スポーツシューズメーカー、ナイキの創業者フィ
ル・ナイトは、ビジネススクールの授業で提出し
たレポートをきっかけに、シューズメーカーを始
めることを思い立ちます。
しかし、元手がありませんでした。メーカーとい
えば、工場や設備の取得など、膨大な元手が必要
です。かといって資金をかき集めて工場をつくり、
それから商品開発を進めるのでは、時間がかかり
すぎます。
そこで彼は、日本のシューズメーカーのオニツカ
(現アシックス)を訪ね、「自分は、アメリカの
ブルーリボンスポーツという会社の社長だが、ア
メリカの事業で提携しないか」と持ちかけます。
もちろん、ブルーリボンスポーツなどという会社
はありません。要するにハッタリをかましたので
す。そして、商談がうまくいったところで帰国、
あわててブルーリボン社を設立、自ら開発した
シューズをオニツカに作らせることに成功します。
また、製品のプロモーションにも、膨大な資金が
必要です。そこで彼は従来型の、マス媒体から広
告枠を買うやり方は断念します。
そしてスポーツ選手、なかでも各分野でトップク
ラスの人間に的を絞り、資金援助をします。
対価として自分たちのロゴ入りシューズの着用を
義務づける契約を結びます。こうすることで、メ
ディアに広告を打たずとも、選手が活躍するたび
にナイキのブランドが消費者の目に触れます。
なかでも、「彼らのようになりたい」と考える若
者が、こぞってナイキのシューズを履くようにな
りました。
こうして、日本でハッタリをかましてから、わず
か16年で、世界の一流企業アディダスのアメリ
カでのシェアを逆転します。
このように限られた資金の中で、知恵を絞って
次々とビジネスを拡大していくスタンスは、お金
をかけない週末起業も同じです。
週末起業家の相談に乗っていると、夢を大きく持
ちすぎるあまり「週末起業でできるのか」という
視点が抜け落ちている人もいます。
もちろん夢をいだくのは自由ですし、私もできる
だけ大きい方がいいと思います。
ただ、自分の置かれた実情、つまりお金の面、時
間の面での制約条件は冷静に見すえておかないと、
結局、絵に描いた餅に終わります。
すぐれた経営は、はるか彼方の壮大な夢を見つつ、
足もともしっかり見えているものです。
そして足りないものは、知恵で補います。
むしろ制約の中で必死に考えるからこそ、フィル・
ナイトのような斬新なアイデアも生まれてくるの
です。
週末起業フォーラム 新井 一
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