哀愁漂う「ハーモニカ」の音色がチベットの情景を想起させる。
そんな映画の冒頭。
主人公は幼い少年。
中国政府による大量虐殺を逃れインドに亡命した少年の日常に迫った一作。
両親と離れて暮らすという「傷」を背景にしながらも、隣国の地で明るく振る舞う。
時には浮かない表情も写る。一方で、無邪気な笑顔は日本にいる同い年くらいの少年となんら変わりはない、ということをフィルムから感じる。
時折、強調されるダライラマの写真。チベット国旗。
「空を見上げてごらん。(中略)そこが私の故郷。」という歌のフレーズが心に刺さる。
また、亡命の道中の際の苦労を涙ながらに語る別の少年や、事実を淡々と話す女性。
政治的な描写がほとんどない中、それらの事実に「政治的な現状」を思わずにはいられない。
しかし日本人であるこの映画の監督は、その「現状」から自由なところで、かつ離れたところから描こうとしている、そんな気もする。
ただチベットの持つ「独特な」魅力を表現したいだけなのでは。
なんとなく懐かしさを感じさせるハーモニカ。
山脈の裏側を隠すように広がる壮大なヒマラヤ山脈。
またその山々を前にし無邪気な笑顔を見せる「オロ」。
「もしも私に翼があったら、あなたを迎えに行くのに。」
何度か出てくるこの歌詞に、涙を流さずにはいられなかった。