個人的にしばらく前から移住を考えていて、先日、辺りをつけた場所を訪れてみた。
そこは空気も食べ物もおいしくて、物価も東京よりずっと安い。でもなぜだかいまひとつ、移り住むことに前向きな気持ちになれないでいた。
映画は、主人公の「建てない建築家」坂口恭平さんがモバイルハウスを作るワークショップを行っている場面から始まる。坂口さんと共にインストラクションを行っている男性は、隅田川沿いに住む、いわゆる路上生活者の方だということが解る。
そこで、映画を観ている私も、恐らくこのフィルムを撮られた監督も、少し引いた視線になる。
でも坂口さんの彼に対する視線は、あくまでも師や友人に対するものだ。
やがて、多摩川河川敷に住むもう一人の路上生活者の男性(でも彼は、主に拾ってきた廃材を用いて、自分の住処を構築出来るスキルを有するひとなのだった)を師匠として、ホームセンターから3万円でお釣りの来る金額で購入した材料で、モバイルハウスを実際に作ってゆく過程が描かれてゆく。
当初、あんた本当に作るの?とやや斜に構えているように見えた「師匠」が、徐々に、坂口恭平さんの持っている独特の熱のようなものに、たぶん巻き込まれて、本当に楽しそうに協働して、ひとつのハウスを作り上げてゆく。その二人の様子になんだか『希望』が見えた。
私事に戻ってしまうと、移住したい、とは、物理的に移転したい、ということより、人や物事と今までと違う関わり方がしたい、関係を持ちたいということだったのかな、とぼんやりと思い当たった。
映画のなかの「師匠」たち同じく「坂口恭平熱」を体験したような帰り道、まずは気持ちの位置を移動することかな、と、近所のいつもと同じ景色を見ながら思ったのだった。
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