う。というのも、何て言えばいいかな、たとえばスターバックスで働いていた人が、家族と一緒に自分のコーヒーショップを始めることになるような感じ。自分のコーヒーショップを大きくしようと頑張りつつ、あくまでも家族が基盤だと分かってやっているっていうね。日本ではスリープウェルがアルバムを出してくれてるけど、自分のスタジオで作ったアルバムを彼らに渡すのは、あくまでパーソナルなことなんだ。僕はすべてをパーソナルにしておきたい。だから自分のレーベルや、自分の制作会社を持って、自分で全部できるようになって、それから共感できて、僕を信じてくれる人を見つけて、一緒にやっていくのが大事なんだ。初めからパーソナルな関係があるのが重要だね」

ーーそうなってくると、たとえばメジャーなレーベルと大きな契約を交わしてその環境で創作をするというのは、あなたにとってどういう意味合いがあるでしょう。

「そうだな、メジャー・レーベルで問題になるのは、金銭的な取引なんだ。僕の場合、すごく恵まれていて、メジャー・レーベルとやってもクリエイティヴ・コントロールはずっと僕の手にあった。100%、契約でそうなってる。だから自分で書いた曲を自分で選んでアルバムを作ることができて、ユニバーサルでもワーナーでも、スタジオまでやってきたA&Rなんていなかったし、何か指示を出してきた人もいなかった。でもメジャー・レーベルとの契約は、金銭面において不公平なんだよね。メジャーは、これまでのシステムが機能しなくなっていっているのにやり方を変えようとしていない。インディでやる方がもっと公平になる」

ーーそれでもメジャー・レーベルともやっていこうというのは、それはそれでひとつの挑戦ということでしょうか?

「僕が今でもメジャーとやってるのは、まだ契約が続いているからさ。マーズ・ヴォルタの新作がワーナーから出たのは、今のところマーズ・ヴォルタの名前を彼らが所有しているからであって。契約上でそうなってるっていう。そういうことだよ。ははは」

ーーでは、マーズ・ヴォルタとしての今後の予定はどんな感じなのでしょう?

「今はアルバムが出たばかりで、これからはツアーに出て、アルバムの曲をやってっていう、以前までと同じだよ。その後どうなるかは正直よくわからないな」

ーー今年の夏はフジ・ロックにアット・ザ・ドライヴ・インとして出演するし、本当に様々な活動を展開していますが、とりあえず当面こうしていきたいという活動ヴィジョンがあれば教えて下さい。

「やりたいことはたくさんあるよ。ありすぎるくらいさ。さっき日本で作ったアルバムについて聞かれたけど、僕はそのうち日本に住もうと思ってる。どうやったらできるのかは、これから考えなくちゃいけないけど(笑)、理想としては日本に住んで、アルバムや映画をここで作りたいんだ。あとはそうできる方法を見つけるだけだね。そして、僕の夢は、簡単に言うと、アーティストとして完全な独立性を守ること。今はまだ契約があるけど、いつかは完全に自立したい。そうすれば日本にでもどこにでも自由に住めるし、もっともっと色んなことができるからね。完全な自由、それが最大のゴールだ。もう僕はすでにかなり独立してるから、おかしく聞こえるかもしれないけど、これでもまだ完全じゃないんだ(笑)。僕は完全な自由がほしいんだよ」

ーーわかりました。ちなみに、何作か前のソロ・アルバムに「どういたしまして」という日本語のタイトルをつけていましたが、あのタイトルにした理由を教えてください。

「あれって『You’re welcome』って意味だよね? アルバムを『You’re welcome』ってタイトルにしたかったから、日本語で何て言うのか友達に尋ねたんだ。僕は、日本語で『ありがとう』は覚えたけど、『どういたしまして』は覚えてなかったんだよ。面白いよね。他の国を訪れる時、そこに住まない限り、学ぶことは限られている。僕はもう21回だか何だか覚えられないくらい日本に来てるのに(笑)『どういたしまして』と言えなかった、そこが気になってコンセプトにしたんだ」

ーーあなたのような素晴らしいミュージシャンが日本という国に対して並々ならぬ好意を持ってくれていることは、日本人として非常に嬉しい限りですが、最近、日本に関して何か新しい発見をしたとか、面白く感じたことなどはありますか?

「僕がずっとやりたいと思っていて、やっとできるようになったのが、地下鉄のシステムを理解すること。自分だけで色んなところへ行けるようにね。日本の地下鉄は色分けされていて、とてもうまくできている。で、もう分かるようになったから、今回は友達のアダムを連れて回ったんだ。アダムはフィルム・エディターなんだよ。それから、僕は子供の頃から太宰治が大好きで、安倍公房も好きだし、黒沢明だって未だにいちばん好きな監督のひとりだし、日本の文化には昔からずっと惹かれてきた。日本とラティーノの文化には似ているところがあると思う。言葉もスペイン語に似た響きのものがあって驚くことがあるよ。よく世界の人々は日本が未来的だと言っていて、確かにテクノロジー面でもそうだけど、大事なのはそこじゃないんだ。(※この辺りからトークにどんどん熱がこもってくる)日本を本当に未来的にしているのは、進化した意識だと思う。僕は世界中たくさんの国に行ったことがあるけど、日本にあるような意識はどこにも存在しない。だから未来的なんだ。まず何より、他のどんな国だって、過去に日本が直面してきた問題を乗り越えて前に進むことなんてできなかったはずだよ。もちろんどんな国にだって暗い側面はあるものだけど、日本人の集団意識は称えられるべきもので、それは過去に向かうのではなくて未来に向かって、進化してる。小さな空間を大勢で分かち合えたりとかさ。君は日本人だから気付いているかどうかわからないけど、たとえば世界のどこでも、地下鉄の座席が布やベルベットでできているところなんてないよ。他の国はみんなプラスチックだ。公共のものであることを気にしないで汚してしまうからさ。みんなで使うんだからキレイにしておこうという意識がないんだ。日本人の若い友達に言ったら『それは分かるけど、若い世代の中にはその集団意識に疑問を持っていて、個人の意思はどうなるんだと思ってる人がいる』と言われたよ。でも僕は、高い意識を持った集団のほうが、無知な個人より何百万倍も価値があると思う。これがあるから日本は素晴らしくて、文明の最先端にいるんだ。だから僕は日本に住みたいんだよ。それこそクオリティ・オブ・ライフと呼ばれるものだ。進んだテクノロジーが理由じゃない。いちばん重要なのは意識なんだ。(フーと一息ついて)ちょっと興奮して喋りすぎちゃった(照笑)。これについて話し出したら本当に何時間もかかっちゃうよ(笑)」

ーーそこまで言ってもらえて本当に嬉しいんですが、やっぱりダメなところもたくさんあるし、個人的に、近年は特によくない方向に進んでいっているような空気も感じているんですよ。もっとアメリカみたいにしていこう、っていう人たちもいますし。

「うんうん、残念なことにグローバル化が進んで、誰もがアメリカ化されたいと願っているけど、それってストックホルム症候群みたいなものだよね。誘拐されるとその犯人を好きになるっていう。それが世界中で起きているんだ。世界はアメリカ文化に誘拐されて、アメリカは戦争や虐殺に金を出していて、それなのに破壊された国々は『アメリカを愛してる、もっとアメリカ文化をくれ』って言う。ただ、最初に日本に来た時から気に入っているのは、もちろんグローバル化されてるし、アメリカの会社もたくさん入って来てるけど、日本には自分の位置を守っている感覚があることなんだ。西洋文化を取り入れてはいるけど、独自のものもちゃんと持っていて、アイデンティティを失っていない。人によってはそれを閉じた国と見るかもしれないけど、僕はそう思わない。去年日本に起きた大きな問題を乗り越えられるような国は他にないと思う。乗り越える方法や時間のことを考えると、他のどんな国でも絶対無理だよ。だから日本の人たちには、どんなに自分たちが特別かを覚えておいてほしいんだ。学校にいる頭が良すぎる子と同じだよ。誰ともうまくやっていけなくて、ある時点で溶け込みたいと思って自分を変えてしまおうって感じるかもしれない。でもそんなことしなくていいって僕は言いたいよ(笑)」

ーーなんだかムズ痒いような気持ちもしますが(笑)、自分たちの良いところも悪いところもしっかりと見つめながら頑張っていきたいと思います。じゃあ時間なので最後の質問にしますが、最近キング・クリムゾンが過去のアルバムのサラウンド・ミックスをリリースしていますよね。あなたはマルチ・チャンネルに興味はないんですか?

「その前にもうひとついい(笑)? 日本人が独自のやり方を持っているのは、他の国とうまくやれないからじゃなくて、日本が他の国よりも前に進みすぎているからだ。他の国はついていけないから、日本のやり方を理解できないでいる。日本には独自のやり方があって、世界の他の国はまだそこまで到達できていないだけなんだ。だから分からないんだよね……ごめん、最後の質問なんだっけ?」

ーー(苦笑)サラウンド・リミックスに興味は?

「ないよ。僕には合わないな。自分のアルバムでそうしようとは思わないね。だって、一度作ってしまったら、それはそこで完結しているんだから、また戻ってリミックスとかはできないよ。もし他の誰かがやりたいって言うなら別にいいけど(笑)、僕にはできない。実はマーズヴォルタの最初の2作を5.1chでリミックスしてほしいってレーベルに頼まれたことがあったけど断ったよ。まあ、5.1で聴いてみたいとは思ったけど、自分でそれをやる忍耐はないというか、すでにやってしまったことをまたやり直すなんて無理なんだ。それって黒沢明監督の映画を編集し直すみたいなものでさ。だからリミックスには興味ないけど、もし新しいアルバムをそうやってミックスするチャンスがあるならやってみたいね。すでに完成しているものについて、過去に戻っていじり直すのは嫌なんだ。他のアーティストが昔の作品を手直ししているのもあんまり好きじゃない。アーティストは人生の鏡であるべきだから、その瞬間に起きていることをやるべきだと思う。そういえば、しばらく前に『ウォリアーズ』って80年代の映画を観たんだけど、監督が何年も後に手直ししていて、それが最悪なんだ。あまりにヒドくて、『どうして?!』って思っちゃった(笑)。アメリカのカルト映画で、未来を舞台にしたギャングの話なんだけど、それにコミックブックみたいなアニメーションを付け加えちゃったんだよね。どうしてだかまったく理解できないね」

I cry for you - Omar Rodriguez Lopez Group


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Omar / Rodriguez / Lopez / mars / volta


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