2012-10-21

『アルゴ』クロスレビュー:ドラマティックでスリルに満ち溢れた展開、細部における丁寧な時代考証は、娯楽映画として純粋に楽しめる要素をふんだんに備えている。 このエントリーを含むはてなブックマーク 

映画の舞台設定として、実際にあった事件を背景に置くということは、よくあることだ。しかし、事件の背景にあった「実話」を、映画によって明らかにするということは、そうあることではない。

「アルゴ」を観るまで多くの人は、6人の解放がカナダ大使館の尽力によって成し遂げられた快挙であったことは承知していても、その背後にCIAの活躍があり、その手法においてハリウッドの協力があったなどということは、知らなかったのではあるまいか。実際に、計画に至るプロセスからしても、あまりにも荒唐無稽であり、観終わった今に至っても「ホントにホント?」と疑念がよぎることは否めない。

しかし、実話であるかどうかということを抜きにしても、「アルゴ」は娯楽映画として、純粋に楽しめる要素をふんだんに備えている。
現地イランの緊迫とした情勢、CIAと米国内各種政府機関との相克、米国大使館員6人とCIA職員トニーの葛藤、時々刻々と変化する情勢に翻弄されながら、最後には決断し、リスクをとる道を選ぶトニーの人質救出作戦の敢行はまさにドラマティックで、スリルに満ち溢れたものであった。当時の街並みの様子や、人々の服装や眼鏡などデザインの細部において丁寧な時代考証が行われている点も、さすがと思わせた。
満員の試写会場を後にするとき、「本当に実話なの?」との疑問は抑え切れなかったが、さんざん楽しんでおきながら野暮なことはいうまい、と誓った。

しかし、ひとつだけ気にかかることがある。この映画で描かれた当時のイランの街並み再現など、現地ロケにあたっては、全てトルコ国内で撮影したとのことであり、当然、トルコ政府の全面協力があってのことと思われる。最近のシリア情勢におけるトルコとシリアとの軍事衝突や、核開発問題にゆれるイランとトルコとの不協和音など、きなくさくなる一方の中東情勢にあって、「アルゴ」のような映画が全世界に公開されることの意味について、である。

映画を観た人の多くは、イランは革命直後からすでに「悪の帝国」であり、核開発疑惑など現在に至ってもその定義にかなった行動をとり、世界中を恐怖に陥れている、という風に解釈するであろう。そして、勇気あるCIA職員が果たした「正義」を賞賛し、米国政府機関は「国際平和」の実現に向けて、今後においても重要な役割が期待されている、との刷り込みが容易にできてしまうことを、一方では懸念する。

この映画をもって単なるCIAのプロバガンダ映画だとは思わないが、あまりにもタイミング的に都合のよい「美談」の公表ではないだろうか。日本に数多く在住するイランの人々が、どのようにこの映画を評するか、機会があれば訊いてみたい気がする。

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M.-Cedarfield

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