上映前のイベントでゲストの夏木マリさんが何度も「変な映画です」と繰り返していた。確かに変な映画だった。登場するのは市井の人々たち。普通の人たち。淡々と、時にはドキュメンタリーのように物語が綴られていく。
しかし、魅力的な映画だった。観ていて楽しい気分になるわけではない。むしろ胃が鈍痛を密かに訴え続けていたように思う。見終わった後も少しもすっきりはしない。何ひとつ新しい希望が持てない、ほぼ最初と変わらない状況でエンディング・クレジットが現れるのだ。だが、私の目は飽きる事無くスクリーンに釘付けになっていた。
妻の狂気に夫が耐え切れず、感情的に対応するシーンが何度も登場するが、実は狂っているのは夫の方で、妻が真実を語っているのではないかと思わされる台詞がいくつかあった。
人間性を失っているのは、もしかすると仕事に忙殺されている夫の方なのかもしれないのだ。
この映画が作られたのは1974年である。アメリカはその前年ベトナム戦争に事実上敗れ撤退を余儀なくされた。「強いアメリカ」のイメージが崩れ、「病める大国」の表情が明らかになってくる時期だ。政治や外交の話題は一切出てこないが、人種問題や薬物中毒については劇中に垣間見ることができる。監督が意図したわけではないのだろうが、私には「こわれゆく」20世紀アメリカの黄金時代が背景に透けて見える気がした。
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